第11話 火種




「珍しいですね。普段は首都から数十km離れたところを飛んでるのでなかなか見れないんですけど、今晩はメンテナンスか何かですかね?」


「…そうかもな」


機動空中母艦〈アイアンレイヴン〉


アーク連邦が開発した、ルクセリアを中心とする半径50kmのエリアを防衛する超大型航空機だ。


通常任務に当たっている間は高度10000m以上の高空を円を描くように飛行しているため中々見ることはできないが、今日は運良く低空まで降りてきていたらしい。


(平和の守護者…まさか生で見られるとは)


悠々と飛ぶ大鴉の姿を目に焼き付け、思わず心の中で感動の声を上げてしまう。



…だが何故だ、頼もしく見えるその姿に何処か疲労と痛々しさを感じるのは。



************



「…これにて!ブラウンちゃんと往くルクセリア観光ツアーは終了となります!お楽しみ頂けましたでしょうか!」


ルクセリア中央駅に戻ってきた俺達は日が落ち、辺りを人工的な灯りが照らす中で解散の準備をしていた。


「あぁ、アンタに頼んでよかったと心から思ってるよ。最初は何だこの胡散臭いやつはって思ったけど」


「相棒に同じく」


「そ、それはホントすいませんでした…募集出しても誰も依頼してくれなくて内心焦りまくってたので…」


項垂れたように言うブラウン。だがちょっと待て、今朝ホテル出る前に観光ガイドは一通り調べたはずなんだが、名前無かった気がするぞ?


……まさかとは思うけどコイツ、傭兵ギルドに募集出したか?


あ、ちなみにブラウンが傭兵だというのはさっき本人から聞いた。対面した時点で疑ってはいたが、自分から言って来るとは思わなかったけどな。


でまぁその事実を知った上で若干ポンコツの気があるコイツなら、傭兵ギルドに募集を出すとかやりかねないって思ったわけだ。


しかし、次にリヴィが放った言葉は俺とはまるで違った。


「へぇ、顔可愛いから写真と一緒に募集すれば結構集まったかもしれないのに、やらなかったのか?」


「へにゃっ!?」


「ブッ…」


……ブラウンの奇声に思わず吹いてしまった。というかリヴィはしれっと口説いてんじゃない。なまじどっちにも見えるせいで女性からしても破壊力抜群なのよ君。あの基地にいる時は何も無いよう思えるけど、街に出るとたまに見られてるからな?


この相棒がいつか刺されないか心配だ。


「か、かわ…へっと…」


「おっと…すまん、要らん事言ったな」


俯くブラウンを見て謝るリヴィ。多分君勘違いしてる、踏み込みすぎて傷ついたんじゃなくて、恥ずかしがってるだけだぞソイツ。気付かないだろうけども。


「はっ!私は何を?」


「あ、復活した」


ガバッと顔を上げたブラウンは一瞬リヴィの顔に目をやり、その後おずおずと言った様子で俺に尋ねてくる。


「その、実はツアー中ずっと聞きたかったんですけど、お二人は恋人同士だったりするんですか…?あんまり聞いちゃいけないことだと思うんですけど、気になってしまって…」


…なるほどね。確かに男女の関係性として俺とリヴィの距離感はそう見えても仕方ないだろう。けど答えは否だ。俺はリヴィに対して一切の恋慕は抱いてないし、リヴィも同じ。


最も…関係の深さで言えば恋人以上かもしれないが。


「俺とリヴィは恋人同士なんかじゃない。共に死線を乗り越えた——」


「——相棒(バディ)、だろ?ニカ」


「…そうだな」


肩を組んできながら言うリヴィに同意し、ブラウンに視線を向ける。これで納得してくれただろうか?


「…いや…やり取りが熟年夫婦のそれなんですけど…」


えぇー…



************



ニカ達が解散する数時間前 


アーク連邦民間封鎖区域上空 高度2000m



ニカ達の話題に上がっていたアイアンレイヴンは、とある任務のため通常の航路から外れ低空を飛行していた。


黒い巨大な影が乾いた赤褐色の大地に落ち、鉄の大鴉は神話の巨鳥が顕現したかの如く悠然と飛ぶ。


しかし乗組員の軍人達には、このような事を気にする余裕は一切なかった。


『エーテルセンサーに感あり、パルス間隔狭まっています』


『予想より2日程早いか。間に合ってよかった』


アイアンレイヴンが機首を向けている先には〈シュイセル〉の名を持つ巨大なクレーターがあり、周辺には紫の結晶が生えたTHや戦車、戦闘機、果てはアイアンレイヴンの前身となった存在の残骸が散らばっていた。


