4 魔法使いのBBAさんともう一人の殿下ですわ

 完全に身体を断ち切られ、魔力の流れも途切れてしまいましたわね。

半身を感知はできますけれど、さてどうしたものかしら。

こうなっては

情けなくもわたくしが人事不省に陥っているうちに、

無駄に一日を費やしてしまいましたもの。

お時間がありませんけれど、急ぎ新たに伸ばすほかございませんわ。


 わたくしが足元へ魔力を集めて

己の分身ツルを伸ばそうといたしましたその時、



「おお、カンパネッラよ、

斬られてしまうとは情けない」



 あら、このお声は……


 ベッドのわたくしの身体を見下ろすように、

床と天井の間、何も無い空間が裂けましたのよ。

その狭間からわたくしの良く知る方がゆるりと現れて

何か芝居がかったようにお声を掛けられましたの。


 「何ヤツ!」


 間髪を容れずに短槍を突き込んだのは、

部屋の隅に控えていた私の従者でございます。


 「おやめなさい」


従者としては正しい行動ですけれど、

 こ の 方 空間魔法の遣い手に戦意を向けてはなりませんわ。

……カエルと添い寝することになりかねませんわよ?


 「昨日ぶりですわね?

魔法使いのお婆てるるさん

いつも美味しいお水の差し入れ、感謝申し上げますわ」


 「水はアタシが好きでやってることさね、は他人の金だしね。

そっちのお嬢ちゃんも、いきなり部屋へ踏み込んだのは悪かった、謝るよ。

ガサツで申し訳ないが、急いだ方が良さそうだったもんでねえ。

……で、お嬢様、

アンタこのまま干からびちまうおつもりかい?」


 視線で従者を下がらせて、

わたくしは申し上げましたの。

出来ることもせずに不都合を受け入れるなどあり得ませんもの。


 「ほほ、それこそまさかでございましてよ?

たかが上下に分たれた程度で、このわたくしをどうにか出来るとお思いですの?

オーシャンブルー家の者が、そこまで脆弱なわけがございませんでしょうに。

使


 あら、魔法使いのお婆てるるさん、

お歳を召していても満面の笑顔が輝くようですわね。


「おう!その意気やよし!

そんじゃまあ、この婆が

ちょいとけてやろうかねえ。

……どうせ急ぎなんだろ?」



魔法使いのお婆てるるさんは、満面の笑みでそうおっしゃって

魔 法 の 杖カッターナイフ と 魔 法 の 包 帯 ビニールテープをお持ちになりましたの。



 流石は残念なことで有名な我が国の近衛でございますわね。

恐ろしいほどに雑な切り口を、

魔法使いのお婆てるるさんは気軽に

 魔 法 の 杖 カッターナイフ で一閃し、傷口を合わせてから

 魔 法 の 包 帯 ビニールテープ で丁寧に包んで下さいましたわ。


 切り離された上部は、ほとんど感覚も鈍くなっておりましたけれど、

魔法使いのお婆てるるさんが、魔 法 の 包 帯 ビニールテープを巻き終えましたら

まあ、なんと言うことでしょう!

上下に分たれ、魔力の循環も途絶えていたわたくしの身体に、

生命の流れがまた巡り始めたのですわ!


「今日のところは仮留めだねえ、

完全に繋がるかどうかはアンタ次第だし、日数もかかるよ?

そこんところは承知しといとくれ。

 で、まだ繋がっちゃあいないわけだが、


……行くのかい?」


 「ふ、愚問でしてよ?

わたくしを誰とお思いでして?」


 「だよねえ、はは

まあ、行くといいさ、

気の済むまでやっといで。

陰ながらこのババァが応援しといてやるさ。

あの女が隠してるお宝についちゃあ任せときな。


 「そこまで、……ご存じでいらっしゃいますのね」


 「アンタらのためじゃあないよ、

出てこられちゃアタシだって困るんだ、

アタシのために始末してやる」


 「それでも、

この国の者として、心より感謝申し上げますわ。

未曾有の災害となるところでしたもの」


 「ふん、そう受け取りたきゃ勝手にしな。

それよかチンタラしてんじゃないよ

行くならとっとと行っといで。

アタシゃグズぁ嫌いだよ」


 「ええ!

オーシャンブルーの名にかけて

我が国の有り様を守ってみせますわ」



⭐︎



 力強い笑顔で親指を立て、

また裂け目を開いて狭間へと消えていかれた

魔法使いのお婆てるるさんを見送り、思案いたします。


 殿下を虜にしてあの方、どちらにいらっしゃるかしらね、

学園か王宮か。

わたくしの花がある限り、ピンクの魔力は出せずにいることでしょうけれど。

急がなければなりませんわ。

たしか在校生はまだ学園で行事があったはず。



バンッ!



 「無事か!?カンパネッラ嬢!」


 まあ、先ほどから落ち着いたアーバンの魔力が

飛ぶように近づいていましたけれど、

今度は懐かしい方がいらっしゃったわ。

……落ち着きとはかけ離れた大変賑やかな音を立てて。


 「おひさしゅうございます。

キタテハ第一王子殿下。

ですが王族たる者、規範を示さねばなりませんわ。

先ぶれもなく当家に駆け込まれるのはおやめ下さいませ」


魔法使いのお婆てるるさんと言い、キタテハ様と言い、

乙女の部屋をなんとお思いなのかしら?

ことに殿方でいらっしゃる殿下を

お 通 し し た 阻止できなかった者へは一言言わねばなりませんわね。


 「う、ぬ……だが卒業パーティーで斬られたと聞いたのだ。

大事無いか?」


 「ご心配をおかけして申し訳ございません。

このとおり、今は無事にございますわ。

幸いにも助けてくださる方がいらっしゃいましたので」


 わたくしは、一度断ち切られた身体を丁寧に継ぎ合わせ

クルクルと巻かれた魔法の包帯ビニールテープをお見せしましたの。

従者に整えさせたクッションを重ねて寄りかかっていたのですけれど。

上掛けを捲ってお見せした途端、

狼狽うろたえ出すキアゲハ様もなかなか宜しいものですわね。

ほほ。


 「……ん、うむ、それは、良かった。

だがその助け、男か?」


 「ほほ、まだそのようなことをおっしゃいますの?

何年も前にわたくしたちの婚約は解消されましたのに。

いまではわたくしは第二王子殿下の婚約者ですわ。

それが陛下ご夫妻の御意志でした」


 「納得できるものではないがな」


 「そのようなことをおっしゃらないで下さいまし

王命でございますもの」


 「私から無理やり婚約者を奪っておきながら

別の女にうつつを抜かし、

あろうことかそなたに刃を向けるなど。

元々愚弟ではあったが、これは流石に常軌を逸しているぞ?

こちらへの報告は支離滅裂で話にならぬ。

いったい何があったと言うのだ?」


 「学園内で納めておきたかったのですが、

力及ばず、申し開きようもございませんわ。

まずはあの『聖女さま』について

わたくしの知る限りをご説明申し上げます」


 白花さまが学園に編入なされてからの半年間、

卒業パーティーに至るまでを

出来うる限り客観的になるよう努めながらご報告申し上げましたわ。


わたくしの説明を受けながら、

何度も何度も 助 け 手 素肌に包帯を巻いたのは誰かとお尋ねになるキタテハ様のお顔を拝見するのも

また楽しくはありましたわね。ほほ。



 

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