夜明けの空に蒔いた種
綺麗な風景写真が撮りたい
第1話 戦争が全てを焼き尽くした
そこは一面の焼け野原だった。
見渡す限りそこには人は誰も存在せず、草木も建物も全て灰となった、死の世界が広がっていた。
時折吹く風が灰を舞い上げる以外、何も動くものは無い。
大量殺りく兵器を使う現代戦争とは無慈悲で残酷なもので、勝つためには戦争を終わらせるためにはと、兵士同士・兵器同士の争いで済まず、一般市民や街もいつの間にか無差別攻撃の対象となっている。
今回は放射能汚染がある核兵器では無く、宇宙空間から太陽光を反射し、地表に向けて長時間照射する大規模な高熱攻撃兵器が、世界で初めて実戦投入された。
本来の目的は宇宙空間での大規模太陽光発電施設だったが、軍部の暴走によりコントロールを奪われ、地表を1000℃以上の高熱で焼き尽くす光線兵器として軍事利用されてしまった。
人道的観点から考えれば、無抵抗な一般市民や街を無差別に攻撃するのは、当然許されることではないはずなのだが、何が何でも勝たなければならないとの絶対的な命令が、全てを狂わせてしまっている。
軍隊とは序列が全て、兵士たちは上官の命令には逆らえないので、命令されるがままに、敵対国の全てを理不尽に破壊・焼き尽くした。
街や町村だけでなく、田畑や森林も全て燃やし尽くした。
中世までの剣や槍、弓で争っていた時代とは違い、ただ発射装置のスイッチを押すだけで済む大量殺りく兵器が、無慈悲な戦争に変えてしまった。
自分の目で視て敵を倒す時代は、お互い痛みを伴うから抑止力が働くし、軍隊と軍隊、兵士と兵士の争いだけで済むが、スイッチを押すだけで相手を全く視ていない、全く痛みを伴わないから抑止抑制が全く効かなくなる。
ようやく長い戦争が終わり、もう誰も存在しない敵国の灰色の焼け野原に、調査のために訪れた戦勝国の兵士が一人立っていた。
ただ命令に従っただけとはいえ、自分たちがこの地を全て焼け野原にしてしまったのだと、勝って浮かれていた高揚した気分が一気に萎む。
やらなければやられていたのだから、それは思考としては理解できるが、どうしても心が追い付かない。
任務だから、急いで記録映像と土壌等の様々なサンプルを採取する。
前線基地に帰還すると、全てが焼け野原となった敵国の街の様子を、記録映像を見て頂きながら上官に報告するが、いまだ気分は優れない。
せめてもとの願いを込めて、上官にある提案を上申してみた。
それから暫くして、焼け野原となったかつての敵国の夜明けの上空を、大量に草木の種を積んだ飛行機や飛行船が飛び回っている。
積んでいるのは、かつてその地に生えていた種類の草木の種たちだ。
夜明けの空に蒔いた種が無事芽吹き、再び緑の地が復活することを願いつつ、飛行機や飛行船たちは種を蒔いて行く・・・
夜明けの空に蒔いた種 綺麗な風景写真が撮りたい @ALICE1961
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