第26話 底知れない実力
昇格の手続きをしてから一週間後。
新宿ダンジョンの90階層にて。
「あっ、皆さん聞こえてますか~」
俺は木戸さんの持つカメラに向かって尋ねる。
一般人:おっ、始まった
一般人:野田お久
一般人:体調はどう?
「心配ありがとうございます。この通りもうバッチリです!」
医者の忠告通り、キツめの筋肉痛は来た。
ただ、最近の鎮痛剤はすごいもので、飲めばたちまち痛みを感じなくなる。
おかげで、回復するまで苦しい思いをせずに済んだ。
「では、昇格記念憂さ晴らし配信はじめ~す!」
一般人:あれ?
一般人:なんかテンション高くない?
一般人:憂さ晴らしするテンションではない
一般人:めっちゃニヤついてるw
元メンバー:良いことでもあったか?
「あっ、やっぱり分かります?」
一般人:やっぱり何か
りかファン:これは、りかちゃんと……
「香月さんとの関係は、記者会見で言った通りですのでご安心を」
一般人:即答w
一般人:本当か?
「本当。本当ですって」
実際、俺と里香は付き合ってない。同じベットで一夜を過ごしたが、断じてやましい関係にはなっていない。
だから、昇格手続きをした翌日の記者会見で、里香との関係について聞かれた際にもキッパリ答えたのだ。『アイラを失って間もないので恋愛云々は考えられない』って。
ちなみに、この手の質問が来た時について里香に相談したら、『私はそういう関係と公言してもらって大丈夫ですよ』と返って来て参考にならなかった。
一般人:で、結局いいことあったん?
「はい。それがですね~」
自分でも分かるくらい頬を緩ませながら、俺は一本の剣を構える。
聖剣と言っても差し支えない白金と金をベースにした神々しい剣だ。
一般人:新しい剣?
一般人:おニューで興奮してる?
「それもあります。でも一番は、これが白金竜の魔鉱石からできてることなんです!」
一般人:白金竜?
一般人:それがどしたん?
元メンバー:白金竜の魔鉱石は超激レア
元メンバー:↑推定20億~30億
一般人:はっ……!?
一般人:意味不明w
「さすがは元メンバー、解説ご苦労」
一般人:気が大きくなってるw
一般人:まあ無理もないか
一般人:数十億の剣だし
上:超羨ましい
一般人:日本最強!?
一般人:日本最強が羨むレベルか
「ちなみに上さん、今日はどうして配信に?」
上:最上の剣の性能が見たかった
どうやら、純粋に剣の事が気になっただけらしい。
「雅人。自慢話はいいから早く本題に入れ!」
気分よく話していると、牧さんが話を進めるようまくしたてる。
そういう牧さんだが、この配信の前にちゃっかり一人で配信して、そこで盛大に新しい武器について語りまくっていた。
ただ、視聴者としてもこのままダラダラと話を続けてもつまらないのは事実なので、渋々話を進めることにする。
「え~今回の配信ですが、前回まであった俺抜きの配信の続きになります」
実はこの配信の前に、武器のなかった俺を除いて、牧さんたち幹部三人はこのダンジョンで配信を行っていた。
「改めて簡単に目的を説明すると、最前線にいる上さんたちに追いつくことです」
現在、新宿ダンジョンの最高到達階層は153階層。
そこへ到達し、最前線の上さんたちに合流するのが、昇格後に与えられた最初の仕事だった。
牧さんたちはまだ俺が到達した90階層まで攻略が進んでいなかったため、俺が不在の間に配信をしながらそこまで到達してもらったという訳だ。
「それじゃ早速、攻略開始~!」
一般人:テンション高w
元メンバー:武器使いたいだけだろw
あっ、バレましたか?
まあ、この一週間ずっとこの時を待ちわびていたので許して欲しい。
高鳴る胸の行動を抑えきれずに、俺はいの一番に駆け出した。
※※※
これは凄すぎる……っ!
