独太郎(ソロタロウ)
@kuziraa
1 豆園樹(まめぞの いつき)
「この高校はあと一年で終わりです」
体育館には少し前までおしゃべりの声が広がっていたのに一瞬で無音になった。
校長が次に言う言葉に皆、耳を傾けている。
「新しくできたF高にぜんぶ持っていかれました」
突然のカミングアウトだった。定員割れが続き経営難だと噂に聞いていたがまさかここまでだったとは。
「『桃ノ木高校』がなくなるのは悲しいですが悔いが残らない一年にしてください」
驚く者、泣き出す者、怒り出す者、生徒たちが様々な反応を見せる中、金髪の男子生徒が壇上に上がり、もの申す。
「入試志願者が増えればいいんですよね」
校長は急な横やりに男子生徒を睨むが、金髪はひるまない。
「なら、文化祭で大作ぶちかましましょう!」
ん、こいつ何を言ってるんだ。
「桃太郎をベースにしたオリジナル作品の構想があります」
桃太郎を使っている時点でオリジナルではない。金髪は『柿ノ木小学校』からの幼馴染、漆原一馬(うるしはら かずま)。
「SNSを活用して中学生に刺さる事前告知もぬかりなく行います」
一馬に振り回されてばかりの僕は「またか」と思いながら、なぜか口元は緩んでいる。体育館に再び声が散らばり、全体の一割に火種が灯る音がした。
壇上から降りてきた一馬が近寄ってきて僕に言う。
「樹、どうやったら面白い桃太郎ができるかな?」
あれ、構想があるって今さっき言ってたのに。仕方のない奴だ。
「クラスの皆で話し合う場を作ろう」
そう言いながら僕の頭に、いくつかの構想が降り注いできた。
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