第2話 三年前の春

私たちが付き合っていたのは、わずか三ヶ月だった。

彼は私より四つ上の大学四年生。就職が決まった優秀な先輩だった。あの日も、彼はこの図書館の同じ席に座っていた。

「ここ、座ってもいい?」

そう聞いた私に、彼は微笑んだ。「いいですよ」その返事から始まったのだ。

毎日、午後の陽だまりの中で、私たちは言葉を交わした。勉強のこと、恋のこと、人生のこと。彼の大きな手が、時々私の手を握った。

「藍子の夢は何ですか?」

「編集者になることです。本を通じて、世界中の物語を人たちに届けたい」

「そっか。絶対になれますよ。君なら」

その言葉が、どんなにか支えになったか。

でも、春は短かった。

「ごめん」

彼がそう言ったのは、初夏の夜だった。

「僕の親が決めた人がいるんだ。昔から約束されてた」

その言葉で、全部が終わった。

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