ザオラル屋

イロイロアッテナ

ザオラル屋

で、兄ぃ、いい話ってのは、なんだい。


まぁ、くま、一杯やりながらきいてくれや。

おまえ、どうだい、金、欲しくねぇかい?


(一杯酌を受けながら)

あ、ありがとうございます。

いやね、兄ぃに、こんなこというのも、あれですがね、ここんところ、もう金がなくて、金がなくて、ぴーぴー言ってまさぁ。


そうかい、そりゃあ、いいや。


いや、よくないですよ、なんでいいんですか!


いや、悪かったがよ、都合がいいってんだよ。

おまえ、楽に儲ける話があるが乗らねぇか?


楽に儲ける話?どんなです?


もう、楽も楽、だっておまえ、横になって寝てりゃあ、金が入ってくるんだから、こんなおいしい話はないよ。


だから、どんな話なんです?

焦らさず教えてくださいよ。


おめぇ、この辺に最近ダンジョンって、できたの知ってるか?


ダンジョン、ダンジョン。

あぁ、知ってますよ、ダンジョン。

区分所有建物の事でしょう。


それはマンションだよ。

俺が言ってるのはダンジョン。

最近、話題になってるから、知ってんだろ。

ダンジョン。


あぁ、そっちかぁ。そっちだぁ。


おめぇ、絶対知らねぇな。

ダンジョンっていうのはな、要は、中に怪物やら宝箱やら色々入ってる、でっかい穴っぽこだ。 


宝箱が入ってるの、穴ん中に?


そうだ。

だから、そこへ行って、手っ取り早く金稼ごうって奴らが、どんどんどんどん、集まってきてんだ。


そいつぁあ、いいや。

そこに宝箱拾いに行こうって話ですかい?


お前ね、俺の話をよく聞きなよ。

宝物だけじゃなくて化け物もいる、そう言ったろ。

お前なんかが行ったら、すぐに殺されちまわぁな。


え?化け物もいるですかい?

それが襲ってくる?

兄ぃ、それ、化け物だけ退けてくれませんか?


俺に言ったって駄目だよ。

ダンジョンに宝箱と化け物はセットだからな。

それにな、話は最後まで聞きな。

俺の話は、ダンジョンに宝箱を取りに行こうってんじゃないんだよ。


あれ、違うの?


違うも違う、大違いだよ。

大体な、刀携えて、鎧兜でダンジョン探索なんて、現実的に考えてみな。

お前、死ぬよ。


え、死ぬの?


当たり前じゃねぇか。

じゃあ、おまえに聞くけど、刀と鎧兜で、そうだなぁ、最近街によく出没している熊と、これ、戦う気になるか?


え!?熊と?無理無理。


そうだろう。

まず間違いなく

「突撃、おまえが晩御飯」

になるだろうし、運良く勝てても、瀕死の重傷は、避けられねぇや。


じゃあ、兄ぃの言う、うまい儲け話ってのは?


まぁ、慌てんなよ。

ダンジョンにはよ、さっき言ったように、手っ取り早く金を稼ぎたい奴らが集まってくる。

そうすると、そこに、そいつらを相手に商売する武器屋、防具屋、道具屋なんかも集まってきて、今、ダンジョン1階は、ちょっとした街みたいになってるんだよ。


へぇ、そうなんですかい。


それでな、ちょっとこっち寄んな。

お前、ザオラル屋って知ってるか?

ダンジョン知らねぇなら、知らねぇだろうなぁ。


ザオラルって、あの、ザオラルのことですかい?

さまよえる魂を、ここに呼び戻したまえっての?


おっ、そっちは、知ってんのかい。

なら、話は早ぇや。

今、その街にはよ、ザオラル屋ってのが、あるんだよ。


ザオラル屋?

兄ぃ、それは金を払えば、ザオラルかけてくれるって商売かい?


