第57話 エピローグ

 異世界から帰還して、三ヶ月。

 俺は、ようやく普通の高校生活に戻れた――はずだった。


 机の引き出しを開けると、そこには小さなクリスタルがある。

 シノンがくれた記念品だ。


「あいつ、元気にしてるかな」


 未来と現代じゃ連絡も取れない。

 もう二度と会うこともないだろう。

 少し寂しいような、でもホッとしたような。

 複雑な気持ちで、俺はクリスタルを机にしまった。


「さて、宿題でもやるか」


 椅子に座り、教科書を開く。

 平和な日常。平凡な毎日。

 ――これでいいんだ。

 そう思った瞬間。


 ガタガタガタッ!


 机が激しく揺れた。


「地震!?」


 違う。揺れてるのは机だけだ。

 そして、引き出しが勝手に開いていく。


 まさか――


「よっ」


 机の引き出しから、シノンがひょっこり顔を出した。


「……………………はあ!?」


「なんで!? なんでお前がここにいんの!? つーかどうやって来たんだよ!?」


「さっきのクリスタル。あれ、僕の簡易端末だっていったよね。【アイテムボックス】で繋がってるから、こっちに来れるよ」


 シノンは机から這い出ると、俺の部屋を興味深そうに見回した。


「へえ、これが21世紀の高校生の部屋か。ラノベがいっぱいだね」


「説明しろ! お前、未来に帰ったんじゃないのかよ!?」


「帰ったよ。でも、こっちの方が面白そうだから、また来た」


「いや、時代違うだろ! 簡単に行き来できんのかよ!?」


「【アイテムボックス】って便利だよね。端末ごと収納できるから」


 シノンはあっさりと言ってのけた。


「…………お前、最初から知ってたのかよ」


「さあ、どうだろうね」


 シノンは答えをはぐらかすと、窓の外を眺めた。


「健太。君の時代も、観光させてもらっていい? 21世紀って、僕らにとっては古代史だから、珍しい体験がたくさんできそう」


 俺は、深く深くため息をついた。


「……好きにしろよ。どうせ止めても無駄だろ」


「ありがとう。じゃあ、まずは秋葉原に行ってみたいな。ミリタリーショップとか、まだあるんでしょ?」


「あるけど……」


 俺が言いかけたとき、シノンが斜上を見た。


「あ、通知だ」


 シノンの網膜になにか光が投影されている。

「へえ、僕の記憶断片、また評価上がってる。『中世ファンタジー世界冒険記』シリーズ、セレブ層にめちゃくちゃバズってるみたい」


「……そうなんだ」


 俺は曖昧に相槌を打った。

 シノンの記録が売れてる。

 それは、シノンにとっては成功で、喜ばしいことなんだろう。


 でも――


「ああ、リクエストも来てる。『続編希望』『現地住民との交流編も見たい』だって。みんな、あの世界のこと気に入ってくれたみたいだね」


 シノンは嬉しそうに笑った。

 俺も、一緒になって笑った。


「そっか、良かったな」


「うん。おかげで僕のレーティング、かなり上がったよ」


「そっか。じゃあまた行って、続編撮ってくるとか?」


「んー、もう行けないかな」


「え、なんで?」


「【アイテムボックス】の繋がり、切れちゃったから」


 シノンは、本当に残念そうに言った。


「あ、そうなんだ」


 俺は、それ以上聞かなかった。


「それより健太、秋葉原案内してよ」


 ――あの異世界は、結局どうなったんだろう。

 でも、その問いを口にすることはなかった。



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異世界召喚されたけど、隣の未来人がヤバすぎる件~気づいたら世界壊れてました~ @aramakid

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