愛機を黒く塗っただけなのに!〜最強エースの帰還扱いされた傭兵は、名前負けしないよう全力で戦って本物のエースを目指します〜

ユーラ@KKG&猫部

第1話 全ての始まり






「こっちもうちょいで塗装終わるぞ」


「上半身終わったから俺は一回遠くから眺めてみるわ」


「あいよー」


灰色のウルフカットに、同じ色の瞳を持つ女性…相棒にして同僚である「オリビア・ジョンソン」、タックネーム〈サイレンサー〉の間伸びした声を聞きながら、俺は梯子から飛び降り目の前に佇む巨大な人型を見上げた。


MF-628 ガルムⅡ


黄緑色のバイザーを備えた全高15mを超える人型機動兵器THタクティカルヒューマノイド、その量産型だ。マスキング素材に覆われた機体は、本来灰色のカラーリングだが今その色は漆黒へと塗り替えられていた。


かつて存在した最強のエースパイロット〈黒い亡霊レヴナント〉をイメージしたんだが…中々カッコ良くなりそうだ。


おっと、自己紹介が遅れた。俺は「ニカ・ハルヤ」、タックネームは〈テイクオーバー〉。このアーク連邦の傭兵パイロットだ。紺色の目にこの国では珍しい黒色の髪をしてる。身長と顔に関しては…まぁ平均程度と言っておこう。


で、何で俺が愛機を黒く染め上げてるのかって?そんなん決まってんだろ、黒色はカッコいいからだよ!…まぁ言っても思い立ったのはついさっきだけどな。


取り敢えず今はリヴィオリビアの愛称、そして整備員の皆と塗装を頑張ってる。装甲板が細かいから塗装が大変のなんの…


「うしっ、腰部もあらかた終わったぜ」


「おけ、こっちももう少しだ」


と思ったがどうやら作業はもうすぐ終わりそうだ。早くマスキング素材剥がして愛機がどんな風に変わったのか見てみたいぜ。





…この時の俺は、気軽に行った愛機を黒く染めるという行為が今後どれだけ俺の人生に影響を与えるか、全く分かっていなかった。





************



「おーし、作業終了だぜ」


「皆お疲れ、ごめんな俺のわがままに付き合わせて」


「良いってことよ。お前はこの基地期待の新星なんだから少しくらいわがまま言ってもバチは当たんねぇさ」


数十分後、俺達は全ての塗装作業を終えて漆黒になった機体を晒すガルムⅡを眺めながらお互いを労い合っていた。


機械アームの力を借りたことで思ったより早く終わったが、それでも大仕事だったことに変わりはない。さて作業終わったから早速試験飛行でも…誰かカメラ得意な奴居ないかな。


などと呑気に思っていたその時。


『ウウウウウゥゥゥゥーー!!!』


「ッ!?マジか!」


『スクランブル、スクランブル。軍事境界線より30km地点にシャウラ魔法帝国のEFエーテルフレームの編隊を捕捉。各パイロットは直ちに緊急発進』


基地中にけたたましいサイレンが鳴り響き、スクランブルを知らせる放送が入る。だがこんな事は日常茶飯事なのがこの基地の恐ろしいところだ。


「ほらヘルメット、すぐに出よう」


「さんきゅ」


収納型操縦服を即座に身に纏い、リヴィからヘルメットを受け取った俺は急いで梯子を登り愛機のコックピットに滑り込む。


「ニカ!マスキングしてたから塗装作業の影響は無いと思うが、もし関節とか異常があったらすぐ退けよ!」


「分かってる!」


整備員に答えつつ俺はシートに腰を下ろしハッチを閉め、ディスプレイに大きく表示されたアーク連邦の国旗をタップ。同時に機体のサブシステムが立ち上がり、自動で機体各部のチェックが開始された。


