綿棒、固め濃いめで
ときには三分以内にやらなければならないことがあった。
厳しい世界を生きるおれには、本当にそんな場面が多かった。三分なんてものじゃなく、ニ分だって一分のときだってあった。ひどいときには十秒でやらなければならないときだって沢山あった。
そしてそれは唐突にやってくる。自分のタイミングというものは一切関係ない。この時間でこのタイミングでやってくれというのが当たり前の世界だ。よく、できなかったらまた頑張ればいいんでしょ、なんて何も知らない奴が言ってくるときがある。おれはそんなとき、本当に腹立たしくなり、こいつはどうせいつも好きな時間で好きなタイミングでやってきたんだろうなと考える。しかし、そんな何も縛られない、緊張感の無い状態でしてもおれは満足できない。期待に答え、約束の時間内に無事成功したときの、あの快感を忘れることができない。そしてそれは、何も知らないような腹の立つ連中さえも笑顔にするのだ。
だからおれは、自分に厳しく今までやってきた。その場の誰もが無理だと思うタイミングで、おれだけが成し遂げてきた。そのおかげで、今がある。この業界では多少顔も知られている。
ある女が言った。
「本当にすごいですね。相当ストイックに生活してそう」
ある女が言った。
「みんなは早いって言うけど、私は逆にこっちの方が良いかな。サクッと終わりたいときもあるじゃない」
ある男が言った。
「まったく何回出るのよ。すごいね。しかもタイミングもばっちり。これで顔も良かったら間違いなく主役になれるのにね」
こうしてみると全てが順調だったかのように思えるが、この業界に入る前のおれの評価はさんざんだった。誰ひとり笑顔にすることができなかった。
早い。全然足りない。盛り上がる前に終わらないで。何度も何度もいいかげんにして。いまでこそ長所であるが、少し前までは短所でしかなかった。だからそれが原因で、何度も別れを経験した。
しかし、いまのおれは業界で引っ張りだこだ。どうだ、おれをバカにしてきた連中めざまあみろ。これからおれはもっと頑張ってこの業界の────
「あ、お待たせしました。『素人女子大生、超早漏を集めて白い雨を降らせる』の撮影が間もなく始まりますので、汁男優のみなさまはスタンバイお願いします」
「はーい」
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