第4話 後悔も勉強です


「うーん、うーん…………」


 アクシデントが起きて後始末を終えた神父です。


 ジャックとかけっこするはずが、アリシアが景気付けに空へ放った魔法による騒音被害を起こしてしまったため謝罪参りに行ってきました。


 大きな音に弱いジャックは寝込んでしまいましたが、サーシャ達に任せて近隣を歩き回り迷惑をかけた事を謝罪、今後できる限りこのような起こさない事を伝えてきました。


 何故か『やっぱりやらかしたのか』みたいな目を向けられましたが、子供達のことを言ってるよりも私のことを指しているように見えました。


 おかしいですね、そこまで信用がないのでしょうか?


 近所の掃除も自発的に行ってますし、困っていたら手を差し伸べ手伝っていますのに。


 いえ、見返りは求めていませんよ。


 寄付は求めてませんし、多少融通を効かせて欲しいなーって程度の近所付き合いのつもりです。


 神父ですので定期的にミサを行ったり結婚式のまとめ役もすることもありますよ。


 結婚式自体は他のところでも頼めたりするので、私に回ってくることは滅多にないですが。


「むー」


「アリシア、ジャックが起きたら謝りましょうね」


「やだー!わるいことしてないもん!」


「あんなデカい音を出したらジャックがダメになるのは分かってるだろ…………」


 私がいない間に額に当てる濡れた布を交換してくれていたウヴァルが呆れたようにアリシアを見つめていた。


 アリシアは見ての通り耳が尖って年齢にしては身体が小さすぎ、そして小さな身体に見合わない膨大な魔力を持っています。


 この特徴を持つのはエルフなのです。


 パタパタと床で寝転がり暴れるアリシアを微笑ましく見ながら、そして幼いながらプライドが高いなぁと思って見ています。


 この世界のエルフは、どこにでもある創作物のように人間より少ないながらも表に出ている種族で例外なく美男美女かつ不老長寿なのです。


 なので、年のとり方も人とは違い非常にゆっくりで、12歳でも身も心も1歳程度あるかどうか分からないものなのです。


 そう、お分かりでしょうか?


 12歳なのに既に5歳ほどの身体と知能を持っている、普通のエルフと比べて明らかに成長が早い。


 純粋なエルフであるならこのような成長は見せません。なので、アリシアの血には必然的にエルフ以外に何か混ざっているのは確定しているのです。


 それが原因だったのでしょう。この子に出会ったのは2年前、おそらく両親らしき亡骸のそばで泣いていたのを見つけたのが始まりでした。


 まあ、当時8歳というのも自己申告なのでもしかしたらもっと年齢を重ねているのかもしれませんが。


 そこから見た目に合うような我儘だったり暴走だった李を見せているので、中の年齢が相当高いという可能性は否定できています。


「うぅー、なんでなんでー!」


「プライドないのかこいつ」


「5歳に尊厳を求めてはいけませんよ。尊厳を捨ててでも己のやりたいことをする、それが子供ですよ」


「腑にに落ちねー…………」


 ウヴァルが肩を落とす様子を見ながら苦笑いして、改めて謝りたくないと駄々をこねるアリシアをどうするか考える。


 駄々っ子は二つ得る、でしたか?今まさにそのような状況ですね。


 ですか、この教会の資金も有限です。


 機嫌を取るためのプレゼントをその都度買えば資金は底を突く。


 既に彼女の部屋にぬいぐるみはたくさんありますからね。


「ほーら、アリシア。高い高い」


「きゃっきゃ」


「本当にそれでいいのか…………?」


 持ち上げて精一杯高く掲げることでアリシアの機嫌は一気に直った。


 まるで太陽です、この笑顔を守っていきたい。


「神父様もだいぶん甘やかしてるけど…………」


 子供は相当やらかさい限りは丁寧に接するべきです。


 頭ごなしに叱るのもいけませんが、こうして甘やかした分どこかで清算を付けなければいけません。


 なので、この後にそれなりの罰を与えるとしましょうか。












―――――――










 私はアリシアよ。この世に生まれて早12年、既に勝ち組に乗ってますわ。


 あら?いつもの喋り方と違うと?


 だって12歳ですのよ?猫かぶりの一つや二つは覚えますわ。


 それに、私は天才という言葉では済まないほどの超!天才!エルフの成長速度に似合わず年齢通りの知能を有していますの!


 なので、私が大人のように喋るのは何の不思議もないのです。


 さて、私がこの教会へ来た経緯を説明しましょうか。


 私はとあるエルフの子として産まれたはいいのですけれど、如何せん私が天才過ぎてと疎まれましたのよ。


 だってエルフが裏で言っている下等な人間と同じ速度、いや上回る成長を見せているですってよ?


 別の種族を下等と軽んじるのは早計過ぎませんこと?


 魚が空を飛べないのを馬鹿にしているようなものですわ。神父様が言うには適材適所という得意分野を生かす場所を作るという事ですわ。


 それすら理解できなくなった長生きしか取り柄のないエルフの親戚には本当に困ったものでしたわ。


 年下のくせに気味が悪いと身長が同じ子供にいじめられてきましたの。


 かーっ!私よりも何周り年上のくせしてやることがいじめ!切磋琢磨とかいう言葉もない頭エルフな馬鹿しか居ませんでしたわ!


 ですが、家出をしたことで多くの気づきがあったことも事実ですわ。


 普通に外の世界は危険という事。魔法ですらない魔力をバンバン放ってモンスターを追い払っていましたけれど、普通に体力の方が切れて動けなくなってしまいましたのよ。


 魔力だけは大量にあるので周囲に防御壁として展開して何とかしのいでいましたけれど、1人で閉じこもって初めて知ったことがありました。


 1人は怖い。


 朝になっても、夜になっても私が魔力が尽きないと分かっていても決して手を緩めない魔物たちに初めて恐怖しましたわ。


 私を不気味がるふざけた大人たちも、腐っても大人。人生の酸いも甘いも多少は知っていたのです。


 知らないうちに守られていたことを知った私は後悔しましたわ。


 どれほどの愚物であろうと、守ってもらえているうちは華であったことを。


 流石に飲まず食わずでは魔力は尽きぬとも身体が弱ってきてしまい、寝ても張れていた集中が途切れようとした時に救ってくれたのが神父様でした。


 一応、エルフにも信仰する独自の神様もいるのですが、割と排他的であることを知った今ではこの教会で祀られてある神様を信仰している方がマシでしたのであっさりと鞍替えしました。


 そして今に至りますの。


 え?じゃあ何で幼子の演技を続けているのか、ですって?


 だって、エルフは見た目と年齢が釣り合わないのですが、私は成長が早いし知性は更に成熟していきますの。


 つまり、早く働かなければならない時がきてしまう。


 働きたくありませんわー!もっと子供時代を過ごして甘やかされたいですわー!


 でも、ピーマン(神父様が発見した野菜)は勘弁ですわ!


「アリシア、ピーマンを食べなさい」


「やだやだやだー!ピーマンきらーい!」


 このように時たまやらかした際に苦手なものを克服させるのはやめてくださいまし!?


 泣きべそをかいても決して容赦せず私にピーマンを食べさせようとする神父様が若干嫌いになりかけながらも、私は軽はずみに魔力を暴走させたことを後悔しました。


 もう、考えなしの行動はこりごりですの~!


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