第16話 白い烈火



「コイツ…うおッ!?」


殆ど反射で、振るわれたブレードを上体を逸らす事で躱す。その白銀の剣閃は俺の頭部センサーを掠め大気を裂いた。


「っぶねぇ…」


『相棒!大丈夫か!』


「一応な…!」


慌てて距離を取り、改めて目の前の敵機を観察する。白銀に輝く機体〈ヴァイス〉は同じ色のブレードを持ち、背部には翼の様な大型スラスター。それに敵機の蒼い双眸がこちらを真っ直ぐ見据え、凄まじい威圧感を放っているせいで動悸が治らない。


-エンブレム識別 シャウラ魔法帝国ネームド〈ホワイトフランメ〉-



半分呆然としながら俺は機体の解析結果を眺めていた。かつて本物のレヴナントと互角に渡り合い、8年の時を経た今なおシャウラ魔法帝国の最強に居座るネームドが目の前に居る。


対して、俺は多少他のパイロットより腕が立つだけの傭兵だ。先ほどの攻撃はかろうじて躱せたが、本気で戦ったらどうなるか。


———考えるまでも無いだろう。


『ホワイトフランメよりヴァイザー隊、ここからは私が引き受ける。撤収しろ』


『ッ…了解…』


(……何…ヴァイザー隊が撤退していく…?……見極めようってか)


だが絶望感も、動悸も、ヴァイザー隊を見送りこちらを向き直った白い人型を見て急速に治っていく。


…状況は変わっていない。だがそれは生き残る事を、勝つ事を諦める理由にはならない。


何よりここで死んだら、この世界に跋扈する数多の脅威達と相見える機会を永遠に失うことになる。そんなのあまりにも…。だろう相棒?


『さて、考え得る限り最悪の状況だが…やるか』


「…全力で戦う。それだけだな」


『あぁ。何処までやれるかは分からんが…全力は尽くさないとなッ!』


瞬間、俺とバーミリオンは同時に動き出した。一瞬で距離を詰め、バーミリオンは上から、俺は下からブレードを振るう。


『むっ…鋭い』


『速ぇ…!』


だが振るったブレードはどちらも空を切り、俺達はお互いにぶつからない様回避。しかしそこへすかさず斬り込んできた敵機は、至近距離で背丈ほどあるブレードを軽々と振り回して俺とバーミリオンを吹き飛ばす。


「グッ!」


-シールド全壊 投棄推奨-


『合わせろ相棒!』


「ッ、了解!」


双刀を構え、再度敵機に突撃するバーミリオンを後方からレールガンで援護するべく標準を合わせる。別に当てる必要はない、ただ敵機の動きを制限できれば…!


-ソニックレールガン フルオート ファイア-


甲高い音と共に放たれる砲弾。射線は筒状に敵機を囲む様に設定し、バーミリオンは筒の中央を高速で往く。


『捉えた!』


刹那、ブレードとブレードが交わって火花が飛び散りバーミリオンとホワイトフランメの機影が重なる。さっきまで回避しかしなかった敵機がとうとう防御に出た。これはデカい!


即座に機体を動かし、バーミリオンの反対側からブレードを振り下ろす。当然敵機はもう片方の腕で防ぐが…バーミリオンと鍔競り合いしてる時にそれは悪手だ。


『ハァッ!!』


バーミリオンの蹴りが敵機の胴体に突き刺さり、後方へ吹き飛ばす。インファイトで言えばかなりの腕を持つバーミリオンだ。この程度朝飯前だろう。


「ナイスだ!」


『まだまだッ!』


三度敵機へ斬りかかるバーミリオンを視界に入れつつ、俺は今度は牽制の射撃ではなくの準備をする。


バーミリオンと斬り合いをして機動がブレる瞬間を狙い撃つためだ。


-ソニックレールガン スナイプ形態-


ストックを展開したレールガンを両手で構え、ただひたすらその時が来るのを待つ。


しかし————


『貴様に用はない。墜ちろ』


『躱し…!?ガハッ!!』


「ッ、リヴィ!!」


黒煙を上げ、力なく落下していくガルムⅡ…攻撃を躱されバランスを崩した瞬間にカウンターを入れられたのか?0.1秒にも満たない隙を突いた…?


俺は思いもよらなかった光景に呆然としてしまい、一時的に警戒が疎かになる。


-後方警戒-


「なッ!?グッ…!」


『呆けている暇が有るのか。


背後から振るわれる剣閃を何とか防ぎ止める。……どうやら演じきれなかったらしい。


『聞こえているな、ガルムⅡのパイロット。私はシャウラ魔法帝国空軍、オットー・クリューガーだ。ホワイトフランメとも呼ばれているが、今はどうでも良い。…貴様に問おう、何故レヴナントを騙っている。もし奴の功績を自分のものにしようとしているなら…』


言いながら、白銀のブレードをこちらへ向ける敵機。鋭利な刃先から剥き出しの殺意をぶつけられ、俺は思わず息を呑む。


けどここで押し負けたら、例え本気のネームドを相手にすることになるとしてもここまで支えてくれた基地の皆、そして地に墜ちたリヴィの意思を踏み躙ることになる。


少なくとも、俺から認める事は絶対にする訳にはいかない。




「…俺はアーク連邦傭兵軍所属、傭兵レヴナントだ。それ以上でもそれ以下でもない」


オープンチャンネルを開き、余計なことを話さぬ様手短に返答する。何処で俺が偽物と気づいたか、レヴナントを騙る上で理由が重要なのか…気になる事は多いが、そんな事気にしている余裕など、ない。


-警告 敵機上方-


一瞬の風切り音。白銀の剣が直上から振り下ろされ、受け止める。両腕でブレードを握り締め抗うが、こちらが不利だ。


「グッ…!」


『貴様程度が演じ切れると思ったか?奴は、レヴナントは、私に唯一死を感じさせた男だぞ?』


刃が徐々に押し込まれ、機体の関節が悲鳴を上げ始めた。これ以上は無理だ。機体が先に限界を迎える。


そう判断するや否や、俺は一切の抵抗を止めエマージェンシーマニューバで距離を取り、ソニックレールガンで牽制する……だが、次の瞬間には輪切りにされた砲身が宙を舞っていた。


「チィッ!」


-エクセススラスター噴射-


レールガンを放り捨て再度のエマージェンシーマニューバ。だが今度は敵機の方が早い。


(な、先回りされ———)


「グッ!?」


-警告 機体損傷 左大腿部及び左アーマー損傷発生-


『咄嗟に機体を捻って躱したか。ここまでバレずにいただけの腕はある様だな。だが私含め、単騎でネームド足るパイロット達には通用しない!』


全身を衝撃が襲う。機体ごと吹き飛ばされたらしい、ディスプレイ表示にエラーが生じやがった。


-落下の衝撃に備え-


再度の衝撃と共に土煙が視界を覆う。地面に落下した…何とか上半身を起こして周囲を見回すと、隣には完全に沈黙したリヴィのガルムⅡが横たわっていて———




その胴体の中央には、




「—————イ」




一閃。



迂闊に近寄ってきた白銀の機体相棒の仇へ俺はブレードを振るい、その剣を弾き飛ばした。






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