第39話「母から子へ、受け継がれる力」
アルトが五歳になった年の春。
エルナは息子を連れて、薬草園を散歩していた。
「アルト、見てごらん。このお花はね、カモミールといって、心を落ち着かせる効果があるのよ」
「ふーん」
アルトは母親の説明を聞きながら、足元に咲いていた一輪の小さな花を、何気なく摘み取った。
その瞬間、アルトの手のひらから淡い光が溢れ出し、摘み取られたはずの花がみるみるうちに元の元気な姿を取り戻していった。
「……まあ」
エルナは、その光景に息をのんだ。
アルトの力が、また一段と強くなっている。そしてその制御が、少しずつできるようになってきている。
エルナは息子を、薬草園の中にある小さな温室へと連れて行った。
そこには一本の枯れかけた苗木が、鉢に植えられていた。それはエルナがどんなに聖なる力を注いでも、決して元気にならなかった唯一の植物だった。
「アルト。この木を、元気にしてあげられるかしら?」
エルナが尋ねると、アルトはこくりとうなずいた。
彼は小さな両手で、そっとその苗木に触れた。
目を閉じ、意識を集中させる。
するとアルトの体から、これまで見たこともないほど強い金色の光が放たれた。
光は、苗木を優しく包み込む。
枯れていたはずの幹が潤いを取り戻し、茶色かった葉が鮮やかな緑色に変わっていく。そして枝の先から、新しい小さな芽がいくつも芽吹き始めた。
それはまさに、奇跡の光景だった。
エルナの「育成」の力とは明らかに違う。もっと根源的な、生命そのものに働きかけるような強大な力。
『聖女の子よ……その力は大地を、世界を癒すための力』
どこからか、精霊の囁く声が聞こえたような気がした。
光が収まった後、そこには青々とした葉を茂らせる、元気な若木の姿があった。
「……すごいわ、アルト」
エルナは息子を、強く抱きしめた。
この子は、自分を超える真の聖なる力を持っている。
その力は諸刃の剣だ。使い方を間違えれば、世界を混乱させることにもなりかねない。
母親として、この子の力を正しく導いていかなければならない。
エルナは改めて、その責任の重さを感じていた。
その夜、エルナはガイオンに昼間の出来事を話した。
「そうか……アルトの力は、そこまで……」
ガイオンも、神妙な顔つきになる。
「あの子には、いずれ力の使い方をきちんと教えなければなりません。それは、わたくしたち親の務めです」
「ああ、そうだな」
ガイオンはうなずくと、エルナの肩を力強く抱いた。
「だが心配するな、エルナ。あの子は俺とお前の子だ。そしてこの温かい国で、たくさんの愛情を受けて育っている。決して道を間違えるようなことには、ならないさ」
夫の力強い言葉に、エルナの不安は少しだけ和らいだ。
そうだ。
一番大切なのは技術ではない。
その力を何のために使うのか。その「心」を育ててあげることだ。
人の痛みが分かり、誰かのためにその力を使えるような優しい心。
それさえあれば、きっと大丈夫。
母から子へ受け継がれた聖なる力。
その力はこれからアルトという新しい世代の光となって、この国と世界を温かく照らしていくのだろう。
エルナは眠っている息子の、天使のような寝顔を見つめながら、そんな未来を確信していた。
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