アウトロー共の神殺し 〜VR宇宙にて、自由という名の混沌を謳え〜
MeはCat
荒廃した惑星、雷鳴轟く
ようこそVR宇宙へ、そして行ってらっしゃい
フルダイブ型VRゲームの全盛期とも称される程に技術発展した現代。
2000年代も後半を迎え、西暦2501年目を迎える今日この頃、またもや新作のVRMMOが発売される。
Multi Horizons――――――広大な宇宙を舞台としたSF風のVRゲームとされているが、特筆すべきは「非常に自由度が高い」という点だ。
宇宙を冒険するも良し、惑星に定住して生活するも良し。
独自の国や文明を発起して、他組織に戦争を仕掛ける事も可能と聞く。
「いいね、俺好みだ」
俺の名は
どこにでも居る一般ゲーマーだ。
もうすぐ発売されるゲームの中で、面白そうな物が無いか読み漁っていたら、気になるタイトルが目に入った。
自由度を謳っているが、どこまでの行動が可能なのかとても気になる。
詳しくは知らないが、β版の反響では「マップの広大さ」に驚愕する声が多い印象だった。
リリース初期から飽きる事は無さそうで安心したよ。
もう既に事前ダウンロードは済ませている。
VRポッドも問題なし。
俺は起動ボタンを押し、ポッドの中で寝転がる。
そして、Multi Horizonsの世界へと意識を潜っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おや、新入りの方デスカ。ようこそMulti Horizonsの世界へ! 我々は貴方達、来訪者諸君を歓迎しマスヨ!」
目を覚ませば、機械的な音声と共に謎のロボットが立っていた。
辺りを見渡せば、清潔感がありつつも机と椅子だけの殺風景な部屋が広がっている。
ここがロビーのようなものなのだろうか。
「お前は?」
そのロボットは箱のように四角い身体を持ち、上には丸いランプのような球体の顔が浮かぶ風貌をしている。
その丸い顔からはアニメ風の表情を絶え間なく変化させており、実に忙しない。
「よくぞお聞きになられまシタ。この私、来訪者をサポートするよう派遣された案内AIロボット――――――Multi-03、通称“スリーサイズ“と申しマス!」
「……スリーサイズ?」
「私のスリーサイズデスカ? すみませんがロボットなので機械の身体デスし、そもそも性別はございまセン」
「……………………」
「冗談デス! そう、私スリーサイズという名前でございマス。これから貴方をサポートしますので宜しくお願いしマスネ!」
どうやら随分と愉快で調子の良いロボットが、俺のサポートをしてくれるらしい。
……もう既にチェンジして欲しいのだが。
「良いデスか。貴方には自分の容姿を変更して貰いマス。これから広大な宇宙に出かけるのデスから、イカした身体を手に入れまショウ!」
スリーサイズがそう言うと、目の前に初期スキンのような男性のモデルと、設定を変更出来るパネルが出現した。
これはよくあるゲーム開始前の”キャラメイク”というやつだろう。
自分の身体を自分好みにアレンジする。
ぶっちゃけ“癖の壁打ち部屋”と言っても過言では無いよな。
「ふむ、今回はどんなキャラにしようか」
前のゲームでは青髪の好青年、更にその前では渋い老人を作っている。
ならば敢えて少年の姿とか面白いか。
白髪にエメラルドグリーンの瞳――――――特別感を持たせつつミステリーな雰囲気を演出するのも良し。
いいね。
「随分と小さくなりまシタネ」
「ガキだからって侮る輩が出るかもしれないだろ? つまり、カモがやって来る」
「なんだか食虫植物みたいデスネ。それでは、次にお名前を記入してくダサイ」
俺はそう聞かれ、入力欄が現れた瞬間に指が動き、名前の入力を終わらせる。
プレイヤーネームは“ハク”で、他のゲームでもこの名前で統一している。
名前の由来は何かと聞かれれば……俺の本名は白夜 月魄何だが、苗字にも名前にも”ハク”が入ってるんだ。
………それだけだな。
「安直な名前デスネェ……もっとからかい甲斐のある名前でも良いんデスヨ?」
「悪かったな、安直で」
むしろお前のような奴にからかわれないという意味では、この名前で良かったと言うべきなのかもしれない。
VRゲームのデビューからこの名前を使ってるもんだから、結構気に入ってるんだぞ?
