#13 電話
[GAME CLEAR]とともに流れたのは薄暗い終わり方とは正反対の爽やかなBGMだった。そしてスタッフロールが流れる。しかしそこに流れたのは1名の名前だけだった。
[シナリオ/企画/キャラクター/背景/音楽/監督/製作者:カゲ]と。
『.....これで終わりか』
その言葉を皮切りに多くのコメントが流れる。
【いい感じの長さだった】【最後想定外】【結構こわかった】
『な!まさか最後ああなるとは思わなかったわ!こわかったわー!』
俺も体をほぐしながらコメントを聞き流す。うつ伏せで見てたからか?首いてー。
『ほんじゃ、キリがいいしな』
「おっ」
どうやらここいらで配信は終わりのようだ。今回も寝落ちせずに最後まで見れたぞ!へへん!
タイトル画面を表示させたままZer0が締めの言葉に入る。
『いやーマジで今日怖かったわ!ほんじゃ!今日の配信はここらへんで!おつかれさん~』
【おつ】【おつ】【おつかれー】【おつかれさん】
その言葉で配信アーカイブが終わる。
Zer0の最後の言葉に妙な既視感を覚える。
..........なんか聞き覚えが...?いや.........デジャブってやつか.........?
少し考えるがたいしたことじゃないと結論付けて残りの飲み物を飲み干す。スマホで時間を確認すると
「......6時24分か、微妙だなー」
百華が帰ってくるのはあと30分ぐらいか。どーすっかねぇ。寝返りを打って考える。
「.......ちょっと寝るか」
50分にアラームをセットしてスマホを切って目を瞑る。いくら動画を見ているときは寝なかったとはいえ長時間集中してみているとやはり疲れはあったのだろう、容易に眠りに落ちることができた。
ピピ...ピピピピ......!!!!
朝と同様に頭の中に流れてきたアラームの快音。胸元までかけた毛布を寝ぼけ眼で押しのける。
時間を確認しつつアラームを止めて体を起こす。朝はあんなに起きるのが億劫なのにこの時間の昼寝は案外あっさり起きれるのは何なんだよ。軽い不満をベッドに残し、部屋を出る。
リビングに入り、キッチンの方へ目を向けると母親が何をしているのかと台所をちらりと見たところどうやら用ご飯の準備をしている模様。時計を確認し、その背中に質問を投げる。今はー....53分か。
「今日の夜ごはんなにー?」
「今日は肉じゃがよ」
肉じゃがか。いいね、なんか和食食べたい気分だったんだよなー。.....ホラゲーみたからか?いや全然関係ねえな。
「おお、いいねー美味そうじゃん」
「まだ見てもないでしょ」
軽いツッコミにはは、と笑い返しつつリモコンでテレビの番組をチェックする。
この時間だしバラエティ番組が多めだな。まあでも見たいやつないんだよなー。
合わないショート動画をスライドするかのように次々と番組を変えていると
『政府の統計データによりますと、不登校である生徒は前年度に比べて9%増加している模様。さらに不登校児の自殺者数はおよそ1500人増加しているとのことです。』
さっきのホラーゲームの内容のせいだろうか、そのニュースが聞こえた途端チャンネルを変える手が止まる。ここはニュースがメインの放送局なのでこの時間にこういった内容が流れていることはおかしくない。そのままぼんやりとテレビを眺める。もうちょいで百華帰って来るかな。
「あんた何ニュースなんか見てんのよ...?ねえ、ちょっと食器出してちょうだい、今手離せないのよ」
母の言葉でハッと現実に引き戻される。テレビではいつの間にかスポーツニュースが流れていた。
「はーい」
のそのそ立ち上がって食器棚から皿を取り出す。えーっと、これと......これでいいかな。
「ん」
「ありがと、そこ置いといて」
母親の手の届く位置、かつ邪魔にならないところに皿を置いて再びソファに腰掛ける。スポーツニュースでは野球のコーナーをやっており、順位表やら現在の試合状況について報せていた。特に何も思うことなく、適当な番組に切り替えてスマホをいじる。
さっきの配信の感想とか誰か話してっかな。
Quitterを開いて百華の帰りを待つ。
そこまで感想関連の発言はなかったが、それでも見つけることの出来たものはどれも大絶賛だった。
[まじでZer0の配信おもろかったな、また見たい]
[Zer0のホラゲー最高すぎたwww個人的には置物の流れ好きw]
その中にはゲームの内容について褒めているものも見受けられた。
[サクっとできそうだしちょうどいい怖さだったな、買ってみようかな!]
