第5話 限界を超える競技
「何、あれ!?」
もう、そう言うしかない。
眼下に広がったのは、広大なグラウンド。わたしのいる場所は、丘の上。見下ろすとそこに、巨大なアスレチックがあるのかと最初は思った。
でも、違う。あれは障害物競走の障害物だ。大量の障害物が、グラウンドに並べられている。更にそれらに挑む人々の姿も見えた。
幾つもの輪をくぐり、跳び箱用のジャンプ台のような台を五つは繰り返して飛び、徐々に高度を上げていく。頂上まで行ったと思えば、そこからプールへとダイブ。プールまでの距離は、五メートル以上はありそうだ。そこから這い出し、トラックを走って周り、二周目。
「か、過酷じゃない!?」
「過酷な人体の挑戦。それが、この特殊なグラウンドで行われる競技。……どう思う?」
「あなたは……」
また、気配を感じなかった。エレベーターガールの女性はわたしの横に立ち、グラウンドを眺める。
「ただ地上を走って、己の限界を試していた時代は終わり……更なる限界を超えるために、人々は新たな競技を作り出しました」
「なんというか、ゲームの中の競技みたいですね。こんなものを作って、一体何がどうなっているのか……」
「意味がわからないでしょう? でもこれが、わたしたちのリアル。ただ、挑戦し続けて、己を超えて、見たことがない何かを見に行きたい、掴みたいっていう貪欲な熱情。その果てはきっとまだ先だけれど、今はその通過点」
「通過、点」
女性の言葉が、何故かわたしの心を揺さぶった。そう、通過点なんだと。
「……あの」
「はい」
「……自分の限界が来た。そう思って進めなくなったら、どうしたら良いんでしょうか?」
うまく言葉には出来ない。けれど、今わたしが言える精一杯の疑問だった。
タイムが伸び悩み、勉強も同じく。あがいても仕方がない、何をしても変わらない日々が続いて、心がまた折れそうになっている気がしていた。
「……」
わたしの問いに、女性はしばらく考えていた。考えてくれているのが、嬉しかった。
「……本当に限界なのかもしれない。けれど」
「けれど?」
「前に進みたいと思う心が少しでも、一ミリでもあるのなら、それはきっと限界じゃない。いつかその先へ進むための、力をためている大切な時間なんじゃないでしょうか」
「つまり……充電期間?」
「はい。……スマホの充電器は、充電しないとその力を発揮しない。人は、食事をすることで体にエネルギーを作る。それらと、きっと同じです」
「……同じ」
なんとなく、腑に落ちた。胸の前でぎゅっと手を握り締めるわたしの肩に手を置いて、女性はそっと囁いた。
「きっと、道を見付けると信じています。……さようなら、わたし」
「――えっ?」
振り返ったけれど、誰もいない。それどころか、周りの景色すら、ぼんやりと見えなくなり、白くなっていく。
「な……っ。なになになに!?」
騒いだところで、答えなどでない。
わたしはそのまま気を失い、自宅のベッドで目覚めた。
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