議会でも体罰は禁止です

 先日、私が中学三年のときの担任だった元教諭と、仕事の関係で再会した。

 今では町議会議員を務めている。


 私にとっては今も“先生”だが、議員という立場でも“先生”と呼ばれる。

「オレはその呼ばれ方、好きじゃないんだよなあ」

 と彼は言った。

 ヨイショされる感じが嫌なのか、それとも、往年の暴力の黒歴史を思い出すからなのか。


 何せこの人、昭和最後の体罰教師だった。

(今も希少種としてどこかに生息している気はするが。)


「最近は強く言えないからやりにくくて仕方がないんだよ」

 彼はそうこぼした。

 最初は教育の話かと思ったが、よくよく聞けば議員の仕事の話だった。


 いや、どっちの“先生”の嘆きなんだそれは。

 体罰が使えないのは議会でも同じらしい。

 (そりゃそうだ)


 当時の担任クラスには、私を含めて三人の問題児がいた。

 規格外の行動で彼を悩ませたのは事実だ。時には暴力で押さえつけるしかない場面もある。

 それでも彼は、叩くより前に、ちゃんと向き合ってくれた。……気がする。


 時代は変わり、教育も変わり、彼も議員になった。

 ただ、たぶん今も誰かに「分からせてやりたい!」と拳を握りしめているのだろう。


 あの先生はきっと立場を変えてもあまり変わらない、信念の人かもしれない。

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