そしてクレーターの中央には、高さ数百mはあるエーテルの結晶が紫色に光り輝いていて————ピシリ、とヒビが入ったと同時に、根本からその結晶は崩壊する。


『エーテル体の崩壊を確認!根本から巨大なエーテル反応!』


『インパクトが来るぞ!総員衝撃に備えろ!』


瞬間、紫色の波動が崩壊した結晶の根本から放たれ、アイアンレイヴンの巨体を揺らす。


『アイアンレイヴンより司令部、「奴」が起きる。備えを』


『了解した。直ちに緊急対処プロトコルB3を実行、攻撃実施後、目標の沈黙が確認され次第通常航路へ戻れ。以上だ』


『了解した』


アイアンレイヴンと司令部が通信する間にも紫色の波動は間隔を狭め、心臓の鼓動のような音が周囲に響き渡る。


…やがて、その間隔が殆ど分からなくなる程早まり、アイアンレイヴンの戦闘態勢が整うと同時に「それ」が眠りから目覚めた。


「Gyuoaaaaaaaa!!!!!!」


紫の爆光と共に現れたのは、リントヴルムとは比べ物にならない巨体を持つ地龍。


ランク未指定魔獣、個体識別名〈ベヒーモス〉


眠りから覚めたベヒーモスは、クレーターの中央で体を振って背中に積もっていたエーテル結晶の破片を振り落とすと、空から自身を見下ろす不敬な大鴉を睨みつけた。


『アイアンレイヴンより司令部、コード9、繰り返す、コード9』


『司令部了解。〈インヴィジブル艦隊〉が〈スタリーライン巡航ミサイル〉による支援攻撃を開始、並びに〈アンダーテイカー〉出撃、300秒後現着予定』


『予測弾道確認。回避行動』


司令部に加害範囲を示されたアイアンレイヴンはゆっくりと機体を傾け、安全な方向へと退避する。


「Gyuuuuu…」


その様子を眺めていたベヒーモスはこれから自分を何かが襲う事を察知。直ちにエーテル障壁を展開し、真っ向から抗う事を選択した。


…だが鉄の大鴉は、抵抗を許さない。


『エーテル障壁の展開を確認、目標が防御体制に入った。これより攻撃を開始する』


『全砲門開け、撃ち方用意…始め!』


-VLS(垂直発射システム) 1番から200番セルハッチ開 ミサイル一斉射-


-主砲 1番から12番 一斉撃ち方-


艦長の声から遅れること数秒、全幅2kmを超えるアイアンレイヴンの機体から無数のミサイルと砲弾が放たれ、ベヒーモスへと一斉に襲いかかる。


「Gyuiaaaaaaaa!!!!」


『命中、攻撃続行』


着弾した砲弾やミサイルはいずれもエーテル防壁に阻まれ、致命傷を与えるには至らず終わる。だがそれでも、一切の損傷を与えられないほど鉄の大鴉が行う攻撃は緩くない。


『〈ダインスレイヴ〉射撃開始。エネルギー充填、標準合わせ』


『了解、リコイルコントローラー起動、砲門開きます』


言葉の後、アイアンレイヴンの機首下方装甲板が展開され、鉄の大鴉が口を開く。


そして奥に覗くのは、蒼い燐光を放つ巨大な砲口。


-ダインスレイヴ エネルギー充填率72% 投射出力85で固定 使用弾体 超硬度タングステン貫通弾 装填完了-


-エネルギーチャンバー圧力上昇 エネルギー充填率100% 砲身異常無し-


-射撃システムオールグリーン 最終安全装置解除 ダインスレイヴ 射撃準備完了-


システムが乗組員達に射撃準備完了を示す表示をメインディスプレイに出し、艦長以下指揮要員は射撃姿勢を取る。


『ダインスレイヴ標準完了、いつでも撃てます』


『分かった…』


呟く艦長の目線の先には、全身を淡い紫の膜で覆ったベヒーモス。その姿を見て一息ついた後、艦長は言葉を発する。




『ダインスレイヴ…撃て!』







************


用語解説



MAAC-3 アイアンレイヴン



諸元


全幅:2007m

全長:628m

全高:231m

総重量:22万t

乗員数:673名


搭載武装


・80cm機首固定型大型電磁加速砲〈ダインスレイヴ〉

・46cm単装電磁加速砲塔×12

・155mm単装速射砲×20

・40mm対空電磁加速砲塔×6

・20mm近接防御機関砲×20

・Mk-57ミサイル垂直発射システム×200

・汎用戦術レーザー×4

・大型巡航ミサイル〈サリッサ〉

・大出力電磁防壁システム〈イージス〉


搭載機

・通常規格TH×60

・標準艦載機×20

・各種ヘリコプター等


アーク連邦が数年の時間をかけて設計建造した超大型航空機。長大な主翼と飛行甲板、さらに一個空母打撃群に匹敵する火力投射能力を持ち、表向きはアーク連邦首都ルクセリアの防衛の要として運用されている。


だが本来の任務はアーク連邦領内に居つく討伐不能の巨大魔獣〈ベヒーモス〉への対処であり、乗組員は退役するまでアイアンレイヴンで勤務することとなる。

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