-機体各部チェック開始-


-各センサー 各駆動部 異常なし 動力炉全力稼働可能-


-武装システムオンライン-


「さてさて…今日は何機来たのやら」


呟きつつ俺は機体と神経接続を行い、愛機と人機一体となる。


「ッ…」


-パイロットとの神経接続完了 動作同期-


-接続強度 極めて強 安定度 問題なし-


視点が愛機と同じ高さになった事で周囲の様子がよく見えるようになった。このハンガー格納庫には俺とリヴィのガルムⅡ。そして8機の無人TH、UM-23 〈サイクロプス〉が駐機しており、既に端の機体から発進口へと移動を開始していた。


『ヴァルキュリア隊、敵部隊は軍事境界線から20km地点まで接近してきている。急いで迎撃しろ』


『「了解」』


管制官から通信が入ると同時に、俺の機体が固定アームごと発進口へと動き出す。





…今から数百年前、この世界に存在していた2つの文明が相見えた。直径が4万kmを超えるこの星〈アズレア〉は、早期にお互いがお互いを認識するには少々広大すぎたからだ。


片方は今のアーク連邦の元となった蒸気機関を主とする科学文明で、もう片方は今のシャウラ魔法帝国の元となった魔法文明である。両文明は当初は協調路線を取っていたが、徐々に対立関係へ変化していき、そして丁度100年前、とうとう両国は戦争状態に陥った。現在は血で血を洗う激戦こそ起こっていないものの、この関係は続いている。


俺の所属するこのグロメア前哨基地はこの戦争における、ある意味最前線と言っていいだろう。主な役目は軍事境界線の監視及び領域侵犯を行うシャウラ魔法帝国の戦力を撃破する事だからな。主戦線は遥か彼方とは言え、決して暇ではない。





さてそんな事を言ってる内に、前方に発進ステーションが見えて来た。


俺はその中でも「3」と大きくホログラムが表示された発進口に移動、両脚にシャトルが装着させられカタパルトに載せられる。


《3番カタパルト 射出スタンバイ》


《ヴァルキュリア1 発進シークエンスを開始》


《パイロットはメインシステムを起動してください》


「ヴァルキュリア1、起動!」


-メインシステム起動 動力炉稼働開始-


-ディフレクター展開確認 スラスター予備噴射-


言葉と同時にメインシステムが立ち上がり、機体の動力炉に火が入ったことで甲高い駆動音が耳に入る。さらに全天球ディスプレイが戦闘用表示に変化し、スラスターの予備噴射が起こす振動が機体の武者震いの如く俺に伝わってきた。


《ヴァルキュリア1 起動確認》


《カタパルトボルテージ上昇 射出出力まで23》


《発進口解放 カタパルトレール展開》


無人射出管制官の機械音声が告げた瞬間、赤い警告灯が輝き、金属の軋む音を鳴り響かせながらハッチの向こうに朝焼けが見え始めた。隣接する発進口からは既に僚機が飛び立ち合流を待っているはずだ。


《ヴァルキュリア1 射出準備よし》


(…さて、仕事に向かうとするか)


何故かを心の中で呟き、笑みを浮かべながらスラスターを全開に、さらに腰を落として前傾姿勢を取る。


-スラスター全力噴射 射出待機-


…予備噴射のお陰で異常も無い。後は俺が合図を出すだけ。





「ニカ・ハルヤ、ヴァルキュリア1、出るッ!」





足元から散る火花を視界の端に捉えながら、俺は大空へと飛び出した。






************






用語解説


・TH (タクティカルヒューマノイド) EF(エーテルフレーム)



各国が運用する人型機動兵器の総称。動力が魔法由来か科学由来かで呼び名が変わる。人型故の極めて高い汎用性と機動性で戦場を一変させた。近年開発されたものは神経接続による操縦が可能で、パイロットは自分の体さながらに運用することが可能。


・タックネーム


パイロット個人を指す非公式の愛称。主な役割として、パイロットの本名を秘匿し個人を特定されにくくする。同姓同名のパイロットを区別する等が挙げられる。


この世界では半ば公式的な存在で扱われている。


・惑星アズレア


直径が4万kmを超える地球型惑星(この世界に地球という単語はないが)。エーテルの重力干渉作用により、同質量同密度同体積の惑星より重力が弱くなっている。アーク連邦とシャウラ魔法帝国が2大勢力として君臨しているが、他にも国や勢力は存在している。

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