僕と別れると、世界が1週間に巻き戻る。僕は何度でも君に告白し、永遠に別れ続ける
武者小路団丸
第1話
僕は知っている。
この一週間が、もうすぐ終わることを。そして、僕たちのこの甘い時間も、何もかもがリセットされてしまうことを。
僕の名前は、宮野 悠(みやの ゆう)。僕には、世界が「土曜日の夜」になると、前の週の「土曜日の朝」に巻き戻るという、奇妙な運命が課せられている。
ただし、その巻き戻り(ループ)には、一つの絶対的な条件がある。
それは、僕が彼女、七宮 詩織(ななみや しおり)と、「別れる」こと。
物理的に別れることだけじゃない。僕が彼女に「好き」だと伝え、彼女がそれを受け入れてくれた瞬間。僕たちの心が最高の繋がりを持った、その「幸福な別れ」の直後に、時間は残酷にも巻き戻るんだ。
つまり、僕たちは永遠に結ばれることができない。
僕は、詩織と過ごす一週間を、これまで12回繰り返してきた。
今日が、13回目の土曜日の夜。
時計の針は、夜の11時58分を指している。この針が12時を打つと、僕はまた、全てが始まる土曜日の朝に戻ってしまう。
今、僕たちは、誰もいない駅前の公園のベンチに座っている。僕の肩には、疲れて眠ってしまった詩織の重みが、優しくのしかかっている。
僕がこれまで繰り返してきた12回のループで、僕は彼女の全てを知った。彼女が好きな音楽、苦手な数学、そして、彼女が抱える、誰にも言えない心の闇。
今回のループで、僕は初めて彼女に告白しなかった。
ただ、そばにいて、彼女の孤独を埋めてあげることだけを選んだ。それは、「別れ」を迎えない唯一の方法だったからだ。
「...ゆう、くん」
詩織が、眠ったまま僕の名前を呼んだ。
彼女の顔は、とても穏やかだ。このまま彼女を抱きしめて、永遠にループを止めたいと、僕は強く願った。
時計の針が、11時59分を指す。
このまま何もしなければ、時間が巻き戻ることはない。僕たちは、永遠に、この一週間を繰り返さずに済む。
しかし、その時、詩織の肩が、微かに震えた。
まるで、彼女の体が、次のループを求めているかのように。
「ゆうくん、私……本当は、知ってるよ」
詩織は、目を開かずに、そう呟いた。
「私たちが、この一週間を、何度もやり直していること」
心臓が大きく跳ねた。詩織には、ループの記憶は残らないはずなのに。
「そしてね、ゆうくん。私、このループを、あなたが止めるの、待ってるんだよ」
時計の針が、午前0時を指した。
瞬間、僕の視界は、強い光に包まれた。耳鳴りが響き、体は浮遊感を覚える。
僕は知っている。これは、時間が巻き戻る合図だ。
僕が彼女に告白しなかったのに。僕たちが別れを迎えなかったのに。
どうして、ループが……?
僕の意識が途切れる直前、詩織の顔が、悲しみに歪むのを見た。
「ごめんね、ゆうくん……」
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