日清

 カップラーメンには三分以内にやらなければならないことがあった。

 まずは、蓋をこじ開けて侵入してくるお湯という液体を全身で受けとめる。それが、麺、具、粉末スープの全てに届いたらそれぞれが合図を送り、一斉に軟化する準備に入る。

 目を閉じて、宇宙を意識する。2024万光年離れたニッシンオイッシンという惑星から流れ出るエネルギーを全身に感じ、にわかに踊りたくなる衝動を抑えながら、全身の脱力を行う。ニッシンオイッシンの隣にある惑星カップードルチリトマトサイコウの表面に生息する、オユスクナメデカタメコイメニツクルノガイチバンウマイという地球の鯉に似た原住民と波長を合わせることで、スープ全体のコクと旨味が完全に引き出され、溢れ出た旨味が湯気に乗ってフタの隙間から外界へと登っていく。このとき「シーフードニマヨネーズイレルトヤバイ」と呪文を唱えるとともに夏のセミとカエルの鼓膜の頑丈さを思い浮かべるのが常識とされている。

 ここまでで一分を超えてしまうようだと、フタのうらにネギが全部ついてしまう。

 全体が柔らかくなってきたら、両手を広げて空を受け入れる。大きな青空なら7秒。狭い曇り空なら34秒。先端が鋭利になっている大雨なら1秒と決まっているが、そのときの気分でやらなくてもよし。ただし、昨日見た夢がイカタコタニシに関係している場合は、原則として「シオモウマイ」と心の中で唱える。

 カップ全体を見て、はぐれてしまったお湯はいないか確認する。はぐれ湯を見つけたら、カップ中央にいる集団「カップラーメントタンサンインリョウッテドウシテコンナニアウノカナ」に預けて面倒をみてもらう。

 この頃になると「麺的にはもう十分」と騒ぎ出す輩が増えだすので、スープ先輩を呼んできてたしなめる。具はとにかくフタの裏にくっつきたい衝動を抑えるために、もう一度、ニッシンオイッシンに意識を集中しながら出来上がりをひたすら待つ。


 最後に、麺、具、スープのみんなで「ナンダカンダイッテヤッパリショウユニモドルゾ」という日本のじゃんけんに似た踊りをして出来上がり。この時点で三分を超えてしまうようなら「ペヤング」に変わってしまうので、気をつける者は多い。

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