四章 英雄の誕生
第24話 幹部会議
紫冥将との激闘があった日の翌日。
「それじゃ、雅人さん。また」
「ああ。気を付けてな」
俺は里香を自宅の最寄り駅まで送り届け、別れを告げる。
昨日の配信で里香との関係について話題になっていることもあり、しばらく二人でいるのは控えることになった。
やましい関係はないとはいえ、それでも邪推してくる連中はいるということで、やむを得ずだ。
里香と別れると、彼女とは反対方向のホームに移動し、秋葉原を目指す。
昨日の件を受け、元ALL幹部の方でも対策を練る必要があるということで、急遽、幹部会議を開くことになった。
幹部会議は木戸さんが経営するメイド喫茶の地下室でいつも行っており、そのための移動だ。
環状線に揺られること約20分で秋葉原に到着すると、慣れた足取りで目的地まで移動する。
営業時間前で正面入り口は開いていないため、裏口に回りインターホンを押す。
『どちら様ですか?』
「えっと、野田です」
『えっ、雅人くん……?』
普段ならすぐ開錠されるのだが、ロン毛のウィッグを被っていたせいで俺だと気づかなかったらしい。
慌てた声と共に、木戸さんが開錠してくれる。
少しだけ申し訳なく思いながら店の中に入り、地下室に向かう。
そして地下室に入った瞬間。木戸さん以外の二人から盛大な笑い声が上がった。
「おい雅人、何だよそれ……っ」
「雅人くん、すごいセンス……っ」
牧さんと宮辻さんが噴き出した。
「そ、そんなに変ですか……?」
すぐに二人が首肯する。
俺的には普通だと思うし、里香だって別段おかしいとは言わなかった。
これはきっと、二人の感性がおかしいだけだ。
「雅人くん。飲み物もってきたけど、アイスコーヒーでよかった?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ。全員揃ったところで、始めようか」
木戸さんがそう言うと、牧さんと宮辻さんは表情を一瞬で引き締める。
「今日みんなと相談したいのは二つ。まずは協会から来ている昇格通知について」
昇格と聞いて、俺を含め露骨に全員が渋い顔をする。
「おじさんとしては、正直これはもう逃げられないと思う」
「そうだな」
「ええ」
「「「主に雅人(くん)のせいで」」」
「その件は本当にすみませんでした!」
俺は即座に膝をつき、誠心誠意で土下座する。
転移罠後の炎竜王戦や、新宿での紫冥将との戦闘など、Aランクの域を超えた戦いを衆目にさらし過ぎた。
加えて、極めつけは先日の配信を見た日本最強からの協会への昇格要請だ。
意図して今回のような展開になったわけではないが、世間は当然、俺や俺と同等の力がある幹部に注目する。
こうなっては、世間が昇格拒否を許さない。
「ここは潔く、昇格を受け入れるべきだね」
「木戸さんがそう言うなら」
「しょうがないわね……」
「本当にすみません……」
本当に三人には申し訳が立たない。
それほどまでに、今回は大きなやらかしをしてしまった。
「まあ、こうなった以上、Sランクの特権を乱用しまくってやろうじゃないか」
「ええ。とりあえず、今まで私を苦しめたストーカー共をボコボコに――」
「物騒なこと言ったらダメだよ。真己乃ちゃん。とりあえず、おじさんは秋葉原の王様に」
みんな色々と言っているが、自由を拘束される分、Sランク探索者は破格の待遇を受けることになる。
その拘束が非常に厄介な部分なのだが……
「それで木戸さん、二つ目の話ってのは?」
「おじさん達のレベルアップについてだよ」
この会話を視聴者が聞いたら、日本最強の一角が何を言っているのかとコメントされそうだが、俺たちは至って真剣だ。
俺たちは日本最強の探索者である以上、常に危険を伴う要請を国から受けることになる。場合によっては、近い将来、紫冥将との戦いを余儀なくされることだってあるのだ。
その時に備えて、実力を今以上に高めておく必要がある。
「雅人くん。今の私たちが四人で紫冥将と戦って、勝てると思う?」
「そうですね……」
現状を知るための宮辻さんの問いに、紫冥将との戦いを振り返る。
もしあの場に皆がいたとして、勝てるのか。
「最低でも誰か一人は犠牲になります。その上でワンチャンって言ったところです」
俺の回答に、三人が表情を曇らせる。
紫冥将に勝つには、誰かが犠牲になって強烈な一撃を防ぎ、他の三人が全力で攻撃を叩き込める状況を作る必要がある。
それでも、三人のうち一人の攻撃は防がれるだろうし、紫冥将の防御力が想像以上で、他の二人の全力攻撃でダメージゼロなんて可能性もある。
ワンチャンと言ったが、実際の勝率は本当にゼロに等しいかもしれない。
「木戸さん。どうする?」
「共有資産を使うしかないだろうね」
「やっぱり……」
「まあ、仕方ないですね」
木戸さんの決断に、俺たちは仕方ないと頷く。
共有資産。それは俺たちALLが、アイラ引退のファイナルライブの際に盛大に貢ぎまくろうと貯めていた、希少な魔鉱石の数々のこと。
希少な魔鉱石の多くは、メタルやゴールド、プラチナといった
今まで俺たちが使っていた武器も、AランクからSランクの魔物の魔鉱石を使用した一級品で、値段も軽く三桁万円を超える代物だったが、紫冥将の一撃を受けただけで粉々になってしまった。
そういうわけで、武器の強化は最優先で解決するべき課題というわけだ。
共有資産を利用すると決めた俺たちは、黙って席を立って木戸さんの後に続き、地下の倉庫の中へ入る。
倉庫の中は、金属色の魔鉱石が所狭しと並べられている。生々しい話、総額で数十億は優に超える代物たちだ。
後はこれを、どう利用するかだが――
「雅人、お前がこれを使え」
そう言って牧さんは、この中で最も希少な白金竜の魔鉱石を渡してきた。
「いいんですか……?」
「お前が一番この中で注目株だからな。それに」
「武器の相性的に、竜種は私たちに合わないわ」
「そういうこと」
「皆さん……」
全員、異論はないらしい。
これで俺は、現状、最も優れた剣の素材を手に入れたことになる。
「おいおい。早速ニヤニヤしてんじゃねえよ」
「全く、雅人くんったら」
「若いっていいね~」
「そ、そんなこと言われたって」
さすがにこれは上がる。
ダンジョンには当分行きたくないと思っていたが、これは思ったより早く復帰することになるかもしれないな。
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