4 魔法使いのBBAさんともう一人の殿下ですわ
完全に身体を断ち切られ、魔力の流れも途切れてしまいましたわね。
半身を感知はできますけれど、さてどうしたものかしら。
こうなっては上は見捨てるべきですわね。
情けなくもわたくしが人事不省に陥っているうちに、
無駄に一日を費やしてしまいましたもの。
お時間がありませんけれど、急ぎ新たに伸ばすほかございませんわ。
わたくしが足元へ魔力を集めて
己の
「おお、カンパネッラよ、
斬られてしまうとは情けない」
あら、このお声は……
ベッドのわたくしの身体を見下ろすように、
床と天井の間、何も無い空間が裂けましたのよ。
その狭間からわたくしの良く知る方がゆるりと現れて
何か芝居がかったようにお声を掛けられましたの。
「何ヤツ!」
間髪を容れずに短槍を突き込んだのは、
部屋の隅に控えていた私の従者でございます。
「おやめなさい」
従者としては正しい行動ですけれど、
……カエルと添い寝することになりかねませんわよ?
「昨日ぶりですわね?
いつも美味しいお水の差し入れ、感謝申し上げますわ」
「水はアタシが好きでやってることさね、おあしは他人の金だしね。
そっちのお嬢ちゃんも、いきなり部屋へ踏み込んだのは悪かった、謝るよ。
ガサツで申し訳ないが、急いだ方が良さそうだったもんでねえ。
……で、お嬢様、
アンタこのまま干からびちまうおつもりかい?」
視線で従者を下がらせて、
わたくしは申し上げましたの。
出来ることもせずに不都合を受け入れるなどあり得ませんもの。
「ほほ、それこそまさかでございましてよ?
たかが上下に分たれた程度で、このわたくしをどうにか出来るとお思いですの?
オーシャンブルー家の者が、そこまで脆弱なわけがございませんでしょうに。
使えなくなった所を破棄して新たに造り上げるだけですわ」
あら、
お歳を召していても満面の笑顔が輝くようですわね。
「おう!その意気やよし!
そんじゃまあ、この婆が
ちょいと
……どうせ急ぎなんだろ?」
流石は残念なことで有名な我が国の近衛でございますわね。
恐ろしいほどに雑な切り口を、
切り離された上部は、ほとんど感覚も鈍くなっておりましたけれど、
まあ、なんと言うことでしょう!
上下に分たれ、魔力の循環も途絶えていたわたくしの身体に、
生命の流れがまた巡り始めたのですわ!
「今日のところは仮留めだねえ、
完全に繋がるかどうかはアンタ次第だし、日数もかかるよ?
そこんところは承知しといとくれ。
で、まだ繋がっちゃあいないわけだが、
……行くのかい?」
「ふ、愚問でしてよ?
わたくしを誰とお思いでして?」
「だよねえ、はは
まあ、行くといいさ、
気の済むまでやっといで。
陰ながらこのババァが応援しといてやるさ。
あの女が隠してるお宝についちゃあ任せときな。
あれが世に出ることはない」
「そこまで、……ご存じでいらっしゃいますのね」
「アンタらのためじゃあないよ、
出てこられちゃアタシだって困るんだ、
アタシのために始末してやる」
「それでも、
この国の者として、心より感謝申し上げますわ。
未曾有の災害となるところでしたもの」
「ふん、そう受け取りたきゃ勝手にしな。
それよかチンタラしてんじゃないよ
行くならとっとと行っといで。
アタシゃグズぁ嫌いだよ」
「ええ!
オーシャンブルーの名にかけて
我が国の有り様を守ってみせますわ」
⭐︎
力強い笑顔で親指を立て、
また裂け目を開いて狭間へと消えていかれた
殿下を虜にしてあの方、どちらにいらっしゃるかしらね、
学園か王宮か。
わたくしの花がある限り、ピンクの魔力は出せずにいることでしょうけれど。
急がなければなりませんわ。
たしか在校生はまだ学園で行事があったはず。
バンッ!
「無事か!?カンパネッラ嬢!」
まあ、先ほどから落ち着いたアーバンの魔力が
飛ぶように近づいていましたけれど、
今度は懐かしい方がいらっしゃったわ。
……落ち着きとはかけ離れた大変賑やかな音を立てて。
「おひさしゅうございます。
キタテハ第一王子殿下。
ですが王族たる者、規範を示さねばなりませんわ。
先ぶれもなく当家に駆け込まれるのはおやめ下さいませ」
乙女の部屋をなんとお思いなのかしら?
ことに殿方でいらっしゃる殿下を
「う、ぬ……だが卒業パーティーで斬られたと聞いたのだ。
大事無いか?」
「ご心配をおかけして申し訳ございません。
このとおり、今は無事にございますわ。
幸いにも助けてくださる方がいらっしゃいましたので」
わたくしは、一度断ち切られた身体を丁寧に継ぎ合わせ
クルクルと巻かれた
従者に整えさせたクッションを重ねて寄りかかっていたのですけれど。
上掛けを捲ってお見せした途端、
ほほ。
「……ん、うむ、それは、良かった。
だがその助け、男か?」
「ほほ、まだそのようなことをおっしゃいますの?
何年も前にわたくしたちの婚約は解消されましたのに。
いまではわたくしは第二王子殿下の婚約者ですわ。
それが陛下ご夫妻の御意志でした」
「納得できるものではないがな」
「そのようなことをおっしゃらないで下さいまし
王命でございますもの」
「私から無理やり婚約者を奪っておきながら
別の女にうつつを抜かし、
あろうことかそなたに刃を向けるなど。
元々愚弟ではあったが、これは流石に常軌を逸しているぞ?
こちらへの報告は支離滅裂で話にならぬ。
いったい何があったと言うのだ?」
「学園内で納めておきたかったのですが、
力及ばず、申し開きようもございませんわ。
まずはあの『聖女さま』について
わたくしの知る限りをご説明申し上げます」
白花さまが学園に編入なされてからの半年間、
卒業パーティーに至るまでを
出来うる限り客観的になるよう努めながらご報告申し上げましたわ。
わたくしの説明を受けながら、
何度も何度も
また楽しくはありましたわね。ほほ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます