第3話 わんぱくで元気です


「がははー!アタシがいちばんだー!」


「ジャックは速いですね」


「かけっこはまけないゾ!」


 子供達のかけっこの審判をしている神父です。


 日々の業務の合間に子供達と遊ぶのも仕事です。


 あれ、何だかニュアンスが変になりましたが実際のところ怪我をしないよう見ているだけなのでちょっとした休憩時間ですね。


 朝食が済んだらみんなが寝る時に使う毛布も天日干しにして、いつもの祈りの時間が済んだら遊ぶ時間です。


 午前となる時間帯に勉強は嫌がる子が多いですからね。ある程度遊んでから勉強させた方がいいとか何とか。


 まあ、遊びすぎて疲れて寝てしまうというのもありますが、昼寝の時間も設けているので致し方なし。


 子供というのは目立ちたがるかそうでないかの傾向はあります。


 特に料理している最中に突撃してくる子のような甘えん坊さんであったり、逆に1人で本を読みたいみたいなませた子もいます。


 今ここで遊んでいるジャックを筆頭に3人がかけっこに参加していて、体の小さなアリシアは私の膝上で座っています。


 今現在この孤児院に住んでいる子供は合計で6人、あとの2人は別のことをして時間を潰しています。


 サーシャは遊びよりも勉強、私の役に立ちたいと言ってくれるので止めはしません。やりたい事をやらせて、それでも伸びなければ別の道を示すだけです。


 もう1人は…………先ほど述べた通り元々1人が好きな子なので無理に外へ出すことはしません。


 まあ、外に出ること自体が危ない子ではありますが。


「ジャックはやいよー!」


「はあ、はあ、負けたー!」


「体格が大きいから、どうしても差がついちゃうね…………」


「ふふん!アタシはみんなより大きいからな!」


 ジャックの種族は今のところは・・・・・・獣人で押し通しているので成長も普通の人間とは大きく違います。


 同年代と比べたら身長も高く、成人ととらえられてしまうこともたまにあったりするほどです。


 それが獣人の特徴であり、見た目に反して精神年齢が押さない理由です。


 最も、悪い言い方をしますが人間よりも獣の特徴を持ち合わせているため知能の基準が人間よりも低いのも確か。


 ジャックも勉強は苦手ですからね。隙を見せてるとすぐに逃げてしまうのです。


 私の若い頃に獣人の友人も似たようなものでした。勉強は出来なくとも人を引き付ける才能を持った彼は今、どこかで元気にしているでしょう。


「もうバテてんのかよ。あそぼーぜー!」


「ジャック姉さんは強すぎておいつけないもん…………」


「むむむ、神父サマ!」


 ジャック以外の子の体力がなくなってしまい休憩せざるを得なくなったことに不満を持ったのか私の名前を呼んでいますね。


 仕方ありません、私が相手をしましょう。


「いくのか?いくのか?」


「ええ、行きますよ。エンデ、ヴヴァル、アリシアを頼みます」


 エンデとウヴァルの男の子二人組に年上でありながら体格は一番小さいアリシアを猫を抱えるように託して私は前へ出る。


 これも恒例となってしまってはいるものの、子供の遊びに真面目に付き合うのも悪くないと考えているあたり私はかなり大人げない方でしょう。


 とはいえど大人子供問わず獣人との運動に付き合うのは身体を鍛えるために悪くありません。


 常日頃は家事育児をしていますが、隙をみては筋トレをして筋力を維持しています。


 よって、これは遊びと同時に私の身体を鍛える丁度いい機会。


「やっぱりそうこなくちゃナ!神父サマ、今日こそアタシが勝つ!」


「負けませんよ」


 やはり元気な子は素晴らしい。やんちゃするのは困りものですが体調が悪くて苦しむよりは十分マシだ。


 私とジャックは二人で並ぶ。


 かけっこは並んだ隣にある木から井戸まで直線で走った後にUターンして元の位置まで戻るものです。


 途中で短縮するというのはずるなので無し、近道も減ったくれもありませんがこの世界のは魔法や呪いは実在するので使うのも無し。


