第3話 じゃんけん
ダンジョンの各階層にはポータルと呼ばれる装置があり、一度踏破した階層には自由に行き来することができるようになっている。
仙台のダンジョンに来るのは皆はじめてだったため、今回は第一階層からの攻略になる。
「低階層の攻略見せても雑魚狩り専門とか言われそうなので、ここはかっ飛ばしま~す」
ダンジョンの各階層は迷宮となっていて、次の階層へ繋がるゲートを見つけることで踏破したことになる。
つまり、やろうと思えば戦闘を一切行わずに踏破することも可能なのだ。
スライムやゴブリンを無視して次のポータルへ向かっていると、イヤホンからボットがコメントを読み上げる。
元メンバー:雑魚狩り専門まだ根に持ってるw
一般人:↑俺含めそう思ってる奴が大半
一般人:元メンバーに喧嘩売るスタイルw
元メンバー:幹部は別格なので乞うご期待
一般人:↑期待しとくわ
存分に期待してください。
多分その期待の十倍はすごいと思うので。
口に出すとまたコメ欄がうるさくなるので、心の中でそう思いながら戦闘を行うことなく階層を攻略していく。
すぐに次階層のゲートに着けるのは、すでに攻略済みの階層のゲートの位置が協会のアプリに登録されているから。
ダンジョンの規模は場所によって異なっていて、10階層くらいのところもあれば、100階層を超えてもまだ続いているものもある。
仙台のダンジョンはまだ全容が分かっていないダンジョンで、現在の最高到達階層は45階層であるため、そこまで探索に手こずることはない。
道中でパフォーマンスをかねた戦闘をこなしつつ、小一時間で20階層まで到達する。
「そろそろ休憩にしますか?」
俺の問いに、他のメンバーと視聴者から同意を得る。
休憩ついでにコメントを見てみると、手際が良いなど好意的なコメントがちらほら見られるようになった。
とはいえ、依然としてこんなのは当然だの大したことないといったコメントが多数な状況は変わらない。
まあ、本番まで楽しみにしといてくださいよ。
そう思っていると、コメント欄に質問が投稿される。
初級探索者:どうして全員近接戦闘型なんですか?
視聴者の中には当然、他の探索者もいることだろう。
こういった疑問が出てきても不思議ではない。
従来、パーティーを組んでダンジョンに入る場合、タンクや後方支援といったジョブを決めて臨む場合が多い。
対して俺たちは全員が近接武器。
俺が片手剣で、牧さんがかぎ爪、木戸さんがハンマーで、宮辻さんが薙刀だ。
「せっかくですし、牧さん答えてあげてくださいよ」
「何で俺なんだよ。まあ、いいけどよ」
元メンバー:さすが牧さん!
元メンバー:まあこれは牧さんが妥当だろう
一般人:↑どゆこと?
「基本的にALLはソロで荒稼ぎすることが多い。どうしてか分かるか?」
一般人:友達がいないから
一般人:みんな自己中
「けっこう辛らつだな……だが、自己中ってのは的を射てる」
一般人:で、答えは?
元メンバー:↑ALLの闇の一部を知ることになる
一般人:↑どゆこと?
「結論からいうと、パーティー組むと取り分の言い争いになるからだ。俺たちは誰が一番アイラに貢いだかを争ってたんだ」
「ちなみにそれは若手部隊が一番すごいです」
牧さんが答えるのが妥当という元メンバーのコメントの意味を、俺が補足する。
俺が牧さんに話を振ったのはまさしくそれが理由だった。
学生部隊は金がなくて良い装備を変えない奴がパーティーを組むことがそこそこあったが、若手部隊は違う。
ガチで誰が一番貢げるかを争っていた。そしてリーダーの牧さんはその中でも断トツで一位。
実はダンジョンでの稼ぎで貢いだ額はALLでは牧さんが一番多かったりする。
「というわけだ。期待するような答えじゃなかっただろうが、許してくれ」
初級探索者:ありがとうございます
一般人:↑お礼を言えただけ偉い
元メンバー:なんかすみません
サークルが抱える闇の一端に、コメント欄が変な空気になる。
俺は空気を換えるために立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ再開しま~す」
気だる気にそう言ってから、ダンジョン攻略を再開する。
そして一時間後――
「皆さん、炎竜を見つけましたよ~」
場所はフロア全体に草原と広葉樹林が広がる36階層。
その中央にあるなだらかな丘陵で、全長10メートルはある、全身を赤い甲羅で覆われた双翼の炎竜が、寝息を立てていた。
目撃されたのは38階層だったが、どうやらここまで上がってきたらしい。
このペースなら数日で低階層にまで来ていたかもしれない。
憂さ晴らしが目的とはいえ、討伐依頼を受けて正解だ。
一般人:ようやく炎竜の登場か
一般人:あれと戦うのか、廃人ドルオタたち
一般人:廃人ドルオタの実力拝見
炎竜の登場に、コメント欄が一気に盛り上がる。
さて、皆さんお待ちかねの時間だ。
思わずテンションが上がり始めてると、今までカメラを持ってくれていた木戸さんが俺の前に来る。
「どうしたんですか、木戸さん」
「雅人くん。これ、頼んだよ」
そう言って、俺にカメラを手渡そうとしてくる。
「ちょっと待ってくださいよ。カメラ持ってたら戦えないじゃないですか」
「それは僕も同じだよ。だから」
「いや、だからって」
「雅人。察してやれよ。木戸さんだって色々たまってんだ」
「そうよ。ここは若者らしく、譲りなさい」
「何、席を譲れ的なニュアンスで言ってるんですか」
一般人:なんか急に喧嘩が始まったw
一般人:みんな炎竜でストレス発散したいんだよ
元メンバー:恥ずかしい……
「雅人。俺はてっきり言い出しっぺのお前がカメラを持つと思ってたんだがな」
「――っ」
「そうよ。それをここまで木戸さんがやってくれたんだから」
「み、皆だって賛成したじゃないですか……っ!」
「雅人くん。ごめんよ、おじさん色々たまってるんだ」
ヤバい。このままではここに来た本来の目的を果たせない。
「分かりました。木戸さんはいいです。ですが、他の二人はこれで勝負です」
そう言って俺はグーチョキパーと手を動かして、勝負でカメラマンを決めようと提案する。
「雅人。お前子供みたいなこと言うなよ」
「そうよ……」
二人は苦笑を浮かべているが、コメント欄は大盛り上がりだ。
一般人:じゃんけんでカメラマン決めるなw
一般人:いいぞ、やれやれ!
一般人:学生リーダーが負けるに一票
元メンバー:↑同じく
「視聴者はこの様子ですよ。これでも逃げますか?」
二人は顔を見合わせ、仕方ないとため息をついて手を前に出す。
「それじゃ――」
「「「じゃんけん」」」
ぽんと、俺はチョキを出した。
対する二人はグーだった。
「そんじゃ雅人」
「後はよろしく~」
一般人:あらら~
一般人:たまってる木戸さんに免じて我慢
元メンバー:学生リーダードンマイ
てっきり煽られるかと思ったが、コメント欄は意外と優しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます