第9話 翁
「うん?魔力探知に何かが引っかかったな。取り合えず行って見るか。」
俺の魔力探知に何か可笑しなモノが引っかかった。形状は恐らく箱であろうことは察せられる。何らかの罠を疑いつつもその場に行って見ると、これ見よがしに宝箱が置いてあった。
「まぁ…罠じゃ無い事を信じて開けてみるか。…って、どうやって開けるんだ?」
何と宝箱には鍵が掛かっていたのだ。それにショボンとしつつも何か無いか探してみる。そうすると解錠のスキルが習得できるらしかった。
《新しく汎用系スキル〈解錠Lv1〉を習得しました》
《残りSPは40です》
「解錠…あれ?これで大丈夫な筈だよな?魔力も感覚じゃ減っているようだし。…何かが足りないとかか?それとも俺のスキルレベル不足か?」
それから幾度か解錠を続ける事で、ようやっと中身にありつけた。中に入っていたのは丸い宝玉と弓だった。
名前 ガリア木材の小弓
品質 F
説明 曲げ伸ばしがしやすいガリア木材で作られた小弓
効果 無し
名前 射出のスキルオーブ
品質 E
説明 射出のスキルを習得する事が出来るスキルオーブ
効果 射出Lv1
名前 スキルオーブ
説明 スキルが封印されたオーブ、破壊することで込められたスキルを習得することが出来る。
「ふ~ん…まぁ習得しても良いけど、何かに使えるかもだし今は良いや」
それからゾンビを数体殺しつつ迷宮の探索を続けるべく歩みを続けていくと、その場にはまた宝箱が設置されていた。それに対して嬉しく思いつつ解錠を試してみる。
解錠を試した途端にその宝箱は、何と驚くことに二足歩行で立ち上がったのだ。その事に対してかなりビックリしつつも冷静に思考を回す。
「二足歩行の化物?…取り合えず〈解析〉」
名前 実験体No.031
種族 アンデットミミック
種族スキル
擬態Lv3.不意打ちLv1
汎用スキル
戦闘スキル
咬牙Lv2.魔力探知Lv1.体術Lv2.格闘Lv1
魔力スキル
魔力感知.魔力操作Lv3
耐性スキル
状態異常無効.闇耐性Lv1.光脆弱Lv10.火炎脆弱Lv10.回復脆弱Lv10.神聖脆弱Lv10
SP 0
頭部が宝箱になっている裸の人型と言う今までとは一線を画した相手に対して、ビックリと言う感情を隠せないでいた。そして、反射的に神剣を構えて振り下ろす。
「避けただと?」
「グガアァ~」
避けたミミックは、俺を掴むとそのまま宝箱に似た大口を開く…その後の事を予想した俺は、それに抵抗する事を止めて、静かに食べられる時間を待っていた。
「今だ」
「グギャアァ~」
これは全ての生物に言えることだが、生物に備わっている食欲、睡眠欲、性欲…これらを満たせる瞬間程、隙が出来るという物だ。隙だらけの大口を神剣で刺してから、直ぐに拘束を振り払う。
「これで終わりだ。」
無意識に魔力を多めに込めた一撃でもってミミックを沈める。ミミックの死体をインベントリに収納してからダンジョンの内部を歩いていると、階段を守る様に強力そうなアンデットが、大剣を突き立てて立ちすくんでいた。
「解析…したらバレるな。何か強そうだし今は放置が安定だな。」
「そこなアンデットよ。我らが前に姿を現せ」
バレテーラ…俺は静々とアンデットの前に立つ。その一挙手一投足に至るまでに強さの片鱗と言うモノを感じた。
「死無くして命無く命あってこそ死が存在する。」
「どういう意味だ?…って、確か上の本棚に収められていた死霊魔術書に書かれていた文言か?」
それを言うと黒いローブを纏った骸骨の騎士はその頭蓋を撫でまわしつつ少しだけ思索にふける様だった。それから数舜の間を置いて口を開いたかと思えば、驚きの情報が待っていた。
「成程…言語を介さぬ獣ならばこの一刀の元に伏すべきだ。だが、貴様は言語を介さぬ獣に在らず。ならばこそ、死王の宝に相応しき者であろう。」
「死王の宝?」
何だか気になる言葉が出てきたな。死王の宝?ってぇと、この人?はその宝を守る騎士的なポジションなのか?
「しかり…我らは死兵…今は亡き忘星に仕えし騎士にあらず。死王の宝を守る一兵に過ぎん。」
「それで…上の本を読んだ人にその宝を譲るって事で良いのか?」
俺が言うとどこかニヤりとした感情を見せつつも、平坦な顔つきが尚も不気味さを煽る。何か失言をしたのか?それを認識しつつも、何故か声が出せないでいた。
「しかり…だが、今の貴様は宝を賜るに相応しくない。それでも通るというのであれば…首を出せぇ」
「…いや…止めておく。俺は貴方と戦いに来たんじゃない。貴方の審査に通る様努力するよ」
それを言うと骸骨の中の青白い光が一瞬だけ強まった。それと同時に、首筋に感じた寒いモノが退いた。
「成程…我らが術者は死霊の魔術師…それを高位で収めし者に、この宝を譲ろう。」
「それじゃあ…俺はここいらで御邪魔するよ。」
それから逃げるように元の部屋にまで走った。道中で見つけた魔物はすべて無視で、そのまま休憩所まで全速力で走り抜けた。一瞬でもあの場から早く逃げ去りたかったからだ。
「なんだよあれ…まるで死を纏ったかの様な剣士…絶対初心者の前に来たらダメなボスでしょ?」
解析をする間も無かった。まるで死そのものかと勘違いする程の剣士だった。それだけは分かる。
「取り合えず死霊魔術を取ってみるか。」
《新しく系スキル〈水魔術Lv1〉を習得しました》
《残りSPは36です》
《新しく系スキル〈闇魔術Lv1〉を習得しました》
《残りSPは32です》
《新しく魔力系スキル〈死霊魔術Lv1〉を習得しました》
《残りSPは28です》
「SP結構減ったなぁ。これはちょっとレベル上げ頑張るか。」
それから数日後…あれから光虚弱のスキルを中心にレベル上げを頑張った結果、体力回復がレベル10に上がり、光虚弱は光弱化になった。それと共にSPが48に上がったから、まぁ収支としてはマイナスだが、かなり回復した。
「ふっ」
俺は今戦っている。誰とだって?それはあの死を纏う剣士とだ。あの剣士…名をハサンと言うらしいが、彼は剣の達人だ。剣術の特訓をするのに彼ほど都合のいい人物は居ないだろう。
「我らの剣技に迫る気迫…それは良し。その強欲を更に高めるが良い」
「つまりはもっと頑張れって事ね。分かったよ〈斬撃〉」
通常…スキルを習得するにはSPが必要になる。これはその例外の一つだ。剣術と言うスキルに紐づけられた。…アビリティスキルとでも言うか?それを新たに習得したのだ。
それによりハサンの翁が倒れる筈も無く…俺の渾身の一刀は軽々と往なされてしまった。
「やっぱり強いな。ハサンさんは。」
「我らに敬称は不要だ。」
「そうか…ならばこれからは翁とでも呼ばせてもらうよ。」
翁との剣術訓練を終えてから直ぐに、俺は死霊魔術の探求を始めた。初めはあの先に行きたいという思いだったが、今じゃすっかり魔術に魅せられてしまった。
————————
あとがき
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