第4話
### 第四話
それからは、空虚な日々だった。狭いアパートの中で、俺たちは互いをいないものとして扱う同居人になった。彼女が淹れたコーヒーの香りも、洗濯物の匂いも、以前と同じはずなのに、その全てが俺の罪を告発しているようだった。
そして金曜日の夜、彼女は消えた。 リビングのテーブルには、名前の書かれた離婚届と、あの封筒。クローゼットからは彼女の服が消え、キッチンにはペアのマグカップの片方だけが、まるで俺自身のように、ぽつんと取り残されていた。
窓から見下ろすと、闇に溶けていく黒塗りの高級車。彼女は一度だけ、俺たちの部屋があった2階を見上げた。目が合った、気がした。だが、彼女の瞳は何も映していなかった。
一人になった部屋で、俺は何度もあの夜の自分の言葉を反芻した。あれは本心だったのか?違う。ただ、怖かったのだ。彼女を失うことが。だから、自ら手放した。自分の弱さで傷つく前に、自分で壊してしまった。
「……くろこ」
絞り出した声は、誰に届くこともなく、果てしない後悔だけを抱えて、俺の時間は止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます