佐々木さんと木戸君。
佐々木さっき。
第1話「隣の席の彼女は、消しゴムを積んでいた。」
春。
桜はもう散りかけて、校庭の隅っこにピンクの絨毯を敷いていた。
中学2年の始業式が終わって、僕は新しい教室の、新しい席に座っていた。
窓側、前から三番目。
「よし、今年こそはちゃんとやるぞ」
そんなことを心の中でつぶやきながら、机の角を指でなぞる。
中1のときは、なんとなく流されて終わった。
でも、今年は違う。ちゃんとノートも買ったし、筆箱も新調したし、やる気はある。たぶん。
と、そのとき。
ふと、隣の席に目をやって、僕は固まった。
……なんか、してる。
隣の女子が、無言で筆箱を開けて、消しゴムを取り出していた。
ひとつ。
またひとつ。
さらに、もうひとつ。
え、ちょっと待って。何個目?
ていうか、なんでそんなに持ってるの?
しかも、それを机の上に縦に積み上げてる。
消しゴムタワー……?いや、これもう建築物じゃん。
「……な、何してるの?」
思わず声が出た。
彼女は、手を止めて、僕の方をじーっと見た。
無言。まばたき、なし。
え、え? なんかまずいこと言った……?
「積んでる」
いや、見ればわかる!目的は!?ていうか、消しゴムってそんな数持ってるものなの!?
「えっと……僕、木戸って言うんだ。よろしく」
戸惑いながらなんとか声を絞り出すと、彼女はほんの少しだけうなずいて、視線をまた消しゴムに戻す。
そして、またひとつ、消しゴムを積んだ。
その動きは、やけにこなれていて、無駄がなく、なんだか不思議な感じだ。
でも、やっぱり変わってる。いや、かなり変わってる。
「それ、授業始まる前に完成させるタイプのやつ……?」
僕の問いかけに、彼女はまたうなずいた。
すでにかなりの高さになっている消しゴムの塔を、真剣な表情で見つめている。
「……崩れそうで、崩れないのが、いいんだよね」
そう言って、誇らしげな顔をする。
え、え? もしかしてこれ、突っ込んだほうがいいのか……!?
「そ、そうなんだ…」
僕にはよくわからないけど、彼女はそれがいいらしい。
「まるで人生のよう。積み重ねるほど、不安定。でも、まだ立ってる。……人生って、そんな感じ」
え、なにその例え!?
なんか名言っぽいけど、状況が消しゴムだから!
ていうか、授業始まる前に人生語らないで!?
でも――なんだろう。 この人、
ちょっと目が離せない。
静かで、何を考えてるのかよくわからないけど、
その消しゴムの塔みたいに、崩れそうで崩れない何かを持ってる気がした。
名前、なんて言うんだろう。
僕の中2、ちょっとだけ面白くなりそうな気がした。
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