第7話 夜なべをします
どうも、夜遅くまで何かしている神父です。
子供達が寝静まった頃に私は色々な作業をしているのです。
睡眠時間?私は短時間での睡眠で十分に動けるので問題ないです。
さて、私がするのは椅子作りです。流石に年季が入ってきたのがいくつかありますので新しいのを作ります。
え?DIYじゃなくて買った方が早い?
もちろんそうですが、そんな余裕はあんまりないので…………
何事も節約です。ここは現代みたいに安価にものは買えないんですよ。
物自体は用意していますので、ランプに灯りをつけて木材をノコギリで切ります。
ギコギコギコと小さく音を出しながら思っているサイズに切り分けます。
そして釘と金槌を用いてコンコンと叩きながら固定していきます。
流石に手慣れたものです。この教会にある木製の棚や椅子の殆どは私が作りましたからね。
最初の頃は大変でしたよ、いくら転生者とはいえ大工はど素人ですから。
方法は分かっていても技術はないという苦労。試行錯誤を繰り返してようやく人前に出せるレベルになりました。
本来なら日中にやるべきですが、業務が忙しいのでこのような空いた時間にしかできないのです。
子供達にやらせるというのも、ノコギリとか刃物はあまり触らせたくないので…………
よし、ひとまずは一つ目が完成。あとはペンキでも塗って色をつけたらなおよしです。
何色にしましょうか、黒でもいいですが、赤も捨てがたい。
白色は汚れが目立つのでちょっと遠慮します。
赤のペンキにしましょう、派手な色は子供達が好みますし、黒だと割と暗くなりやすい室内で見つけにくくなってしまうので赤色にします。
事実、電気とか文明の機器は基本的にないので灯りは蝋燭やランタンのような原始的な火が基本になります。
もちろん魔法で明かりを灯すこともできますが、色々と無駄がありすぎるので誰もしません。
それに、そんなものが急に現れたら蝋燭屋さんの経営が一気に傾いちゃいますからね。
っとと、塗ってる最中は集中しないとこぼして…………
どぅわっ!?あっ、ああ!やっべ、やらかした!
こほん、少々取り乱してしまいました。
うっかりペンキをひっくり返してしまい服にかかってしまいました。
ああ、洗濯が大変になるというのにこのようなことになるなんて不覚を取りました。
自業自得ではありますが選択の準備もしておかないと。いや、どうせ汚れるのであればこのまま続行しましょう。
なに、神父服はまだまだあります。同じ柄の物を10着も保管しているので大丈夫です。
落ち込んではいられない、作業を早く終わらせて服に染み込む前に洗わないと…………
「どなたか!どなたかいらっしゃいますか!?」
そう思っていた矢先でした、突然教会の扉がドンドンと乱暴に叩かれる音が響いたのは。
ちなみにですが、孤児院は教会の裏にありこのような騒音が鳴ったとしても子供たちに聞こえることはありません。
もしかしたら獣人であるジャックが聞こえているかもしれませんが、今のところ何も言ってこないので良しとしています。
とはいえ、この夜中に来訪者とは。
ただならぬ状況らしいため椅子作りは一時中断、パタパタと訪問者の方へと行きましょう。
迷える者を導くのも神父の仕事です。夜遅くとも働きますとも。
―――――
「はあ、はあ、なんでこんなことに」
バタバタと走り教会へやって来た男は息を切らせながら独り言を呟く。
彼もまた信者であるが、藁にも縋る思いで最も近くの教会に来るしかなかったのだ。
この教会の噂は近辺で住む人間は誰でも知っている。
様々な種族の子供を抱えて雰囲気が怪しい神父が経営している。
彼も何度か興味本位でこの教会のミサへ行ったことはあるが、神父の姿はどうしても妙にしっくりこなかった。
男でありながら腰の高さまで伸ばしてある黒いストレートな髪に他とは変わった神父服。
顔は整っているからこそ体格がよくて細目なのが違和感を覚える。
普段の言動は神父らしいものであるが、言い回しもわざとかと思うくらい怪しくなっている。
