#8 やはり
真っ暗の背景とともに次の瞬間表示されたのは[GAME OVER]の文字だった。
そしてタイトルに戻されると[続きから]の選択肢が追加されている。
『.......ビビったー。普通に怖えな』
【マジ怖い】【至近距離で謝んな】【夜にやるもんじゃない】
「.......ふう」
幽霊が目の前に現れた時から無意識のうちに息を止めていた。思わず息を吐く。それにしても怖い。俺はアーカイブをこうして夕方ごろに見ているからいいもののリアルタイムで見ているリスナー、そしてZer0はこれ以上に怖いだろう。
『まあたぶん合ってる教室があるんだろうな。........地道に探すしかないかー。ふう』
深く深呼吸をして[続きから]そして二番目のセーブデータを開く。
ロードされたのは1階の職員室を出てすぐの廊下。
『じゃ、まずは2階に向かいますか』
面倒だからであろう、走り始めたその時
[ガタッ]
椅子を引くような音が聞こえた。その音でまたもや
『えっえっえっなになに!?!?』
驚いた声を上げるZer0。俺は体をびくつかせる程度で済んだ。ふふん、俺の勝ち。
『あ、そうか廊下は走っちゃダメなんだよな......歩くか』
【忘れてたな】【えらい】【音が出るだけなら歩いてよくね?】
『いやいや、ルールを守る男ですよ俺は』
そう言うと歩いて2階へ向かった。
『んじゃ着いたけど......ここでフラスコが割れるんだよな』
2階に着き、思い出すように言ったその時
[パリンッ!]
割れる音が聞こえた。何の驚きも怖さもないが。
『おっけ、そんで化学教室と...』
【なんかRTAみたいで草】【さくさく進むねー】【フラスコ君かわいそう】
すぐさま右へ向かい廊下に出るZer0。...割れてからの動き出しが早い、なんなら音が聞こえる前からすでに若干右向いてたな。すでに見知った景色であるためこんなくだらないことを考える暇さえある。
そんなこんな、まああっという間に目的地である化学教室に着いた。しかしここで動きを止める。
何をしてるんだと不審になるがすぐさまその行動の意味を理解する。
『ここでセーブしとこ、絶対楽になる』
【これで捕まり放題!】【いい判断】
『さっすがにもうつかまんねーわ!......んじゃ行くぞ』
セーブ画面の三番目に書き込んでメニュー画面を閉じる。
いざ、化学室へ
『はいはいここで破片拾ってと......でここでいったん止まろ。こっからどうするかだな』
教室に入りフラスコに近づいて破片を拾う.......ここまでは前回と同じ流れだがそこから違うのは破片を拾い上げた表示のままでいるところだ。決戦前の作戦会議としてはいささか遅すぎるように思えるがそんなことはまあ置いておこう。一体ここからどのような案が飛び出してくるのか。
『とりあえず合ってる教室探せばいいんだろ?階段が使えないのは前回確認済みだし』
そう言っていろいろな案を出していくがことごとく穴が見つかってしまう。
リスナーからも良さそうな意見は出ていないようだ。三人どころか百人程度の同接がいるだろうに文殊の知恵が生まれる気配は到底無い。体勢を変えながらのんきに眺めるが、これはもうちょっとかかりそうだな。
『いやもうさ...
数分後、その語りだしから始まった作戦の全容は
どうせセーブしてんだしさ、全部の教室開くか試せばよくね?』
【はいいつもの】【知ってた】【.........】【この数分何だったんだよ】
やはり脳筋だった。はあ...と思わずコメントに同情する。......そうだな、この男に作戦を考えろなんて無理な話だった。コメントも見ずに表示を閉じて生徒用の
はやすぎんだろアホか、てかろくに反応伺わずすぐに行動に移してるせいでリスナーも困惑してんじゃねえか。もう少しなんか聞いてみるとかさ......なんかあったろ。そんな俺の思いを引き裂く絶叫。
[ごめんなさい...!!見ないで.............見ないで....!!!ああああああああ!!!]