[最初の動物の謎解きは素直に作った製作者さんを尊敬したわ]
自分が作ったわけでも何でもないのに誇らしい気分で、さらに感想探しをしていると
「ねぇ」
母親に話しかけられる。いつの間に作り終えたのだろうか、テーブルには出来立ての肉じゃがが3人分並べられており椅子に座っていた。百華が帰ってきたらすぐにご飯をよそうためだろう。
「どしたの」
「ちょっと百華遅くない?気のせいかしら?」
その言葉で顔を上げ時計に目を移すとすでに15分を過ぎたあたりだった。いつもなら5分、遅くても10分ごろには帰ってきておりこの時間はご飯を食べている。
「たしかに、なんかあったかな」
「やめてよ縁起でもない」
不安が滲んだ声色で俺の言葉を窘める。かくいう俺も少し不安だ、いやかなり不安だ。ここまで遅かった日はほとんどない。その遅かった日でさえも、大会前だから帰るのが遅くなるとあらかじめ伝えられている。近々大会があるなんて聞いてないし、帰りが遅くなる連絡なんてもってのほかだ。
メッセージアプリを開いて百華とのトークを開く。履歴を見るとここ数日どころか3週間は会話をしていない。その3週間前の会話ですらコンビニ行くならアイス買ってきてというものだった。メッセージを送ったのち、立ち上がって通話を掛ける。
「ちょっと電話かけてみるわ」
母親の、いや俺と母親の不安をかき消すために。
~♪~~♪
流行りの歌手だろうか、女性の若々しい歌声が呼び出し音として流れる。早く出てこい。
~♪~、
突如音が止まった。どうやら電話に出たようで思わず背筋がピンと伸びる。恐る恐る声を掛けた。
「.....百華ー?大丈夫か?」
大丈夫なのか。こうして電話をかけていると改めて不安を実感する。落ち着きが無くなってきて周囲をうろうろ歩く。数秒経って、震える声を抑えるかのように百華がか細く答える。
「.....おにいちゃん...?」
「大丈夫か!なんかあったか?」
その声を聞いてひとまず安心しながらも優しく聞く。百華を焦らせないように、詳しく何があったか聞きたい気持ちをぐっと堪えて。視界の隅では少し安堵の表情を浮かべながらも手をぎゅっと握った母がこちらに近づいてくるのが見える。
「あの、その......今教室で.....ひっ..!」
「おい百華??百華?百華!!」
何か言おうとした矢先、通話が切れる。突然の俺の大声に母親が困惑しながらも聞いてきた。
「ねえ、あの子何があったの?あんたも急に大声出して。大丈夫なの??ねえ、大丈夫なの!?」
不穏な終わり方を感じ取ったのか、最後は感情を露わにして。
通話が切れて表示された元のトーク画面を見ながら呟くように俺は答える。
「わからない、急に向こうから電話切られた」
「わかんないって......あの子どうしたのよ!!!!」
俺を責める言い方ではなく、どうしようもなさを吐き出すように慟哭する母親。ここまで感情を爆発させる母親を久々に見たことで事態の深刻さをひしひしと感じる。青ざめた顔で部屋中を歩き回る、軽いパニック状態の母親を見ながら深呼吸して必死に頭を回転させる。落ち着け落ち着け、俺が考えなきゃ誰が考える。そう言い聞かせながら疑問を並べる。なぜ百華は通話を切ったのか。何があったのか。どうするべきなのか。
そして1つの結論を出す。
「俺、学校行ってくる」
「学校って......なんで??警察に電話した方がいいでしょ!?」
俺の言葉で動きを止めた母。飛んできたのは肯定ではなく否定の言葉。もう1度深呼吸して伝える。
「最後切れる前に百華は、今教室にいるって言ってた。多分今もいる。だから行ってくるよ」
「それでも!警察に連絡した方がいいでしょ!!」
確かに素人の俺が行くよりも警察が言った方がずーっと安心だ。...............でも
「それはわかってる!!でも、俺は兄だから!百華の兄だから!俺が行かねえと!」
そう、俺は百華の兄だ。いちいち警察に頼んで待ってなんていられない。
「.......あんたも帰ってこないなんてないわよね」
落ち着きを取り戻したのかそう聞いてくる母に答える。
「大丈夫。絶対百華見つけてくるから」
そうはいってもまだ不安が残っている様子の母に、時計を見てから提案する。今は.....7時26分か。
「じゃあ、9時になっても俺から連絡が無かったら、警察でも正...父さんにでも連絡して。俺もできるだけ逐一連絡するようにするから」
父である
「..........分かったわ。でも、本当に逐一連絡すること。これを忘れないで」
そう言っただけだった。
「じゃ、行ってくる」
「....いってらっしゃい、気を付けて」
玄関にて靴を履いて自転車の鍵を片手に、母の言葉に応じてドアノブに手を掛ける。
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