第2話 可愛い子供達です
どうも、神父です。神父の朝は早いのはご存じでしょうか?
この孤児院において大人と呼べる存在は私しかいないので、洗濯や朝食の準備は全て私がするんです。
年長の子を働かせたらいいといいますが、まだ日が昇った直後なので子供たちは起きていません。
起こすのも悪いですしね、寝る子は育つのはどの世界でも変わらないので無理はさせません。
教会兼孤児院の裏にある井戸から水を汲み、バケツに何杯か汲めたら水洗いをしていきます。
まだまだ子供ですからね、下着やら服やらが汚れるのは常です。ただ、石鹸が無いのが少々痛い所だと思っていたりもします。
残念なことに、私自身が石鹸を作る知識を持ち合わせていないため製造は出来ません。
口惜しいですが、今後に産まれる天才に期待するしかありません。
なに、皆が便利に過ごせる時代はいつかは来ます。
さて、ごしごしと水洗いを続けていたらパタパタと誰かがやって来る音がしました。
「神父様!また1人で洗濯してるんですか!」
「おや、サーシャ。おはようございます、早いお目覚めでしたね」
「だって、神父様が起こしてくれないから…………じゃなくて!早くから一人で働きすぎですよ!」
「これがルーチンですからね」
「そうやって変な言葉で誤魔化すんだから…………」
ブツブツと言いつつも私の業務を手伝ってくれるいい子です。
最近は若干思春期が入って来たのか私のやる事に口を出すようになってきましたね。
特に衣服を気にしたり、おしゃれを気にするようなそぶりを見せています。
困りましたね、お小遣いは年齢に応じて出しているので特別扱いはしません。
ただし、行事がある際には必要に応じて出しますが。
「ふう、この時期は少々暑いですね」
「それは神父様の髪が長いから…………いえ、なんでもありません」
サーシャが何か言いたそうにしていましたが、結局何を言おうとしたか分かりませんでした。
今の私はいつもの神父服に作業しやすいようにと髪を束ねてポニーテールにしています。
「何をどうしたらつやつやになるんですか、その髪」
「神のご加護ですよ。思っているよりも融通が利きますので」
「神様って便利な扱いされていいんだ…………」
若干呆れられていますが、あの神様は実際話してみるとそんなものですよ。
天上より退屈を持て余しては人を眺めるのが趣味ですからね。
運が良いのか悪いのか、其の神は小汚い物よりきれいなものが好きでしたからね。それが私に反映されているので髪も常に手入れが行き届いた状態なんです。
ツヤッツヤですよ、市場じゃ滅多に見られないほどの天使のわっかが見えますよ。
馬鹿な話はさておき、手分けして洗濯したため予定よりも早く終わりました。
物干し竿に引っかけて太陽の光を浴びせ乾くのを待つだけです。
では、次に朝食の支度です。
基本的に質素な食事ではありますが、パンとスープを用意したら大体は喜んでくれます。
普通の食事で幸せを感じてくれるなら何よりです。さあ、今日も良い一日を過ごせるよう準備をしましょう。
――――――――――
私はサーシャ、ある事情から親に捨てられて教会と孤児院を兼ねている家に住んでるの。
何故捨てられたか?口減らしという事もあったけど、本当の理由は別にある。
私は生まれて間もない頃に呪われてしまった…………らしいの。
曖昧な言い方なのは、本当の事は分からないから。
村に居た人たちはずっと私に向けて指を差し『呪いの子だー!』なんて言っていた。
だって、私の背中には入れ墨のような文様が彫られているのだから。
これが災いを呼ぶと言われていて、実際に私が居た村はよく天災に巻き込まれていた。
そこそこ山から離れていても土砂崩れに巻き込まれたり、大雨で畑がダメになったり…………
何がひどいかっていうと私の村にしか被害が無くて周辺の村は何事もなかったかのように過ごしているんだもの。
その不満は全て私に集まってきたのは、今となってはある意味当然だったと思えてしまう。
数々の不幸を誘い込んだ存在として私は捨てられた。
ある意味では温情でもあったのかもしれないと今になって思う。
だって、私を殺せばいいかもって思われてたはずだもの。
まだ6歳だった私は捨てられた後に生きる術を持ち合わせていなかった。
飲み水すらありつけずあっという間に飢えて倒れてしまった。
幼いながらに死の淵をさまよっていた時に出会ったのが神父様でした。
物を食べていないため胃腸の弱っていた私にふやかした携帯食料をくれて、おんぶされたままこの孤児院に来たんです。
その道中で野生の暴れ牛に襲われたりしたんですけど、えーっと、あれは神父様が退治したという認識でいいのかな?