 つまり純粋な身体能力での勝負です。


「神父様、準備はいい?」


「いいー?」


 エンデとアリシアの声掛けに私は無言で頷く。


 子供相手でも気を抜いたら負けてしまいそうな気がするので手を抜きません。


「かつ、カツ、勝つ!」


「さあ、いきましょう」


「いちについて、よーい…………どん!」


「どーん!」


 アリシアが小さな体に見合わぬ膨大な魔力を空に打ち上げ、爆発と共に私とジャックは走り出した。












―――――














 アタシはジャックだゾ!今は耳がめっちゃ痛いゾ!アリシアの馬鹿!


 ジャックはなんか色々あって捨てられたからここに住んでる!いつからだっけ、多分最初から!


 アリシアが魔法を空に放ってアタシのにゅーろん・・・・・が活性化したことで時間が遅く流れてるゾ!


 なんか過去の記憶が目の前に現れてる!ええーと、これは何の記憶だ?


『この子は私が育てます』


『「―――」!正気か?この赤子は』


『これは私への挑戦です。いえ、私からの挑戦というべきでしょうか?』


 なんだこれ、神父サマと誰だ?


 あ、でも神父サマの腕に抱っこされてるのはジャックだゾ!


 なんだろう、何で知らない奴は変化押してるんだ?


 とても苦しそうで辛そうだな。くしゃっとしたような皺がよってる、腹を下したウヴァルみたいだ。


 アタシにもこんな時代があったんだな、涎を垂らしてスヤスヤ眠ってるゾ!


 あ、なんか場面が映っていく。後ゆっくり体が落ちてる気がする。


 次に見えたのは子供の頃のジャックだ。今も子供?この時は5歳だからノーカンだゾ!


 この時からかけっこが大好きで買ったばっかりの教会の庭を走ってる記憶だ。


 ジャックはいつまでも元気だ、だけど次の瞬間に誰かがジャックに襲い掛かってきた!


 この時のことがすろぉもぉしょん・・・・・・・・で景色が流れていく。


 襲い掛かってきたのは頭を布で覆ってるから髪は見えなかったけど目は凄いギラギラと輝いていた/殺す気だ。


 手に持っているのはナイフだ。果物とか斬る奴じゃない、それよりも大きいやつ/人を殺す道具だ、思い出せ。


 今のアタシのように景色がゆっくりになっていく。ぼおっとしているジャックは動けない/殺せ、殺される前に。


 あ、これ死ぬやつ?ダメだ、過去のアタシ逃げろ!


/違う、殺すんだ。奴はジャック達を殺した奴の一人だ/


 その時だったゾ、アリシアの魔法の音より小さいけど大きな破裂音が耳に入った途端に飛びかかってきた奴がアタシの横に落ちた。


 結局何だったんだろう?頭から血を流して打ちあがった魚のようにビクビクしている。


 その後に妙に怖かった記憶があるゾ…………あれ、何で忘れてたんだ?


/忘れるな、ジャックに何が集まりジャックとなったのか/


『わ、我らの研究体…………奇跡の集合体の子…………!』


 頭に穴が空いた奴が体を起こしてジャックを見てくる。


 何でジャックをそんな目で見るんだ?/自業自得のくせに羨むなよ。


『ジャック!大丈夫ですか!?』


 ぱあん、と二回目の破裂音が耳に入った途端、アタシの時間は加速する。


 あれ、アタシ何をしてたんだっけ?


「ジャック、ジャック!気をしっかり、傷は浅いですよ!」


 あれれ、神父サマは何でアタシを心配してるんだ?


「耳がやられてますよね、今ベッドに運びますからね」


 ああ、そうか、分かったゾ!


 アタシ、大きすぎる音はダメすぎて死にかけてるんだ。


 そしてさっき見えたのはそーまとう・・・・・だ!


 え、ダメじゃん。アタシ、死ぬのか?


 目の前が薄れていくのを感じながら、神父サマに抱っこされていることを幸せに感じながら眠りにつくのであったんだゾ。


 すやぁ…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る