3. 宿敵との遭遇

ガタガタという音に、この場にいる人々の視線が一ヶ所に集まった。


「生きているんですか?」

「そ、そんなはずが。火葬する前に死んだかどうかもう一度確認するって!」


ドンドン。


再び聞こえる音に、人々は幽霊が出たとざわめいた。


「じゃあ、あれは何ですか?」

「…さあ。」


そそくさと席を立とうとする様子に、私はレンが眠っている棺に近づいた。


「開けるなら、私たちが出てから確認して!」


焦った叫び声と共に、一緒にいた人々は飛び出してしまい、私は一人になった。


彼らの気持ちが理解できないわけではない。

最近の世の中はなんて物騒なことか。死んだと判定された人が安置されている棺が動けば、私だって逃げ出しただろう。


しかし、死んだはずの人が数日後に目覚めたり、土に埋めたのに聞こえる音に墓を掘ったら生きていたという話があるだけに、私は一人残されたユイのためにも確認する必要があった。


棺の蓋を掴んで開けた。

きれいに横たわっているレン。

死んだ人とは思えないほど整った姿だった。

ここが遺体を火葬する場所でなければ、眠っていると勘違いしただろう。


見たところ、レンに異常はなさそうだった。

念のため鼻に手を近づけてみたが、息はしていなかった。


やはり、少し前の出来事は単なる偶然だったのか。

棺を閉じる前にしばらく彼を見つめたが、奇跡は起こらなかった。


「ふう……」


未練を捨てて棺を閉じようとしたその時。


カッと。


嘘のようにレンの目がカッと開かれた。


「ぷはー」


息を荒げるレンの姿に、私の目は見開かれた。


本当に生き返ったのか?

夢じゃないだろうか?


私は慌てて気をしっかり持ち、苦しそうなレンを支えた。


「大丈夫?どこか痛いところはない?」

「あ、肩が痛い。」


慌てて彼の肩から手を離した。

嬉しいあまり、無意識に肩を強く掴んでしまったようだ。


「ご、ごめん。」

「水、水を……」

「ちょっと待ってて。」


ちょうど、近くに水筒があったのでレンに渡した。


ゴクゴク。


「これで生き返った。どうしたんだ?なんで俺はここにいるんだ?」

「あなた、死んだのに生き返ったのよ。」

「…俺が?」


周りを見るように促した。

横たわっていた棺を確認し、

周囲を見た後、沈鬱な表情をするレン。

彼が力なく口を開いた。


「…そうみたいだな。まあ、あんなことがあったんだから当然だろうな。他の人たちは?」



レンが目覚めて数日が経った。

その間、レンは寝ている時を除けばユイのそばを守っていたが、今日は合同葬儀の日だったので、私と一緒に外に出た。


目覚めてからは、以前のような明るい姿は見られなかった。

しかし、私が知る彼なら、妹のためにも気をしっかり持つだろうということは分かっている。


「ご多忙の中、故人の葬儀にご参列いただき、誠にありがとうございます。今回の事故により、私たちは大切な人々を突然亡くすことになりました。あまりにも早い別れに……」


遺族代表が朗読する追悼の辞を聞いていると。


ドカーン。


建物が崩れるような音が聞こえた。

全ての人々の視線が音のした方へと向かう。

不安感が会場を包み込むその時、建物の壁を打ち破り、モンスターが現れた。


「うわー!」

「ど、どいて!」


砕けたレンガがそこら中に飛び散る。

転び、踏みつけられる無秩序の中、人々は災いの元凶から遠ざかるため必死に動いた。

私もその列に加わろうとしたが、遺族として最前列にいたレンは、その場から微動だにせず、迫りくるモンスターを見つめているだけだった。


私は大声で叫んだ。


「突っ立って何してるの?」

「こんなに近くで見るのは初めてかもしれない。」


距離が遠く騒がしいのに。

なぜか彼の言葉がはっきりと聞こえた。


「何を言ってるの?あなた、どうかしてるの?」


逃げる気がないようだ。

家族を失い、妹さえ意識不明の状況で、判断力が鈍っているのだろうか?


