2000年からの恋文

七瀬 錨

第1話 出会い

 貴方は輪廻転生、つまり、生まれ変わりというものを信じるだろうか。


 俺は亡くなった人に天国や来世で会えるかもしれないという希望的観測で信じていたけれど、完全に信じていたわけではない。


 スピリチュアル的なもの全般に対してそう思っていた。


 ──あの日が来るまでは。



 あの日──すべての運命が動き出した高校一年の春へ話は遡る。

 


 ──時は2000年、羽田洋太は高校に入学したばかりの15歳だった。中肉中背の有り触れた少年だった。


 まだ肌寒い4月、街はミレニアムブームで洋太には少し浮かれて見えた。


 1999年のノストラダムスが肩透かしだったのも要因の一つかと、洋太は思っていた。


 桜丘高校に入学して中学が一緒だった武田と新井と洋太の3人で新しいクラスでは連んでいた。


 3人とも人見知りだからそれが一番の安全策であった。


 入学から2週間が経ち、何組かのグループが出来ていて、ボッチでなかっただけでも洋太は安堵していた。


 


 ──授業が始まる前のクラスは騒がしい。


 ざわざわとしているクラスの中で洋太の席に話に来ている武田と新井。こうして来てくれるだけで洋太は嬉しかった。



 真新しい教科書の匂いや真新しい制服、まだ馴染んでいないがこのクラスの匂い、窓の外には花が散った桜の木、これが青春の匂いだと洋太はしみじみ思っていた。


 3人の中ではお調子者で少し背の高いポチャリな武田が気だるそうに話し出す。


「何かこのクラス、冴えない奴ばっかだよな」


 洋太と新井は慌てて武田を黙らせた。


「馬鹿!き、聞こえたらどうするんだよ!」


 真面目で、細身で小柄な黒縁眼鏡が特徴の新井が小声で武田に言った。


 洋太もそれに続けた。


「俺らが1番冴えてないモテないグループだろ!ばかたれ!」



 しかし、隣に座っていた女子に聞かれていた。


「あはは、君たち面白いね」



 彼女の名前は川嶋花梨、新井と同じくらいの身長だから162cmくらいだろうと洋太は思っていた。肩まで伸びた、少し栗色の艶のある髪で、透き通るような白い肌、つぶらな焦茶色の瞳、髪をかきあげる時に、ほのかに香る甘い香り。洋太にはとてもタイプの少女だった。そして、さっき思っていた青春の匂いよりも青春だと思っていた。


 だが、モテない洋太たちは、たどたどしく話すことしか出来なかった。


 先陣を切ったのはやはりお調子者の武田だった。


「だ、だしょー、センスが違うんで」


 また洋太と新井は慌てて武田を黙らせた。


 今度は洋太から必死に話した。


「ば、ばかたれ!ご、ごめんね、川嶋さんだったよね?」


 川嶋花梨、ちゃんとフルネームで覚えていたのにフルネームで覚えていたらキモいと思われそうで洋太はわざとそう言ってしまった。


 新井はまた小声で伝えた。新井はいつも小声なのだ。


「ごめんねー、根は悪い奴じゃないんで」


「皆んな仲良いねー。そう、川嶋だよ。川嶋でも花梨でも好きに呼んでよ。私、最近、引っ越してきたから知り合いがいなくて」


 洋太は川嶋に良い所を見せようとした自分が恥ずかしくなったが、川嶋と友達になれるかもしれない嬉しさで舞い上がりながら話した。


「じ、じゃあ、花梨ちゃんで!よろしくね!」


 武田と新井も続けて言った。


「花梨ちゃん、よろしく!」


 花梨は少し照れた感じで笑った。


「わー、嬉しい。一気に友達が3人も。よろしくね。あ、皆んなは洋太君、武田君、新井君って呼ぶよ」


(ちょっと待て、俺だけ下の名前は嬉し過ぎる)


 洋太がそん事を思っていたら、武田がまた、ふざけた。


「名前、覚えてくれていたんだ!でもでも何で洋太だけ下の名前なんだよーた!」


 それは洋太も1番気になったが、すぐ花梨が話した。


「えへへ、洋太って名前は実は私の好きな漫画のキャラなんだ。だから呼んでみたかったの」


 新井が頷きながらボソボソと話す。


「ふむふむ、なるほどね、いや。じゃー俺らも下の名前が平等だよねー」


 武田も訴えた。


「俺は貴文、新井は貴史ー」


 洋太は少し鼻高々になり話した。


「ま、まあまあ、間違えやすいから、よね?」


 花梨は頷きながら話す。


「それなの、ふたりが貴、貴だからごっちゃになりそうで、ごめんね」


 2人は何とか納得して、洋太は悪い気分ではなかった。

 


 ──しかし、この時、他のグループが洋太たちの会話を聞いていた事を知る由もなかった。

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