中間考査の範囲発表

進学校であるこの教室、だがいつもは騒がしい教室も、今日はとても静寂だった。

その静寂の中に紛れ込む一匹の迷える羊であるこの俺、有村翔だ。


今日はどうしてこんなに教室が静かなのかというと、中間考査のテスト範囲が発表されたからだ。今日の中間考査の範囲は、例年と比べるとかなり狭まってはいるが…それでも膨大な課題があることは間違いなかった。


ほとんどの生徒が落胆する中、俺はここをチャンスだと思った。何故かって?落胆している間にも課題を終わらすチャンスがあるわけだからな。友達とかクラスメイトとかと愚痴を言い合っている間にも、成績良いやつはテスト勉強を張り切って頑張っているというものよ。

まあ愚痴を言い合っている時間も、青春って感じがするから嫌いではないんやけどな。


「助けてくれ~」

「…どうした琉斗」

「今日のテストで成績悪かったら親にぶっ殺されるんだよ~」

「お気の毒に」

「そこを何とか~!!!」

「無理、普段勉強してないやつに何言っても無駄」

「ひでぇよ~」


高橋琉斗め…お前は前日に詰めるスタイルを卒業した方がいいだろ。まあそう言うと思って完璧ノートをまとめてはいるんだけどな。ちなみにただ前日に詰めるだけだと赤点は確実にとってしまう。なので取引で俺の完璧ノートを貸しているという訳だ。学年一位のノートだぜ?そりゃ価値があるに決まってんだろ。


「…今回も完璧ノート見せてもらえませんか?」

「ラーメン屋おごりで」

「…分かりました、それでいいです」

「交渉成立だな、テスト範囲分を明日までにコピーして渡す」

「あざっす!」


…大体こんな感じだ。まあこいつは去年もこうして俺にすがってきてる。別クラスになったら絶対に貸してやらん、マジ。てかクラスメイトに完璧ノートを貸してあげてる俺って優しくない?


そしてなぜだか今日は、早めに授業が終わるので早めに帰れるという訳だ。

大半の生徒はここで帰るのだが、俺はあえて教室に残っている。いつもは1時間くらい教室に残って勉強している。ここまで勉強しなければ大学に進学できないからな。


すると、誰もいなくなった教室に、またしても絹川が侵入してきた。


「お、せんぱ~い。勉強ですか~?」

「そうだ、っていうか他学年の教室とか他クラスの教室に勝手に入ってきたらダメだろ」

「誰もいないからいいじゃないですか~」

「風紀が乱れるだろ」

「細かいな~せんぱいは~」


と、絹川は隣の席の椅子を持ってきて俺の席に椅子を置く。


「…何をするつもりなんだ」

「何って、勉強ですけど」

「図書室でもできるだろ」

「じゃあ何でせんぱいは教室で勉強してるんですか?」

「それは…」

「じゃあいいですよね、私…勉強で分からないところがあるんで教えてくれませんか?」

「まあ教えるくらいなら全然」

「せんぱいって学年一位ですもんね、しかも入学してから!」

「そこまで知られてんのもはや怖いんだが」


こうして俺は、絹川に勉強を教えることになった。二人しかいない、孤独がやかましく感じる空間で……

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