第12話 親子

佐姫さき佐毘売さひめに呼ばれて広間にやって来た。


見ると 花雪とあずと男子学生が並んで座っている。


「初めて見る子だわ。」


花雪が口を開く。「今日は、大切な話をしようと思います。」


「私達夫婦は国つ神とかみです。かみには『渋が下』という泉を守るという使命があり、女の子の跡取りが必要です。」


「言い伝えによると私達が結ばれた際には、一番最初に跡取りの女の子が生まれるはずでした。ところが、ここにいる男の子であるタケルが生まれ、それからは子を成すことがありませんでした。」


「佐姫さん。あなたがなくなった際に佐毘売さまが蛭子ひるこであることに気づかれたのです。その時には正確にいいますと『宝塔がある子供だ』、と。」


佐姫が問う。「私は粕渕の家に生まれたのですが・・・。」


「そうですよね。もちろん、存じております。実はあずの胎内から流れ出た蛭子は、他の人の身体に入ることがあるのです。」


「つまり私がそうであると?」


「はい。」花雪が大きくうなづく。「気付いていたにも関わらず、いままで申し上げず、大変申し訳ありません。」


「まず、あなたは宝塔をお持ちです。それが何よりの証拠です。」「それから、真名まなを見ました。」


「真名って、なんですか?」


「真名はかみの本名です。」


「『あず』だったのよ。」あずが口を挟んだ。「わたしも真名が『あず』なの。これはね、代々継がれていく名前なの。」


佐姫は混乱しながら問う。「では、花雪さんたちと私は繋がっているんですね?」


花雪が答える。「そうなんです。矮のことが収まらなかったこと。父親ならではの私情が入って修行の邪魔になること。だから、すぐには申し上げられなかった。」


あずが言う。「もう、二度とあなたを失いたくなかったのよ。何かに狙われているあなたが自分を守れるようにしないといけない、と思ったの。」頬を涙が伝っている。「これだけは信じで貰えると嬉しい。」


「もちろん。粕淵のお家のお父様、お母様も、今までと変わりなくご両親であることに変わりはありません。」花雪が言う。


佐姫は情報量の多さに頭が霞んでいたが、やがて落ち着きを取り戻していった。


「わたしは、肉親が増えて嬉しいです。粕淵の親ももちろん大切ですけれど、もう触れないし話もできないんです。ばば祖母が、わたしのことを見えるだけ。私は寂しかったんです。」


あずが佐姫のところまで来て座った。「ありがとう。受け入れてもらえて嬉しい。」そっと佐姫を抱きしめた。佐姫も嬉しそうに笑っている。


佐毘売がそれを微笑んで見守っていた。

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