最終話

「はらへった…」


アイスの棒をガジガジ咥えながらぼんやり空を眺める。蜜柑色のタータングラウンドに綿あめみたいな入道雲が浮かぶ夏の空。観客席からの眺めとしては最高傑作だけど、今のところこの競技場にいい思い出はない。


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「ミニョガ、ランシュー忘れてた」


「ん~」


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あの後も相変わらずキヒョンはお節介ハムスターのままだった。気まずい、とかないのか?


久々の立派な競技場での校外練習。グラウンドの真ん中に置かれたハイジャンマットの上にいつも眺めてた背中を思い浮かべてはため息をつく。会いたいなあ。なにしてるかな。


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「なんだよ、こっちくらい向けよ」


「やだよ」


「かわい」


「っ…!?」


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振り向くとけらけら笑いながら観客席を階段にして降りてくるキヒョンの姿。向こうのが恥ずかしいはずなのに、なんで僕がこんなに屈辱的なんだ?いみわかんない…


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「俺、先帰るよ」


「え…!?一緒に帰んないの…?」


「帰ってもいいけど…」


「?」


「地下タータンの入り口でお前のこと待ってる人がいたような…」


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…ジュホナか?なんでよりによって地下タータンで…


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「誰?」


「さあ~?」


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アイスの棒を適当にポッケにつっこんで観客席の出入り口から地下通路に向かう。久々に来たここは静かでひんやりしていてやっぱり別世界みたいだ。


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「ジュホナ~?」


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自分の声がコンクリの壁に響く。返事はない。


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「あ」


「え」


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ドクン。あの時と同じ感覚。


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「きた」


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急に口が乾いて唾をのむ。物音ひとつしない地下の入り口で、僕の心臓の音だけがやたら大きく聞こえた。


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「…ウォノヒョンのとこも、校外練だったんですね」


「ううん、うちはオフ」


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一言交わすたびに変な沈黙ができる。ああ、また心臓いたい…熱い…


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「…ありがとう」


「え?」


「信じてくれて…」


「…?」


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信じる?何を?いつの話……あ。


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「もしかして、あの時、ヒョンウォンとの通話繋がったまま…!」


「…」


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ええ~~?!何言ってた僕?変なこと言ってないよね!?思い出せ!思い出すんだイミニョク!


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『ウォノヒョンには、幸せになってもらわないと困る。でも、幸せにできるのはお前じゃない。』


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『僕が、幸せにする。』


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「あ、ああ~~~~~~~………!」


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穴があったら入りたい、って、こういうときに使うんだ…。頭を抱えて唇をぎゅっとしばる。こうしてないと顔から、というか、全身から火が出そうだ。


チラッと顔を上げると、ウォノヒョンも目線を落としたまま唇をぎゅっとしていた。いつも必ずつけていたはずの細いネックレスが今日はない。ああ、それで…


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「…で、何しに来たんですか?」


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珍しく余裕のなさそうなヒョンをもう少し見物したくなって、つい意地の悪い言葉が出る。


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「え…?!なにって…」


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全然こっち見てくれない。正直一瞬でも気を緩めたら口角が上がってしまいそうだった。耐えろ、イミニョク。もうちょっと、見たい。


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「僕、キヒョン待たせてるんですけど」


「ああ、そっか、ごめん…」


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一瞬顔を上げたヒョンが眉毛を下げてまた下を向く。


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「告白されに来たんですか?」


「え!?」


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ああ顔の筋肉が…正直余裕がないのはこっちの方なのに…ガンバレ僕…


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「そんな言い方しなくても…」


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ってそっちこそそんな言い方したら「そうです」って言ってるようなもんじゃん…。ヒョンウォンがああなった気持ちがちょこっとだけわかる。


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「こないだはヒョンから言ってきたのに今日はどうしちゃったんですかあ」


「な、なんだよさっきから」


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一歩、二歩、ゆっくり近づく。やっと顔がちゃんと見えるところまで来た。ヤバイ。やっぱり顔綺麗だなヒョン。肌しろ。目きらきらだし。くちびるやわらかそー…


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「ヒョン、」


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僕があと5センチ近づいたら、ヒョンは目を閉じる。知ってるんだ。


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「……っん」


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ほらね


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「ヒョン!」


「ふぇ?!な、なに?」


「やっぱり顔、かっこいいね」


「…?」


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「…ミニョクの方がかっこいいよ?」


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あ、ヤバ。


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その後の記憶はやっぱりない。でも一つだけ覚えてることは、ヒョンはベロまでやわらかい。


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「ヒョンウォナ、早くマット片付けろ、先輩卒業したからってたるんでるだろ」


「んえ~?あいあい~」


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あれからウォノヒョンは香水を変えたのか、あのベーコンバニラの匂いはどこからもしなくなってしまった。


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「こんにちは」


「あ、ウォノヒョン」


「ミニョクいる?」


「ミニョクなら水飲みに行ってます」


「ありがとう」


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メモ書きもなくしてしまって、本当の銘柄も思い出せない。


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「…ラブラブだなあの二人」


「そんなこと言ってキヒョンさんだって部長デビューしたんだしおモテになるでしょ~」


「うるせえよ」


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でも、もう二度と思い出せなくていい気がする。あのやたら甘ったるくてクセになる「ベーコンバニラ」を。


そして、傷を癒しあって恋心に変わってしまった友情がもう一つあったことは


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「なあ、俺ら失恋した者同士なんとかなっちゃう?」


「早くマット片付けろバカ」


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また別のお話。


fin.


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主題歌 : DAN DAN 心魅かれてく/ the field of view


https://youtu.be/DWblDkzejo8



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〜あとがき〜


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読んでくださった皆様ありがとうございました〜〜〜!画像にも載せましたが地下タータンは実際に存在します。あそこでチューしてたと思ったらエッッッロムッッッリ。主題歌は


怒った顔も疲れてる君も好きだけど

あんなに飛ばして生きて大丈夫かな、と思う

僕は何気ない仕草に振り回されてる sea side blue

それでもアイツに夢中なの?


という歌詞があまりに🐶🐰で即決しました。お粗末様でした!

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ベーコンバニラ ドアラ @ymnsi

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