コミュ障なだけなのに何故か裏社会のドンだと思われてる

ビューティフル佐々木

第1話

日付が変わる頃。

雨の中、二人の人影が街中で睨み合っていた。


「お前!! 何故こんなことをした!?何故こんなことができる!? 答えろぉッ!」


「……」


鎧の男が怒りに手を振るわせながら大剣を構え、長身の仮面を付けフードを被った人物に叫んだ。


「……すまない」

「ッ!?」


フードの人物はそう呟くように言った後、男に背を向けて闇夜へと駆け出した。


「待てッ!」


鎧の男は慌ててその背中を追うが、重装備故にその俊敏さに敵わず、対象を逃してしまった。


その足元には、無惨な姿となった部下たちが転がっていた。



◆◆



その人物は自らの拠点へと戻り、仮面を外しそのフードを脱ぎ、疲れたように息を吐く。


「ふぅ…」


そこから顔を出したのは銀の長髪に赤い目をした、その怪しげな風貌からは想像もできないほどの美しい少女だった。


少女はその表情を憂げに変え言う。


「またまともに喋れなかったぁ……」


それは紛れもない、TS転生した男の自分のコミュ障を嘆く悲痛な叫びであった。



◆◆



俺は死んでこの中世ファンタジー風世界に女として生まれ変わった。


前世の性別は男だった。まぁ、どちらかと言えばコミュ障であっただろう…。


死因は不明だ。

寝て起きたらこの世界にいたので、それは知る由もない。もしかしたら、死んですらいないのかもしれない。


前世での俺の話はこれぐらいにして、この世界での俺の話をしよう。




「うぅ…?」


俺は目を覚ませば、ボロ布にくるまって中世風な街の路地裏で壁に背を向けて横になっていた。

最初はそれ驚きこそすれど、すぐに慣れていった。


どうやらこの体は十にも満たぬ孤児の体であるらしく、この世界に来てからの最初の課題は食糧の確保だった。


当然この痩せほそった子供の体では日銭を稼ぐこともできず、その方法は物乞いに限られた。


とりあえず、物乞いに関する知識はないが、周囲の浮浪者のやり方にならってみることにした。


「えーっと…」


ある浮浪者は歌い、ある者は踊り、あるものは芸を、あるものは物を乞うだけだった。


俺は歌や踊り苦手で芸も得意なものは無い。

そうなれば、残された手段はひたすらに通りすがる人間に物を乞うことのみ。


「誰か、誰か食べ物を恵んではくれませんか? 少し…ほんの少しでいいんです」


「ほらよ」


「あ、ああありがとうございます…」


多少どもりつつも、早速パンを男の人から恵んでもらうことができた。

一方、同じように芸をせずひたすらに物乞いを続ける浮浪者は一向に物を得られていない。


なぜだろうか?俺が子供であるから?


そうして不思議そうにパンを見つめていると、近くの浮浪者に話かけられた。


「そこの“お嬢ちゃん”、そのパンが気になるのかの? 代わりに貰ってやろうか?」


「あっ、ち、違います…」


俺はどもりつつも、なんとか言葉の不意打ちに返答できた。


「では何故そのパンを不思議そうに見つめているんじゃ?」


「あっ、そ、その…なんであの人と違って僕だけパンを貰えたんだろうって…」


そう言って、さっきの浮浪者の方を見る。


「“僕”? お前さん、女の子じゃなかったのかね? それに、お前さんほど可愛らしい子供ならば、パンの一つもあげたくなるじゃろうて」


「え?」


俺は珍しく人前であるのにも関わらず、どもらずに声を出した。


女の子?

股間へと手を伸ばし、ソレの存在を確かめようとする。

しかし、そこには慣れた凹凸が感じられなかった。

否、感じられなかったのではない。存在しなかったのだ。


俺はこの世界に来て初めて、自分が女に転生したことを自覚した。




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コミュ障なだけなのに何故か裏社会のドンだと思われてる ビューティフル佐々木 @mune1or1shimethu

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