第2話:冷凍庫の覇者アイス襲来
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夜明け前の冷蔵庫は静まり返っていた。
昨日の激戦――チーズの王座崩壊から一晩。
冷気の流れが変わり、庫内は妙な張りつめた空気に包まれていた。
「……平和ってのは、長く続かねぇもんだな。」
プリン・ド・ロイヤルはカラメルの表面をなでながら呟く。
チーズとヨーグルトの残党が沈黙を守る中、
彼だけが光を帯びていた。勝者の証、焦げた甘い香り。
その時――。
「……異常温度検知。上層より冷気流入。」
電子音とともに庫内が震えた。
扉の隙間から、氷の風が吹き荒れる。
「やっと見つけたぞ。ぬるい奴らの王。」
声が降ってくる。
上段――冷凍庫の扉がギギギ……と開き、
白い光とともにひとりの男が降り立った。
全身氷のように白く輝く、冷たい巨体。
手には氷柱を携え、マントには霜が舞う。
「我が名は――アイス・バー・グレイシャル。
冷凍庫の覇者にして、絶対零度の王。」
「……やっと来たか。上層の冷気野郎。」
プリンが一歩前へ出る。
カラメルが淡く光を返す。
「俺の冷気を“ぬるい”と侮った罪、凍りついて詫びろ。」
「断る。甘くて温いのが、俺の流儀だ。」
空気が弾ける。
グレイシャルが腕を振り下ろした瞬間、
庫内の温度が一気に下がった。
「凍結嵐(ブリザード・テンペスト)ッ!!」
氷の刃が走る。棚のトマトが瞬時に凍り、ヨーグルトが白煙を上げる。
プリンの表面が霜に覆われた。
「うっ……!冷たすぎる……!」
> 『焦がせ、プリン。冷気に負けるな。』
心の奥で、牛乳の声が響く。
プリンは微笑んだ。
「そうだな。焦がすことでしか、俺は輝けねぇ。」
彼の身体が光り始める。
「焦糖波動(カラメル・サージ)――解放!!」
カラメルの香ばしい熱が広がり、氷を溶かしていく。
だがグレイシャルは笑っていた。
「甘いな。その熱……俺の糧にしてやる!」
氷の王が腕を広げた瞬間、冷気が逆流した。
プリンの熱が吸われ、体温が奪われていく。
「くっ……体が……固まる……!」
「どうした、スイーツの王よ。所詮は保存食か。」
プリンの動きが止まる。
体の半分が凍り、カラメルの輝きが消える。
牛乳が涙をこぼした。
「プリン……もう、溶けないで……。」
静寂。
冷蔵庫内の温度表示が“0℃”を示したその瞬間――。
プリンの中で、何かが弾けた。
「……これが、限界温度ってわけか。
なら――焦げるまで燃えりゃいい。」
カラメルが赤熱化した。
表面がパリッと弾け、炎のような光を放つ。
「俺はプリン・ド・ロイヤル!
甘くて、焦げて、そして――熱い!!」
「焦糖閃光(カラメル・ブレイズ)――全開ッ!!」
黄金の光が奔流となって走り、氷の王を貫いた。
霜が砕け、氷片が舞う。
グレイシャルは膝をつき、微笑んだ。
「……悪くない。お前の熱、久々に感じた。」
プリンが静かに答える。
「冷たさも、温もりがあってこそ引き立つ。
お前は、それを知ってたはずだ。」
氷の王が笑い、粉雪のように崩れた。
その姿は清々しかった。
温度表示が「3℃」に戻る。
庫内に再び静けさが訪れる。
だがその奥――野菜室の引き出しが、ゆっくりと震えた。
「腐ることを恐れぬ者が、また一人……目覚めたか。」
プリンがカラメルを揺らす。
「……次は下か。いいぜ、受けて立つ。」
――次回、「野菜室の叛乱 〜漬物将軍ピクルの逆襲〜」。
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