第11話 ギルド登録

 あれからこっちの世界で数日もの時間が経過した。あれから配下の鍛冶の腕は見る見る上がり、今ではあの剣よりも強い剣を作れるようになった。


 …何て都合の良い事はなく。今は数を熟さして熟練度を稼がせている。幸いにして俺の魔力が続く限り鉄は無限だ。倉庫の肥やしが多くなるのは問題だが、少しづつ成長している。


「如何な名手とて最後は呆気ないモノだ。故にこそ、お前は強くあらねばならぬ。我らとの戦いではその戦法は禁ずる。」

「分かっているよ。翁の言う通り、俺はこの魔剣での戦いと行こう」


 ゲーム内時間で一日ごとに俺と翁は純粋な剣技のみで戦っていた。最初は回避ばっかりだとかダメージを受けてばかりだとかの醜態ばかり晒していたが、少しづつ成長しているのを実感する。


「甘い…」

「うっそでしょ?」


 いきなり翁が剣を振りかぶったと思ったら、俺の背後目掛けて斬撃を飛ばしていた。それに驚いているモノの、後をよく見ればゾンビの死体があった。もしかして助けてくれた?


「ありがとう…感知が疎かになっていた」

「未熟…あまりにも未熟なり。されど反省をする獣よ。二度目は無い」


 怖ェ~…これからは魔力探知を切らさない様にしないとだな。二度目の失敗をした日には何をされるか分かったもんじゃない。


「其方の剣技は未だに未熟なれど…小鳥の如し剣技を見せる物だ。そのまま精進するが良い」

「分かりました。それじゃあまた今度」


 それから翁と別れて地上にまで顔を出すと、部下の…名前をへパイトスと言うが、此方に剣を抱えて走ってきた。それに対して何事かと思っていると、持ってきた剣を鑑定しろとの言い分だった。


 名前 名無しの鉄剣

 品質 F

 説明 低位の鍛冶技術によって作られた剣

 効果 無し


「ほう…今までのモノとは違うな。」

「はい…ようやっとこの程度の剣を作れるようになりました」


 あれから元ネズミと言う事を差し引いても、賢すぎる生態を見せた俺の眷族によって作られた剣は、ちゃんとした売り物に出来そうな程の一品だった。


「これからも精進して行け。」

「はい」


 それから日差しの元に躍り出た俺は、そのままの足で町にまで向かった。今の状態ならば戦闘になっても余程の事が無い限り死なないだろうという思いからだ。


「アンデットだ~アンデットが出たぞ。」「俺が行く。お前たちは手を出すな」


「待て…手を出すな。俺はプレイヤーだ。」


 プレイヤーだという事を宣言したのが良かったのか、衛兵は少しの懐疑心を持ちつつも対応してくれた。


「それで…貴方は魔物プレイヤーとして転生したと?」

「あぁ…まぁ、そう言う事です」


 それから衛兵さんとの会話もとんとん拍子で進んだ。どうにも今から2カ月ほど前に聖王国に所属している聖女様より、一カ月後に異界人が来ること。そして、異界人は人種以外の場合もあり得る。


「そういうお触れが出たんですか?」

「えぇ…ですが何分職業病と言うモノで…もしもご不快な点がありましたら、私どもに出来る事は何でも致します。」


 う~ん…ここで恩を売っておくのも良いけど、そう大したものが欲しい訳でも無し…取り合えず今は良いかな。


「それじゃあ、この後来るであろう魔物の異界人にも差別なく接してくれると助かります」

「はい…そう言う事でしたら。…そうだ、もしもラングの鍛冶屋に行く際はアイルの紹介だと伝えて下さい。あそこには良い武器が沢山ありますからね。」


 それから気の良い兄ちゃんとの会話を終えて入った街並みは、凄まじいの一言だった。中世ヨーロッパ風の建築物が所狭しと並んでいる光景は、元の世界じゃ見られない光景だろう。


「おぉ~…凄まじいな。」

「おやおやぁ?…そこでお上りさんな雰囲気を出しているのは先輩じゃありませんかぁ~」


 うげぇ…何であっちの世界で聞いた覚えのある声が聞こえるんだ?何かの幻聴か?取りあえずは無視だな。だが、その無視の悉くを貫通する小悪魔めいたボイスと共に、俺の背にはたわわが乗せられた。


「無視なんて酷いじゃ無いですかぁ~…だったら言いますよ。先輩は…」

「わかったよ。聞けば良いんでしょ?聞けば。それで?お前はこっちでの名前は何だよ?」


 彼女は夜のネットワークを漂う暗き電流の花。無数のコードと断片的なデータが織り成す闇の海から、静かに、艶やかに姿を現す。


 髪は漆黒の闇に紫の光を散らしたような長髪。その一本一本が微細な光粒子となって宙を舞い、見る者の視界を惑わせる。瞳は紅と碧の境界…まるで生と死、現と虚のあわいを覗き込むような深淵。


 そこに映る光は、甘い誘いと破滅の予兆であり、彼女の唇は血のように赤く、言葉は毒のように甘い。


「私ですか?私はAAちゃんです。」


 囁く声はノイズ混じりの旋律。聞いた者の心拍を狂わせ、思考を溶かしていく。その身を包むのは、セーラー服を模した紫色の衣。身体のラインを際立たせながら、その豊満なる肉体を際立たせる。


「あれぇ?もしかして、私の魅惑に興奮しちゃいましたか?」

「そんな訳じゃ無いよ。って言うか。良く俺だって分かったね。」


 それを言うと彼女は輝いたかのような笑みを浮かべつつ。俺に腕に纏わりついた。それをうっとおしく思いつつも。俺は抵抗できないでいた。それは、現に力の差と言うモノを理解したから。


「AAちゃんに不可能な事は在りませんとも。」

「そうかい…それで、放してくれないかい?俺はギルドに行きたいんだけど。」


 それを言うと彼女はニヤリと笑みを浮かべつつ、更に腕を絡めてきた。どうやら行き先は同じらしい。それで諦めが付いた俺は、彼女と共にギルドへと足を運ぶ。


「済まないが登録は出来るか?」

「ヒッ…まっ魔物?」

「先輩は魔物じゃありませんよ。ちゃんとした異界人です。この私、AAが保証しましょう」


 どうやら彼女に助けられたようだ。彼女がそれを宣言すると同時に辺りに散らばっていた殺気が鳴りを潜めた。それに対して随分と信頼があるものだと認識しつつ、登録を急かす。


「それで…登録は出来るか?」

「はい…出来ますとも。それでは此方の用紙にご記入ください」


 それからAAは面白いモノを見終えたのかどこかに消えていた。まぁどうせ何時もの事だ。ふらりと現れ、此方を引っ掻き回したと思えば、思い付きで善行を積み、思い付きで悪行を積む。そんな彼女だ。


「まぁ、何れ会うでしょ。」


 それで…記入は…日本語で良いようだな。名前はレイ・ストヴァレンで、戦闘は…遠近両立で良いか。こんなもんだな。


「では試験を始めますのでこちらにお越しください」


 それから案内された先に居たのは筋骨隆々の男の人だった。だが、何かが可笑しい。今までの様な人間めいたNPCとは違い、この目の前に居る人物からは生気が感じられない。


「これって生きてませんよね?」

「おや…感が宜しいのですね。はい、彼は冒険者ギルドが管理する迷宮より回収されたゴーレムです。壊しても構いませんよ。」


 成程ねぇ…ゴーレム。そんな魔物も居るんだな。取り合えず破壊許可も貰った事だし、全力で戦うとするか。



 ————————

 あとがき

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