そう思うよな、でも、違うんだよ。

ザオラルってのは、結構なMP使う割に、生き返る確率は2つに1つの丁半博打だろ。


あぁ。


で、このザオラル屋ってのは、まず、俺たちがザオラル屋に5両払うんだ。

で、払った側が、死んだ仲間にザオラルをかけるんだ。

そんで、首尾よく仲間が生き返ったら、そのままザオラル屋が5両持っていく。

もし、生き返らなかったら、そのときは、ザオラル屋が、残念賞で、こっちに5両払うんだ。


へぇ、保険みたいもんですかね?


そうだな。

だが、大事なのは、こっからだ。

このあと、ザオラル屋は、ザオラルが成功して仲間が生き返るまで、失敗するたびに5両ずつ、こっちに払う仕組みになってるんだ。


兄ぃ、なんか仕組み難しいな。


難しくねぇよ、馬鹿だな、おめぇは。


それに、そんなんで儲け出るのかい?

何回か失敗する奴もいるだろうし。


そう言われれば、そうだな。

でも、商売としてやってる限りは、何か、儲かるような仕掛けがあるんだろうよ。


うーん、どんな仕掛け何ですかね?


まぁ、いいじゃねぇか。

大事なのは、俺たちが儲かるかってとこよ。

仮に、5回目に生き返ったら、最初に払った5両を除いて、15両も儲かるって寸法よ。

どうだやるか?


うーん、でも兄ぃ、そんなにうまくザオラルが失敗し続けるかな?


バカだね、こいつは。

そんなの黙って転がって死んだふりしてれば、分かりっこないだろう。


あぁ、なるほど。


俺が、ザオラル屋に5両払って、何回かザオラルを唱えたあと、適当なとこで、おまえが棺から起き上がってくりゃあ、あとは稼いだ金を山分けだ。

どうだ、おまえは寝てるだけでいいんだぜ、やるか?


兄ぃ、天才!!

あんた令和の錬金術師だよ。

早く、やろうやろう。


ってなことで、悪い話はすぐまとまるもんで、兄ぃと弟分は、連れ立って、冒険者風の装いに着替え、空の棺を抱えて、街はずれのダンジョンまでやってきました。


兄ぃ、すごいたくさん店が出てるよ。


そうだなぁ、前来たときより、もっと店が増えてやがんな。


あれ?

武器屋や防具屋なんかだけじゃなくて、色々、店が出てるよ、兄ぃ。


人が、こうたくさん集まってくると、いろんな商売が成り立つからな。

そんなことより、ザオラル屋探そうぜ。

看板か、のぼり出てないか?


えぇっと、ザオラル屋ザオラル屋、あったあった、あそこにのぼり出てるよ、兄ぃ。

あそこ、あそこ。


本当だ。

店構えが立派で金がありそうだな、おい。

首洗って待ってろよ、ザオラル屋!


兄ぃ、面白くなってきたなぁ。


よし、そしたら、おまえ、ちょっとな、そっちの物陰に行ってくれ。


え?兄ぃ、ザオラル屋に行くんじゃないの?


行くんだけど、おまえね、おまえが生きてたら、話が合わねぇだろ。

だから今から死んでもらうんだけど、こんな人通りの多いところじゃあ、殺れねぇだろう。

だから、その脇に入ってくれ。


ち、ちょっと待ってくれ、兄ぃ。

あれ?

マジのガチに殺す感じ?


え?そうだよ?

言ってなかったっけ?


聞いてないよぉ。

寝てるだけでいいって言ってたじゃねぇか。


だから、俺がおまえの死体をザオラル屋に運ぶから、おまえは寝てるだけだろ?


いやいや、兄ぃの寝てるだけってのは、永眠も含んだ趣旨ですかい?

そこは齟齬があるなぁ。

「寝てるだけ」の意義が問題になりますよ、これは。


おまえ、死が近づくと、めっちゃ早口になって、若干知能も向上するな。


いや、兄ぃ、そこは、死んだふりでお願いしますよ。


リアリティに欠けるんだけどなぁ。


いやいや、兄ぃの事、信用してないわけじゃないけど、そもそも兄ぃは、ザオラル何回唱えられるんですかい?