今回は全く驚かない。それはZer0も同じようだ。僅かも視点をブレさせず幽霊を見据える。
『じゃ、やりますか』
セリフだけ聞くとかっこいいんだよな、セリフだけ聞くと。
『よっしゃまずは教室出て右からと......前回は左に言ったからろくに見てなかったんだよなっと......おっ、隣も教室か?じゃあ確認と..........無理か』
『次はあれだなその隣の教室っと......!......ダメだ』
『じゃあ端っこだな!さっきの教室の隣は......くっそ階段か。』
『そんじゃ左の.......とりあえず[1-6]の教室はっ!!........ありゃ』
『うしいくか』
5回目の挑戦、最初も含めれば6回目だが。......まさかほんとにただドアを開けまくるとは......恐るべし脳筋。つーか復活してからの動き早すぎだろ、RTAじゃねえんだからさ。あと段々口数も減ってるじゃねえか配信者としてそれはどうなんだ。.........いや、脳筋行動取ってるやつにそれ言っても無駄か。
すでに見慣れたフラスコに近づいて破片を拾い上げる。たったの数回で完璧に操作もマスターしたようだ。流石のプレイスキルというべきなのか。
『はい取って......てかよくこんなに破片拾って指とか怪我しねえな。器用に拾うなー。』
【呑気か】【動き出し早すぎだろ】【もうこれは何?】
幽霊に目線を向けながら変な着眼点で呟くZer0。まあそれはそう。
そうして始まる鬼ごっこ(笑)。
[ごめんなさい...!!見ないで.............見ないで....!!!ああああああああ!!!]
『じゃ次は[1-5]な!!さあそろそろ来いっ!.........来た...!』
ようやく引き当てたようだ。だがしかしまだ油断はできない。後ろからはドドドドと足音が聞こえてくる。さてどうするのか。スマホに顔を近づける。
『えちょまってまだ来てるよな?えっと....こういうのはロッカーだろっ!!』
教室をぐるっと見回して掃除道具が入っていつであろうロッカーに突っ込む。Zer0の言う通り、ロッカーは入れるようですぐさま画面がロッカー内の更なる闇へ変わる。数センチの隙間がちょうど目線の高さで存在しているようで若干教室内の様子を窺える。
そしてその直後にガラガラガラッ!とドアが開いて幽霊が入ってくる。教室内を見回したので時間は大丈夫かと不安に思ったが後ろのドアから教室に入ったのが功を奏したようだ。
なんとかギリギリセーフ......だと思うが大丈夫か。
ヒタヒタ.......幽霊が教室内を徘徊する。
早くあっちいけ。......てか俺たちが教室入ったときドア閉めてたのかよ。余裕あんな主人公。
幽霊は教室の前側を怪しいと睨んでいるようだ。黒板付近に佇んでいるのが制限された視界から見て取れる。......やけにドキドキしてくる。鼓動のスピードが速くなるのを体感する。
『はよどっか行けよ...!』
その思いもむなしく今度はこちら側に歩いてくる幽霊。さらに鼓動が早くなる。
『大丈夫大丈夫......いける』
リスナーと己を鼓舞するように呟く。
「......いけるいける..............................ん?」
その声で俺も声が漏れるが何かに気づいてしまった。
幽霊は俺たちの後ろを追いかけてきたんだよな?じゃあ幽霊からしてみりゃ
俺たちがこの教室にいるのは確定してるよな......?......まずくないか?
さらにこちらに近づいてくる幽霊。ロッカーとの距離はおよそ2メートル。
またやり直しか......。うんざりしたように、しかしリスナーに聞こえないように限りなく呟いたZer0の声が聞こえた気がした。
しかし幽霊がとった行動は予想外だった。
ヒタヒタ......なんと自身が開けた後ろのドアから出て行ったのだ。
『え.......たえたー』
「.......あぶな」
【うおおおおお!!】【あぶねー】【まじか!?】
ほうっと息を吐いて顔を少し離す。どうやらなぜか乗り切れたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます