サニーサイド

アキトワ

第1話 序章

病弱体質の僕は学校にもロクに行けず、ただ机に向かってはひたすら詩を書いていた。劣等感で押し潰されそうな心情を作品に昇華出来ればそれは僕の存在証明になる。そう言い聞かせて書いていた。


逆を言えば、僕には詩を書くことでしか存在証明をする術を持ち合わせてはいなかった。これをやめてしまっては自分が死んでしまいそうでどうにも怖かったのだ。


久しぶりに登校したある日、同級生の視線が一斉に刺さり冷たい目をしていた。耐え難いその視線を振り払うように俯きながら僕は自分の椅子に座った。授業内容も分かるはずもなくただ葉が落ちる様子を窓越しに眺めていた。


担任が僕に話しかけてきてようやく時間を感じた。日々の様子などを聞かれ、気が遠退くような感覚に陥った。ただ僕は声を振り絞って「詩を書いています。」と言った。多分今にも消えてしまいそうな声だったと思う。先生は少し考えた様子を見せ、提案をしてきた。「学級新聞にかけるくんの詩を掲載するのはどうだろう。」僕は最初こそ乗り気ではなかったが渋々承諾した。


そこからは家で詩を書き溜めて、担任が来た時に提出することになった。僕は自分の意見を言うのが苦手であり、ここに全てを注ぎ込むことにした。担任は僕の詩を褒めてくれた。僕にとってはそれは学校にいけない弱者への慰めにしか聞こえなかった。だがそんなことはどうでも良かった。ただ、自分の感情の捌け口が欲しかっただけだから。僕は体調のことで進捗は遅くそれが無力さを痛い程、痛恨させた。


自室で小説を読んでいた。たしか、人が堕落していく様子を書いたものだ。僕もこれに近いのだろうか。学校にも行けず、意味のない詩を書いて、時間を貪って周りと差がつくばかりで何も成せないまま堕ちてゆく堕落だ。気持ちはいつもどこか湿っていて、どこまでも沼のようで抜け出せない。ただ詩を書くだけでそれ以上でもそれ以下でもない機械と化していた。そんなことをぼんやりと考えているとチャイムが聞こえた。担任だ。詩を持ち去るのだ。僕は玄関で担任を迎えた。原稿用紙12枚分の詩は担任のカバンの中に吸い込まれていった。これは学級新聞に載るんだ。ただ、その感想や評価は耳に届くことはない。まぁ自分の為に書いているだけだから何の問題もないが、それでも人間だ。気になるものは気になる。今度の週末は学校に少し無理をしてでも行ってみよう。そう決心した。


金曜日の午後、荷物をまとめて登校をすることにした。アスファルトを睨みながら変な汗をかきそれを拭って歩いた。学校は職員室を通して行くことになっている。職員室には担任はおらず、教頭が出てきた。2組の教室に近づく。引き返したくなった。なんで来てしまったんだろう。後悔だけが残った。教室のドアを開けるとホームルーム中だった。やはり視線が集中する。僕は徐ろに席に座った。いや、実際は挙動不審だっただろう。いよいよ僕の書いた詩が配られる時間になった。みんなは見た。その学級新聞を。顔色を伺うと興味のなさそうな顔をしている。やっぱりそうだよなぁと思いながら立ち去ろうとしたら声を掛けられた。背筋が凍る様な想いだった。





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サニーサイド アキトワ @Akitowa0527

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