淡い1ページ

春本 快楓

淡い1ページ

 ある夏の日、僕は彼女と偶然出会った。日差しが強い朝、家の近くの川原沿いを歩いていると、緑色の草地の上で鼻を鳴らしている女の子がいた。泣いている様だった。

 その子は、同じクラスメートの一人だった。学校でいつも活発で目立っていて、あかるい世界にいた。

 いつも暗い世界にいる僕は、泣いているその子を無視……しようとしたが、その子の肌はとても白く、スタイルも良くて……いわゆる、僕のタイプの人だった。また、周りに人ひとりもいないのがいけなかった。

 勇気を出して近くに寄った。彼女の肩を優しく叩き、ポケットから取り出したティッシュを無言で手渡した。

 それから、彼女が泣き止むのを静かに待った。セミのミンミンという声と水の流れる音、自分の心臓音がこの時は騒々しかった。

 泣き止んだ後、彼女……橋本るいさんと僕は、静かに話した。そして、本のことで盛り上がった。僕とるいさんは、同じ小説が好きだったのだ。

 その次の日から、彼女は自転車で、家から一時間もかけて毎日この川原に来てくれた。

 そして、二人で本を読んだ。勿論、それぞれが持参した本を読んだ。

 僕は太陽光を全身に浴びながら読んでいた。一方、るいさんは日傘で紫外線を避けていた。この意識の高さが、雪のような肌の白さにつながっているのだな、と傘からはみ出た黒色のTシャツと短パンを着た彼女を見てしみじみ思った。

 るいさんはバレー部で、朝九時から練習があるので、僕とるいさんが川原で本を読むのは朝七時から八時の一時間だけだ。それに、この間、僕と彼女はほとんど言葉を交わさない。でも、僕たちの間にある絆が日々強くなっているようにこの時感じていた。

 しかし、彼女はある日を境に川原に来なくなった。一緒に本を読み出して二十日が経つ頃だろうか。

 僕たちが二人で本を読んでいる所をるいさんと同じバレー部員が見ていた、という事を夏休み明けに知った。僕とるいさんの間にある物はやはりもろかった。

 十月になる頃には、彼女が泣いていた理由をふとした時に考える、というのは無くなっていたし、彼女の顔も、もう覚えていない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

淡い1ページ 春本 快楓 @Kaikai-novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