新しい相棒、聖剣(仮)は想像以上の凄さだった。
何がすごいのかというと、とにかく軽くてよく切れる。
そして、威力が半端ない。
紫冥将ほどではないが、剣を振り払った衝撃圧だけで高階層の魔物にしっかりダメージを与えられる。
これはもはやチート級の武器だ。さすがは云十億の世界。
楽しくて楽しくて仕方がない……っ!
時間を忘れ、夢中で俺は高階層を走り抜ける。そして――
「何か、飽きた」
100階層までほぼ俺一人で戦闘をし続けた結果、俺はボソッと呟いた。
最初は楽しかったが、何というか、ただスカッとするだけ。
前みたいに知恵を使ったりせず、脳筋で剣を振るうことに近いので楽ではあるのだが、単調過ぎてつまらない。
思い返してみると、他の三人が配信している時も新しい武器で圧倒していたが、正直、楽しそうではなかった。
「あの、皆さん。そろそろ交代してもらっても……」
今まで黙って後ろをついてきてくれた三人に視線を向ける。
「雅人。分かるだろ?」
「まだ、早いわよね?」
「雅人くんは、一番若いよね?」
どうやら、代わってはもらえないらしい。
「これが強すぎる故の孤独という奴か」
一般人:何言ってんだw
本当にそう思います。
結局その後、120階層まで全て俺が一人で戦い。
内容が単調化しそうだったので、この日の配信は終了となった。
ちなみに、俺たちがつまらないと思っていた一方、同時接続数は100万を超えていて、想像以上に俺たちが注目を集めていることだけは分かった。
「なあ、雅人」
配信を終え座って休憩しているところに、牧さんが横に座る。
「何ですか?」
「さっさとこの仕事、終わらせね?」
「ですね」
配信を始めたのが正午で、今は15時を丁度過ぎたところ。
正直、聖剣(仮)がチート武器過ぎて体力は有り余っている。
そして何より、仕事としてダンジョン攻略するのは本当につまらない。
最初はチート武器の性能故に楽しくないと思ったが、それは違った。
ダンジョンはやっぱり、人に言われて来るところではない。自発的に挑むものだ。
これが昇格の代償というやつなのだろう。
やっぱり、昇格なんてするんじゃなかった。
今さら言っても、もう遅いけど……
「四人でやれば、今日中に上がれますかね?」
「二人はどう思う?」
「まあ、何とかなるんじゃない?」
「おじさん。頑張るよ」
「では――」
「「「「さっさと終わらせるか」」」」
それから休憩を挟みつつ、日付が変わるまで攻略を続けた結果。
俺たちはあっさりと最前線にたどり着いた。
多分、ほとんど苦労することなく来たと思う。
やっぱ、チート武器ってすごいや。
これなら紫冥将とだって、結構いい線で戦えると思う(多分)。
とりあえず、上さんに追いついたことだけ報告して、俺たちは粛々とダンジョンを後にした。
※※※
就寝前。入浴を終え、ちょうど良い眠気が来る頃だった。
「は……?」
宗一郎はスマホに来た雅人からの報告に、自分の目を疑った。
自分たちが十年近くかけて攻略していった階層を、たった半日で到達したというのだ。
信じられない話だが、153階層の背景と共に覇気のない四人が映った写真が添付されていたので嘘ではない。
「俺は彼らの実力を見誤っていたようだ」
雅人は武器の性能のおかげと言っていたが、絶対にそれは違うと宗一郎は断言できる。
確かに聖剣(仮)は突出しているが、宗一郎たち最前線の探索者たちの武器もそれに負けず劣らずの性能だ。
なのに、ここまで差がつくということは――
「まさか……」
ここまで来て、ようやく宗一郎はある可能性にたどり着く。
「彼らはまだ、一度も本気を出していない?」
正確には、本気を衆目にさらしたことはない。
「はは……」
雅人が紫冥将と戦った時に見せたものは、彼の実力の片鱗でしかないのでは?
底知れない元ALL幹部の実力に、乾いた笑みを漏らす宗一郎だった。
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