第5話 ぼくは、都合の良い観客で良い。
彼女が、この舞台の本当の支配者だと気付いてから。
僕は、窓際の一番後ろから芝居がかった彼女の沈黙、所作をただ一人眺めるようになった。
この舞台の脚本家が時折、僕という唯一の観客の存在を確かめるように、冷たい視線を送ってくることにも気付いていた。
僕たちの歪んだ対話は、ある日囁きから次第にエスカレートしていった。
「葵くんが、また見てる。気持ち悪。」
女王である涼子のその一言で、僕は「ストーカー」という名の、醜い役柄にキャスティングされた。
無論、これも岬の書いた脚本なのだろう。
きっかけが涼子であれ、無言の肯定がある。
廊下ですれ違えば、涼子にわざとらしく肩をぶつけられ、取り巻きの由美には、怯えと苦痛の入り混じったような顔で避けられた。
高松真央は、特段知り合いでもなかったが終始怪訝な顔で僕を睨みつける。
由美は、同じ小さな小学校からの出で、ずっと男女関係なく仲良くしてきたはずだった。
それでも僕たちは、互いを観察することをやめなかった。
脚本家にとって、観客がいなければ舞台が成立しない。
僕は、ストーカーと言う役で舞台に立ちながら、岬の共犯者にでもなったつもりでいたのだろう。
僕は、この都合の良い観客をしばらく続けることにした。
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