第17話 派遣社員・糟屋の悲劇:ヘルニアという名の事故】

糟屋と食品工場の重圧

​「派遣社員・脇坂」が故郷の火災の悲しみに沈む頃、同じ派遣会社「ブラック・ホール・エージェンシー」で働く別の派遣社員、糟屋は、絶望的な現実に直面していた。

​ 糟屋の担当する現場は、気温が低く常に床が濡れている冷凍食品工場だ。彼の主な業務は、重い段ボールや冷凍されたブロック肉を、一日中、中腰で運び続けることだった。

​ 数週間前、糟屋はすでに激しい腰痛を訴え、上司に業務変更や休暇を求めていた。しかし、派遣先と派遣元、両方の上司は揃って冷酷だった。

​ 派遣先の現場監督は「人手不足だ。休むなら代わりを見つけてこい」と一蹴。

 そして、派遣元の上司(かつて山田太郎が制裁した六角の後任)は、「派遣は体が資本だ。自己管理ができていない。この時期に休むと契約打ち切りになるぞ」と脅しをかけた。

​ 太郎が六角を事故死に見せかけて始末しても、派遣会社の体質は何一つ変わっていなかった。

​ 痛み止めの薬と湿布でごまかしながら、糟屋は腰にコルセットを巻いて食品工場へ通い続けた。薄給で契約を切られることは、生活の破綻を意味した。

​そして、ある日の夜勤。冷たい床で、重さ数十キロの冷凍ブロック肉をリフトに載せようと持ち上げた瞬間、激痛が糟屋の全身を貫いた。

​「ああっ…!」

​ その場に倒れ込んだ糟屋は、もう二度と自力で立ち上がることができなかった。

​ 診断結果は、重度の椎間板ヘルニア。

​ その後の派遣会社や派遣先の対応は、さらに冷酷だった。

​「業務との因果関係は不明」「自己都合による休職」とされ、労災の申請はうやむやにされ、契約は一方的に打ち切られた。

​ 糟屋が負ったヘルニアは、山田太郎が企てるような「事故」ではない。それは、薄給と人手不足に喘ぐ、現代の「非正規雇用」という名の社会的な重圧が、一人の労働者の身体を文字通り**押し潰した「構造的な事故」**だった。

​ この惨状を、派遣会社の休憩室で聞いた山田太郎は、感情を表に出さないまま、自販機のコーヒーを啜った。

​「腰痛…ヘルニアか」

​ 太郎のリストに載るのは、悪意を持つ悪人たちだ。しかし、この派遣会社と社会構造そのものが、**悪意なき「事故」**を次々と生み出している。

​ 太郎は静かにスマホを取り出し、ある番号に電話をかけた。

​「…俺だ。お前の新しい制裁計画に、腰痛に効く特別な薬が必要になった…」

​ 太郎の次なる「事故」は、**「ヘルニアになった派遣社員・糟屋」の怒りを代理で晴らす、「派遣会社全体」**を標的とした、かつてない大規模なものになるのかもしれない。

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