とにかく!よく分らない武器で大きな音を鳴らして倒してたので間違いないです。
最初はご飯をくれるいいひとかと思ったけど、時間が経つにつれて神父様の格好や言動を他の人たちと比べたら、ちょっと変わってるなって。
良い人であることは間違いないと思うんですけどね?どうしても胡散臭さが抜けないというか…………
神父様もそこを気にしているようですけど全く対策も何もしていないようなのでもう諦めました。
そもそも私のような呪われた子供だけでなく、どこから拾ったのか分からない獣人だったりエルフだったりと種族問わずに集めているようにも見えて仕方なくて。
良い人ではあるんですけどね?怪我をしたら真っ先に心配してくれるし、面倒見もそこらの大人よりいいんですよ。
それでも何だか神秘的…………聞こえが良いように言いましたけど、実際はそうとしか言えないんです。
いつも目が細くて笑顔でも、何を考えているか分からないし逆に見透かしたようなことを言ってくるし。
「サーシャ、お鍋がぐつぐつしてますよ」
ふと神父様の声で我に返る。
そういえばスープを煮込んでいる途中でした!
あわあわと急いで泡を吹く鍋に手を着けてしまう。
自分でも焦りすぎて何をしているのか把握できていなかったが、じゅっという音が聞こえて1秒以内に即座に手を離した。
そして後からやって来る僅かな痛みに顔をしかめる。
「サーシャ!」
こんな時でも決して目を見開かない神父様が急いで駆け寄り、鍋にかけていた火を手をかざすだけで消火した。
「ああ、なんてこと。軽いとはいえ火傷です、跡が残ってはいけない」
慌てるそぶりを見せながら赤くなった私の手に薬を塗ってくれる。
何故かいろんな薬を常時持ち歩いている神父様ですが、こういう時に役立つのでありがたいです。
あ、もしかしたら他の子たちもよく怪我をするのでそのためでしょうか?
「これでよし、少々痛むと思いますがしばらくはこれで守ってくださいね?」
優しく微笑んで、でも目が細くて開いてないとしか思えないのでやっぱり怪しく見えてしまうが心配してくれているので私も微笑んだ。
すぐに痛みが消えるこの体質も、心配されてしまうたびに隠してしまう。
隠し事をするというのはどうしても罪悪感が出てしまい、しかし決して話すことが出来ない。
何故か、怪我をして手当されるたびに身体がゾクゾクしてしまってどうしようもないのだ。
「大丈夫ですか?もしかして他に体調が悪いとかありますか?」
「あ、いえ大丈夫です!」
この感覚は隠さなければならない。
色々と事情がある子供たちが集まる孤児院で、胡散臭くとも丁寧に接してくれた上に正しく世の為に働けるようにしてくれる神父様には背けられない。
「すぐにスープを用意しますから!」
「痛むようならすぐに言ってくださいね?」
本気で心配しているのか分からない抑揚のない美しい声を背中で聞きながら他の子たちのスープを器に入れる。
野菜と謎の粉を煮込んだだけで美味しくなるスープだ。この粉については私もあまり理解はしていない。
けど、悪い物じゃないよね?こんなの見たことは無いけど…………
ちょっと不思議であまり考えないようにしていたスープについて今更ながら意識してしまうことで、更に神父様の胡散臭さが加速するような?
日々産まれる疑問に新たな疑問が増えながら、私は朝食の支度をするのでした。
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