MP満タンで、連続6回かな。


そしたら、俺、64分の1の可能性で三途の川渡ることになっちゃいますよ。


計算早いな。

分かったよ、じゃあ、振りでいいから、そこの裏道で棺桶に入りな。

いいか、きちんと死んだふりしておけよ。

動くなよ。

馬鹿、笑うんじゃないよ。


すみません、こんちわ。

どなたか、いらっしゃいませんか。


はいはい、どうも、いらっしゃいませ。


こっちは、ザオラル屋ですかね?

可哀想に、弟分が冒険中に死んじまって。

こうして棺桶担いできたんだが、今からザオラルかけるんだがね、その前にザオラル屋を利用したいと思ってね。


はいはい、毎度ご利用ありがとうございます。

システムは、もう、ご存知ですか、なるほど。

そしたら、こちら、うちを利用される方にお渡しする契約書と約款です。

あと、5両のお支払をお願いします。

お棺のなか、拝見しても、よろしいでしょうか?


あぁ、見てやってくんな。

それから、これ5両な。


はい、確かに。

これはこれは、綺麗なお顔をしていらっしゃる。

怪我など外傷はないのですね?


あぁ、少し頭の打ちどころがよくなかったのかな、ぽっくり逝っちゃって。

見てわかるような、大きな怪我はないよ。


そうですか、わかりました。


一応確認だがよ、おめぇんとこ、俺がザオラルを失敗する毎に、5両ずつ払ってくれるってことで、間違いねぇよな。


はいはい、そのとおりでございます。


最初に払った5両以外に、あとで追加料金請求されるとか、そういうのは、よしとくれよ。


はいはい、そこの契約書と約款のとおり、追加料金はございません。


そうか、そうか、へへ、ありがとうよ。

いや、なに、こっちの話だよ。

・・・・・。


まだ何か?


そういやな、この弟分とも話をしてたんだが、 いや、こいつが生きてたとき、生きたときにだよ、ザオラル屋は、どうやって儲けてるのかって話をしてたんだよ。

だってそうだろう、そりゃあ、生き返るか生き返らないかは丁半賭博だが、中にゃ、何回か掛かる奴もいるだろう?

その都度、金を払ってりゃあ、赤字になるんじゃねぇのかい?


ははぁ、なるほど、疑問はごもっとも。

そこら辺は、ちょいとコツがございまして。


へぇ、コツねぇ。

まぁ、深くは聞かねぇよ。

商売のコツは、飯のタネだからな、気軽には話せねぇやな、なぁ。


恐れ入ります。


じゃあ早速、ザオラルいくな。


どうぞよろしくお願いします。


せえの

「たつ兄ぃは、ザオラルを唱えた!」

(呪文の効果音)

あぁ、だめだな。

「しかし、くまは生き返らなかった」だな。


はい、そこでちょっとお待ちください、お客様。

いま、うちのを呼びますんで。

ばあさん、ばあさん、お客様ですよ。


うん?ちょい待ち。何だい、このばあさんは?


これは、うちのザラキ係の、お留ばあさん。


ザラキ係!?

何だい、そのザラキ係ってのは?


ザラキ係って言っても、ご心配には及びません。ザキもできますから。


全体か単体か心配してないよ、どう言うわけなんだい?


いやね、お客様がそうだっていうんじゃありませんがね、最近、ザオラル屋を狙った新手の詐欺が流行りだしましてね。

生き返っているのに死んだふりを続けたり、それどころか、そもそも死んでねぇ、なんて、ふてえ野郎もいるそうでございまして。

いやいや、勿論、お客様は違うと思いますけど。


へ、へぇ、あぁそう、悪いやつもいるもんだね、俺たちは、違うけど。


勿論でございます。

ただ、これ、規則なんで。

一応、外から見て、一見死亡しているとわからない方の場合には、幾つか、やり方がありまして。

うちのお留ばあさんが、ザキをかけるのが、そのひとつなんで。


へぇー、そんなことしなくても、脈や心音、呼吸なんかを確認するんじゃ駄目なのかい?