でも、頼らなければならないのだ。
「どうされましたか?」
「あ、ああ、神父様…………ひい!?」
急いで現れたらしい神父の服は紅く染まっていた。
暗い場所とはいえ月明かりはある、だからこそ黒い服にさらなる赤が目立って仕方ないのだ。
「あの、どうかしましたか?ああ、これは作業をしていたら服を汚してしまいまして。どうかお気になさらず」
自分は何か罪を犯したのだろうか、彼はそう思ったが今は非常事態だ。この神父が殺人鬼であろうと聖職者である事を祈りながら伝える。
「ふ、ふと目が覚めてパンでも齧ろうとして食卓へ行くと、妻が冷たくなっていたんです。寝ていたのかと思って揺らしても起きず、触ってようやく気付いたのです…………」
愛する者の突然の死は、確かに堪えるものだ。
男性の狼狽ぶりをみて神父は悲しそうに眼を細めるが、それだけであるなら自分ではなく葬儀屋だったり役人だったりと神父である必要がない。
なので諭すように別の人を頼れるよう告げようとしたが、次に聞いた言葉で口を閉じる。
「慌てて息子を呼ぼうとしましたが、ふと振り返ると妻は居なくなっていたのです」
「…………なるほど、続けてください」
「一瞬、妻のいたずらかと思いましたが、私も妻も年です、いつ召されるかは覚悟はしていました。しかし、居ないとなれば家中を探したんです」
「それで見つからなかった、と」
「は、はい。ここ最近は何かと物騒です。もしかすると家に誰かが居たのかもしれないし…………」
「屍が動き出したのかもしれない」
月明かりで蒼く照らされる男性を見て神父は顎に手を当てて考える。
確かにいくつかの可能性はある。
最初は質の悪いジョーク化と思えても、自分の家の内情を知っている家主が人がいることを見落とすのはそうそうない。
次に考えたのは遺体の窃盗。だが、街中でやるというのはメリットはない。
確かにどこの場所にも光と闇はあるが、この近辺ではよほどの犯罪はないと考えている。
貧民街の住人は死体をビジネスにするという噂もあるが、所詮は噂であり流石にそこまでは手を出すことは無い。
堕ちるところまで堕ちた場合を除いては。
なので、考えうる中で厄介な可能性の一つが神父の頭の中に浮かんだ。
だが、早計である。
「心配しているのは死体が動き出したのかもしれないという事ですね」
「……………………はい」
苦虫を嚙み潰したような顔で頷く男性に、その恐怖がどれほどのものか心底同情した。
愛する者が他者を傷つけるかもしれない。そうなれば死体は綺麗なままで埋葬することは出来ず、最終的に灰となり雑に処分されてしまう。
残念なことに、そういうことは無い訳ではない。
神父も同じような現象にたびたび遭遇しては撃退していた。
たとえそれがかつての友人だったとしてもやらざるを得なかった。
「分かりました、もしそのようなことであるならば、微力なが手伝わせていただきます」
にっこりと笑う神父であったが男性の顔はややひきつったものになる。
月明かりと雲の影により、神父の笑顔は半分ほど陰で隠れてしまっていたのだ。
暗いため仕方のない事ではあるが、両方の口角がしっかりと上がっている分だけ怖くなっている…………気がする。
そんな事とはつゆ知らず、神父は男性に催促する。
「では、ご案内をお願いします。万が一のことがないように急ぎましょう」
「ひっ!え、ええ、そう、ですね…………」
この怯え方は相当な恐怖を持っているのだと感じてる神父は心の底から解決せねばと正義の炎を燃やしていた。
なお、男性の恐怖の素は服の一部を真っ赤に染めた神父の笑顔であることに気づかず、小走りになる男性を急いで追いかけるのであった。
髪が長くて細目の神父がいわくつきの子供を養う孤児院を経営しているだけなのにドチャクソ怪しまれる謂れはないですが? 蓮太郎 @hastar0
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