番外編1「氷壁の騎士の独白」

 俺はガイオン・フォン・ヴァイス。

 かつて王都で「氷壁の騎士」などと呼ばれていた男だ。

 俺の世界は、ずっと灰色だった。

 幼い頃に両親を亡くし、俺はただ強くなることだけを考えて生きてきた。

 剣の腕を磨き、誰よりも強くなれば、誰も俺を見下すことはない。そう信じていた。

 事実、俺は誰よりも強くなった。

 騎士団長の地位にも上り詰めた。

 だが、俺の心は満たされることはなかった。

 王都はくだらない権力争いと嫉妬の渦巻く場所だった。

 俺はそんな世界にうんざりし、自ら最も過酷だと言われる北の辺境へと赴任した。

 そこは、俺の心の中を映したかのような、荒涼とした灰色の土地だった。

 飢えと絶望が支配する、死んだ土地。

 俺はここで自分の役割をただ淡々とこなし、いずれ朽ち果てていくのだろうと思っていた。

 ……君に会うまでは。

 エルナ・アルトハイム。

「偽聖女」の烙印を押され、この地に追放されてきた一人の少女。

 初めて会った時、君は泥だらけになって、石ころだらけの地面を耕していた。

 その姿は、あまりに小さくか弱く見えた。

 だが、その瞳だけは違った。

 すべてを失ったはずなのに、その瞳の奥には決して消えることのない、強い光が宿っていた。

 そして俺は見た。

 君のその小さな手から、奇跡が生まれる瞬間を。

 凍てついた大地が解け、緑の芽が芽吹く。

 それは俺がこの地に来てから初めて見た、色のついた光景だった。

 君は次々と奇跡を起こしていった。

 作物を育て人々を飢えから救い、薬草で病を癒し、緑の壁で町を魔獣から守った。

 君の周りにはいつも人が集まり、笑顔が咲き誇っていた。

 君は、この灰色の世界に色と温もりをもたらしてくれた、太陽のような存在だった。

 俺はいつしか、君から目が離せなくなっていた。

 君の笑顔を見るたび、俺の心の中の厚い氷の壁が少しずつ溶けていくのが分かった。

 君が他の男と親しげに話しているだけで、胸がざわついた。

 これが「嫉妬」という感情なのだと、俺は生まれて初めて知った。

 俺は君を、俺だけのものにしたいと強く思った。

 柄にもなく花を贈ったり、デートに誘ったりした。

 そしてあの丘の上で、俺は生まれて初めて人を愛していると告げた。

 君が俺の想いを受け入れてくれた時、俺の世界は完全に色づいた。

 それからの日々は、まるで夢のようだった。

 君と結婚し、子供にも恵まれた。

 アルトが生まれた日のあの感動を、俺は一生忘れないだろう。

 俺のような男が、父親になれるなんて。

 君は、俺にたくさんの「初めて」をくれた。

 人を愛することの喜び。

 家族を持つことの温かさ。

 誰かを守りたいと、心から願う気持ち。

 エルナ。

 もし君に出会っていなければ、俺は今も灰色の世界で一人凍えていたことだろう。

 君は俺の聖女だ。

 俺だけの、たった一人の聖女。

 俺の人生を救ってくれた、光。

 だから俺は誓う。

 この命ある限り、君を愛し、守り続けると。

 ありがとう、エルナ。

 俺を見つけ、愛してくれて。

 俺の隣に、いてくれて。

 ……今、隣で眠る愛しい妻の寝顔を見ながら、俺はそっとその額に口づけを落とした。

 俺の人生は、幸福に満ちている。

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