焦る気持ちが募った。

これ以上大切な人が死ぬのは嫌だ。


防衛隊のマサヒロ隊長が私を見て、モンスターと対抗する力があるようだと話したが、まだ私は自分の力が何なのかを知らない。


もっと早く防衛隊を訪ねていればよかった。

しかし、過ぎ去ったバスは待ってはくれない。


私はモンスターを呆然と見つめているレンを連れてこの場を離れるつもりで、人々をかき分けて前へ進んだ。


しかし、レンと私の距離は端から端。

私が一歩動くよりも、モンスターがレンに近づく方が早かった。


ドスン。


一度の攻撃でレンの体が宙に浮き、壁に叩きつけられた。


メキメキ。


どれだけ強くぶつかったのか、コンクリートの壁が爆撃を受けたかのようにへこんでいた。

しかし、モンスターがレンに近づくではないか。

まるで息の根を止めようとしているように見えた。


もっと速く動け!僕の足!

このままではレンまで失ってしまう!


モンスターを追い越さなければという思いだけが僕の頭の中を埋め尽くす。

突然、僕の体が本来なら動かせないはずの速度で、レンに向かって撃ち出された。


走っている最中に足をちらりと見下ろすと。

僕の足ではないような形に変形していた。


頭の中に疑問符が浮かんだが、そんなことどうでもいい。今それが重要なことではない。

僕はレンの元へ向かう途中で、地面に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。


モンスターより一足早く到着した私は、レンを背にして横目で彼の状態を確認した。

先ほどの攻撃で左腕がちぎれていた。


床に広がる血溜まり。

あまりにも多く流れ出ているように見えて心配だったが、病院に連れて行くには目の前のモンスターを倒さなければならなかった。


私がこいつを止められるだろうか?


グオオオッ!


いや、それを止めようとするのは間違っている。

私を囮にして、ここから距離を稼ぐべきだ。

私は鉄パイプを握り直し、前へ飛び出した。


体当たりしてくるやつに対し、私は届きそうで届かないように宙に跳んだ。

そして、モンスターの頭めがけて鉄パイプを振り下ろした。


キン。


痺れる手。

まるで鉄の塊を叩いたようだ。


グルル?


奴が体をねじって私を振り返る。

それなりに危険を冒してやったことなのに、少しのダメージも与えられなかったようだ。

いや、視線を引けたならそれでいい。


キンキン!


しっかりとおとりが効いたのか、私に向かって突進してくるモンスター。

私は後ろを振り返り、誰もいない場所へ奴を引き込みながら追跡戦を始めた。


しばらくは大丈夫だった。

しかし、すぐに息が切れ、体が重くなるのを感じた。

少しの間だが、防衛隊が来るまで時間を稼げるという希望を抱いていたのに。

すぐに疲れて何もできなくなる前に、決断を下すべき時が来たことを悟った。


私は行き止まりへと走った。

それから壁を蹴って飛んだ。

今度は頭を叩きつけるのではなく、突き刺すように。


ブスッ。


「ククッ?」


渾身の攻撃が効いた!

しかし、鬼ごっこはもう終わりなのか、私もモンスターの攻撃を受ける寸前になった。


その瞬間。

私の目の前に薄い膜が広がり、モンスターの攻撃を防いだ。


ドスン。


痛くない?

大きな怪我を予想していたのとは裏腹に、どこも怪我することなく無事だった。


それとは反対に、モンスターの頭に突き刺さった鉄パイプからは、蛇口をひねったように血が噴き出していた。


残念だ、僕にもっと力があれば終わらせられたのに……。

急に足が元に戻ってしまったし、息が切れてこれ以上奴と鬼ごっこをするのは無理そうだ。


その時、後ろから風を切る音と共に素早く飛んできた男が、モンスターの頭に突き刺さっている鉄パイプをさらに押し込んだ。

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