第14話 邂逅
「魔物だ!」
「戦える者は武器を――」
村長が言いかけた時、フランベールが遮った。
「お待ちください、ここは私がお守りします! ――“
フランベールが目を閉じる。彼女は両手を前に差し、守護結界を展開する。透明な半球が千年大樹を中心に同心円状に広がり、妖精たちを包み込む。フランベールたちは大樹の麓から魔物を警戒する。
「すごい! なんだこの力は!」
フランベールの力に驚く妖精たち。
狼型の魔物の群れは結界の防御壁を突破できずにただ体当たりを繰り返していた。
「人間はいないぞ村長!」
「どうやら今回は魔物だけのようじゃな。それにしても二夜連続とは……」
最初の一撃は、爪だった。黒い線が弾け、透明な膜に白い亀裂が走る。続けざまの二撃、三撃。獣の息が集まり、結界はビリビリと低い音を返した。
「ぅ……私の力では長くはもちません……!」
冷たい汗がこめかみを滑る。フランベールは呼吸を整え、結界を破られまいと力を込め続ける。
「わたしが戦う」
ミーフィアは小さな胸を張り、風を呼ぶ。
「ミーフィア! お前大丈夫なのか!」
リオーナはとっさに心配する。が、ミーフィアは無問題と前へ出る。
「“
ミーフィアの小柄な体から緑の光が溢れる。
木々、草花がざわめく。森の奥から爽やかな、しだいに鋭い風が吹いた。
『――っ!』
ミーフィアが呼んだ突風は魔物を包み込むように襲う。
一体、二体と敵を鋭利な風で斬りつけ吹き飛ばしていく。
「ミーフィア様! ありがとうございます!」
フランベールが礼を言ったのも束の間、結界の一部が魔物の攻撃によって破られる。
「結界が!」
『グルルルッ!』
結界の穴から二、三、四、と魔物が入り込む。
応戦する妖精たちは次々に傷を負う。
「申し訳ありません、私の守りが……っ!」
「フランベール様はそのまま残った結界の守りを続けてください! 私が負傷した妖精を治癒していきます!」
「――――!」
「――――っ!」
激しい戦いになる千年大樹前。
戦える者は前へ。負傷した者は後ろへ。
「“
リオーナは傷ついた妖精たちに治癒の力をかけていく。
一方、フランベールは結界の維持に限界を感じていた。
「このままでは……結界が……!」
ビリビリとヒビの入っていく結界。
崩壊する寸前だった――まさにその時。戦禍に黒い影が現れる。
「“
地面から無数の影が伸び、実体をもたない流動状の悪魔たちが群れとなって出現した。それらは魔物たちを次々に捕捉していく。
シュウゼが駆けつけたのだ。
「遅れてすまない!」
彼の一声が森の空気を変えた。
無数の影が獣の脚を絡め取っていく。
「シュウゼ様!」
「よかった! 間に合った!」
「あとは俺がやる!」
やがてシュウゼが放った闇の影がすべての魔物を飲み込み、撃破した。
「助かった」
「ふぅ……」
一息をつくミーフィア。そしてシュウゼ。
村の脅威は彼の手によって打ち払われた。
――と思った矢先、
『ガルッ!!』
先ほどの群れと同じ個体の魔物が一体出現した!
「シュウゼ! 危ない!」
「シュウゼ様!」
「しまった!」
シュウゼが力を抜き油断していたその時だった。
魔物の牙がシュウゼに向かう。
ピンチ。誰もがそう思ったその刹那――
「おらぁぁぁぁ!!」
現れた少年の剣戟によって魔物は撃退された。
ヨルケが現れたのである。
「ヨルケ!」
「お前はあの時の騎士!」
少年聖騎士ヨルケの登場に驚く一同。当の彼は振った剣をさっと腰に戻す。
「ヨルケ。お前、ついてきたのか」
「ち、ちげーよ! 勘違いすんな! 鍛錬だ鍛錬。森に修行に来たらたまたまお前らが襲われてただけだ!」
髪の色と同じように頬を真っ赤にするヨルケ。
ツッコミどころには誰も触れずにいるのであった。
「こんな夜にか? そんなに早く一人前になりたいんだな」
「うるせー。お前には関係ないだろっ」
ヨルケのそっけない態度にふっと笑みをこぼすシュウゼ。
「ちょうどよかった。お前に合わせたいのがいるからな。ナイス鍛錬だ」
「…………?」
頭上にハテナを浮かべるヨルケ。
そんな彼をよそに、シュウゼはフランベールを連れてヨルケに対面させる。
「聖騎士ヨルケ。見ろ、天使だ」
「シュウゼ様っ!?」
突然の他己紹介に焦るフランベール。
シュウゼに白い外套をすっと脱がされ、白翼が露わになる。
「な、なっ、天使様――――っ!?」
ドヤ顔を見せるシュウゼ。
照れるフランベール。
祈るリオーナ。
置いてけぼりのミーフィアたち。
そして、慌てて驚き腰を抜かすヨルケだった。
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