魔力が少なく、才能の無い。それでも魔法使いなりたくて。

藤咲 みつき

第1話  憧れてた世界へ転生したけど・・・。

 子供のころから夢に見ていた魔法がある世界。

 漫画やゲーム、ファンタジーの空想の世界で繰り広げられる戦いや、空を飛んだり、火や水を操り、悪いやつらを強力な一撃で倒す。

 そんなヒーロー、魔法使いで、魔法という存在。

 憧れはいつしか日常の地獄へと消え去り、気が付けば35にもなっていた。

 社会に出て働き、たまの休日にゲームをしてその世界に浸りながら現実という地獄を見ないようにする日々の毎日。

 そんなことがずっと続くと思っていた健はある日、仕事に悩んでいた同僚の女性がひょんなことからその日、会社の屋上で飛び降り自殺しようとするところに出くわしてしまい、何を思ったのか助けようとして、助けた・・・・までは良かったのだが、彼女と入れ替わるようにして体が空をかけ、気が付けば落下する感覚に取らわれ、激しい痛みとともに死を迎えた。

 どうせ死んだらな、転生先は魔法がある世界が良いなぁ。

 そう願いながら宙を舞った彼を、責められる人など誰も居なかった。

 気が付けば、2回目のせいを受けており、記憶を引き継いだまま、転生という形で元板世界とは別の世界へと産声を上げていた。

 最初こそ戸惑った健だが、すぐに状況を理解し、憧れていた転生をできたんだと喜んだのもつかの間だった。

 物心ついて、二本の足で立ち上がり、言葉を理解できるようになって初めて、特に神様から特別な力や、転生したから強い何か、特別な何かを得られた。

 などという、ライトノベルお決まりのパターンもなく、それどころか、5歳になり告げられた一言は。

「この子、普通の子よりも魔力が低いわ。ないわけじゃないし、使えなくはないだろうけど・・・・」

 そう母である、フレイアル・テル・セリア。世界に100に居る魔法使い、フレイルという称号を持つすごい魔女が落胆とともにわが子を見下ろしていたのをよく覚えている。

 この世界でフレイアル・テル・リデル。リデルと呼ばれるようになってから5年、期待に胸を膨らませていたリデルにとって最もショックだった。

 何せ、母親はフレイルという称号持ちの魔女で、魔力だけで言えば世界で10人に選ばれるほどという話だった。

 そんな話をリデルとして生まれてから5年聞き続けていたのだ、期待値と言えばそれはもう最大まで高まっていたのだが、告げられ言葉はあまりにも残酷なものだった。

 それからというもの、腐りそうになる自分を奮い立たせ、必死に勉強を重ね、何とか自分が住んでいるリディルディアの国が所有する魔法学園へと入学することができたのだが、それでも、彼に告げられたのはあまりにも残酷な一言だった。

「君、本気かい?」

「何かまずいのでしょうか?」

「魔力が30しかないなんて・・・少し魔法を使えば使えなくなってしまうぐらいじゃないか。そんなのでここに通うのかい?」

「ダメですか?」

「ダメでは・・・・お母様の権威もあるし構わないが。かなりつらい思いをすることになるぞ?」

 おそらく、老婆心からの忠告なのだろう。

 リデルにそう告げてくれたのは心配そうに見つめるこの学園の学園長で、リデルの母セリアの事を良く知る自分物だった。

 何やら母に恩があるらしく、今回の申し出を無下にできなかったのもそこにあるらしいとリデルは10歳にしてそれを分かってはいたが、せっかくの異世界、楽しまなければという事もあり、子供のようにふるまいつつ「大丈夫です。頑張ります!」と安直に答えたのが、2年前の事だった。

 こうして、異世界転生と期待の才能があるかもしれない、という一縷の望みを抱えながら、リデルとしての人生が幕を開けたのだった。

 そう、輝かしい未来と信じて。

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