登山女子補正

 山歩きで出会う女性たちは、なぜかみんなきれいに見える。とても素晴らしい。

 澄んだ空気と、木漏れ日のエフェクト。たぶんそのせいだろうと、ずっと思っていた。


 けれど、あるとき気づいた。

 あれはたぶん、空気のせいじゃない。

 みんな日焼け対策に余念がなく、日焼け止めは二度塗り、帽子はつば広、ネックガードで完全防備。化粧どころか、もはや戦闘準備だ。

 それなのに、なぜか“自然体”に見える。


 考えてみれば不思議な話だ。

 素肌はほとんど見えないのに、

 表情はどこまでも明るく、透明だ。

 風の中で息を弾ませながら、笑っている。

 きっとその“生きてる感じ”が、美しく見える理由なのだ。


 つまり、きれいに見えるのは

 ファンデーションの層でも、UVカットの層でもなく、生きて動いている“生の層”なのかもしれない。


 山は、人を素顔に戻す場所だ。

 もっとも、素顔は思っているよりずっと多層的だけれど。


 そして私は今日も思う。

 下山した瞬間に、どうかその魔法が解けませんようにと。

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