「まぁ良いデス。では、まずハクさんには《ステラアーク》という場所に行って貰いマス。そこは
「質問いいか?」
「勿論! どうぞ」
「今、”現状”と言ったな? 他に増える予定があるのか?」
「増える可能性はありマスネ」
ふむ……“増える可能性”、か。
時間で増えるものでもなく、何か条件を満たせば増えるように聞こえるな。
新しい中立都市が出るとなると、新しい機能やイベントも増えるかもしれない。
これからが楽しみだな。
「そして《アストラルドッグ》で自分の宇宙船を買ってくだサイ。そうすれば、他の惑星に飛び立つ事が出来マスよ!」
[新たなクエストを受注しました]
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チュートリアルクエスト『自分の宇宙船を買おう』
報酬:宇宙船カスタムセット
タスク
1.《アストラルドッグ》に行く
2.自分の宇宙船を買う
概要
自分の宇宙船を買ってくだサイ。
もし間違って何か買うような“おつかい初心者“であれば、店でバイトする事をオススメしマス。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
絶妙にムカつく概要してるな。
他の物を買って宇宙船買えなくなっても、自分自身の責任って事か。
「ハクさんにこれをお渡ししマス。これで自分の宇宙船を買ってきてくだサイ。念押ししマスが、“自分の宇宙船”デスヨ?」
「分かってる。流石にそんなポンコツじゃねぇ」
[1000
お金の通貨は“ZN”。見た目はホログラムで出来ていて、“1000”の数字が刻まれているように見える。
現実世界の古臭い硬貨も、そろそろこういうハイテク通貨に変えれば良いのにと思うのだが、俺だけだろうか。
「それで、その《ステラアーク》には何処に行けば?」
「それなら問題ありセン。もう
突然、扉が開く。
眩い光が視界を覆ったかと思えば、もうそこは先ほどの無機質な部屋ではなかった。
目の前に広がるのは、巨大なガラスドームに覆われた都市。
頭上には黒い宇宙空間が広がり、流れる星々と巨大な惑星の影が、まるで背景画のように輝いていた。
建物はまさにネオンの海と表現しても差し支え無く、無数のホログラム広告が宙に浮かび、通りを行き交うプレイヤーとNPCが入り混じる。
主に人間とロボットが人々の大半を占めており、どこか混沌としていた。
「ここが《ステラアーク》か」
思わず声が漏れる。
視界をぐるりと回すだけで、数え切れない施設や建物が見える。
高層ビルの壁面に映るホログラムの看板には、『宇宙船ドッグはこちら』『ギルド募集中』『アストロバー営業中』といった文字が次々に切り替わっていった。
「どうデス? 中々壮観デショウ!」
スリーサイズの軽い電子音が耳元に響く。
どうやらチュートリアル中は同行してくれるようだ。
「思ってた以上だな。まるで現実みたいだ」
流石“全盛期VRゲーム”と言ったところだろうか。
リアル感を軽視する会社も多い中、こういう細部まで作り込まれたゲームは間違いなく“良作”だ。
「その感想、β版のテスター達も同じことを言ってマシタ。どうやら人間の脳は“未知のスケール感”に弱いらしいデス」
「へぇ、豆知識どうも」
俺は軽く背伸びをしつつ、街の中央広場へと歩き出した。
地面は半透明の強化ガラスのような材質で、下にはエネルギーが流れるラインが光っている。
足音を響かせる度、わずかに反応する演出がまた面白い。
すれ違うプレイヤー達の会話も飛び込んでくる。
「おい、《アストラルドッグ》に行ったか? 限定のスパローホークが売りに出されてるぞ!」
「マジかよ!? まだ初期船すら買えてねぇってのに……」
「クエストで稼げばすぐだって!」
皆がそれぞれの目的で動いている。
まだリリース初日とは思えない熱気だな。
「ハクさん、《アストラルドッグ》は中央通りを抜けて東区画にありマスヨ」
「了解。……あ〜早速だが案内頼む」
「任せてくだサイ、“案内AIロボット”デスからネ!」
スリーサイズの体がピカッと光り、地面に光のルートが浮かび上がる。
それを辿るように歩くと、やがて巨大な格納庫が見えてきた。
ドッグの入り口には無骨な宇宙船の模型が飾られ、店員と思しきアンドロイドが整列している。
頭上の看板には輝かしい文字で『アストラルドッグ』と浮かんでいた。
「ようこそ、《アストラルドッグ》へ。新規プレイヤー様ですね?」
「そんなところだ」
「では、初期宇宙船をお探しでしょうか? 初心者向けのモデルをいくつかご紹介いたします」
そう言って店員が指を鳴らすと、目の前に三機のホログラムが投影された。
一つ目は丸みを帯びた小型船ノヴァ。扱いやすく燃費も良いが、火力は低い。
二つ目は細長い流線形のスパーク。スピード重視の探索用だ。
そして三つ目――――――やけに無骨で、錆びた鉄のような外観のバルド。
説明文には“改造を前提としたポンコツ船”と書かれてある。
「なんだ、このバルドってやつ。見た目ボロボロじゃねぇか」
「ですが、潜在性能は未知数デス。開発陣のコメントには“何かが眠っている”と書かれてマシタ」
「まだ判明してない機能があるって事か……」
しばし考える。普通に選ぶならノヴァだろう。
安定していて初心者向け。だが――――――
「……決めた。バルドだ」
「ほう、理由をお聞かせ願ってモ?」
「こいつは大器晩成型だと見た。今はポンコツでも、修理しながら強くすると思わぬ進化が起こるかもしれねぇだろ? そういうのが一番ワクワクする」
「……理解不能デスガ、そういう人間は嫌いではありマセン」
[バルドを購入しました]
[チュートリアルクエスト『自分の宇宙船を買おう』完了]
[報酬:宇宙船カスタムセット]
購入完了の文字が浮かぶと同時に、目の前のホログラムが実体化した。
鈍い銀の装甲が反射する光が、まるで“新しい旅立ち”を告げているように見える。
「よし――――――行くか」
「最初の目的地はどちらに?」
「何処にでも。今は気ままに旅するさ」
操縦席に乗り込み、ハッチを閉める。
エンジンの起動音が低く唸りを上げ、重力がふっと軽くなる。
そして――――――
俺の初めての航海が始まった。
Multi Horizons――――――
その名の通り、無数の地平が、今、俺の目の前に広がっていた。
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