いやね、私も詳しいわけじゃあ、ありませんが、なんでも世の中には、仮死を装う魔法もあるそうで。いやぁ、何とも世知辛いですな。


へ、へぇー、そいつは念の入った悪い奴ってのは、いるもんだね。


じゃあ、ばあさん、やっちゃって。

おや、棺桶からゴトゴト音がしますね。


あ、あぁ、ネズミでも入ったかな?

あぁ、おまえさんね、今、やり方が幾つかあるって、そう言ったね。

他の方法は、どんなのがあるんだい?


あぁ、他のやり方ですか。

あんまり、みなさんにおすすめは、していませんが、大バサミで首を切っちまうんです、うちのお留ばあさんが。


怖!お留ばあさん、怖!!


えぇ。見た目も悪いですし、生き返っても首に傷跡が残るから、評判が悪くて。

おや、またネズミですかね?棺桶がゴトゴトと。


(棺桶を蹴り小声で)辛抱しろ。

いや、何でもないんですよ、じゃあ、あの、ひとつ、ザキの方で、よろしく頼むわ。

(棺桶を蹴り小声で)辛抱しろって。


じゃあ、ばあさん、やっちゃって。


ちなみに、あれかい、ザキは大体、成功確率といいうか、即死率というか、50パーセント位だよな?


あぁ、一般的にはそうですが、うちのばあさんのは、物が違うから、大丈夫ですよ。


大丈夫って、何が!?


そうですね、統計を取ったわけではないので、はっきりは言えませんが、大体これ、即死率が95パーセントくらいですかねぇ。


え、えらく高いな。


はい。ばあさん、今でこそ、こんなんですがね、昔は、ネクロマンサーのお留とか、骸喰いのお留とか呼ばれてた凄腕ですから。

あれ、またネズミですか?


そ、そうかい、そりゃ頼もしいな。

(棺桶を蹴り小声で)5パーに賭けろ。


あと、嘘か本当か知りませんがね、魔王からも、世界の半分で仲間に誘われたことがあるとかないとか。


ホンマもんじゃねぇか。

あれって勇者だけじゃないんだね、誘われるの。

(小声で)馬鹿、動くなって、蓋が外れるだろ。


それじゃあ、失礼して。

ばあさん、お願いしますよ。


いや、ちょっと、ちょっと待ってくれ。


どうかされましたか?


どうかって、いや、どうもしねぇけどよ。


死んでらっしゃるんですよね?


お、おぉよ。間違いなく死んでらぁな。


では、心おきなく。


でも、いやいや、あの、あのね、ちょっとだけ、待っていただけませんか?


何なんです、さっきから。何か不都合でも?


いや、そうじゃねえ、そうじゃねぇんだけど・・・。


あ、お客様さま、ばあさんが詠唱に入りました、危ないので、こちらに退避された方が。

そこだと、呪文に巻き込まれますよ。


マジかよ!?

(小声で)すまねぇ、くま成仏してくれ。


ばあさんが呪文を唱えるまさにその間際、棺桶の蓋を蹴破って、くまがもんどり打って転がり出てきた。


や、やめてくれ、人殺し!!


馬鹿、このくま公、おめぇが出てきたら、台無しじゃねぇか。


何言ってんだ、こんなことになったら兄貴分も何もあるもんか。

ふざけるねぇ、こっちは、もう少しで殺されるところだったんだぞ。

台無しもくそもねぇや、ちくしょう。


まぁまぁ、おふたりとも、喧嘩しないで。


何だと、この野郎。てめぇんとこもだ。

おめぇんとこは、ザオラル屋だろう。

なんだって、こんな魔王みたいなばあさん雇ってやがるんだ!


はい、このばあさんがザキを唱えると、ちょくちょく死人が生き返って儲かりますんで。

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