第14話 帝国暗部・情報分析課報告書-2-

【帝国暗部・情報分析課報告書】

件名:アルカディア王国ラスタル領の動向、およびそれに伴う権力構造の変化について


一、ラスタル領主の処分


・ ラスタル領主ギルバート・クレイヴ、王都評議会により謹慎処分との裁定。表向きの理由は、第三王子アルフレッド殿下に「偽のダンジョン産アーティファクト」を献上し、王家の威信を著しく損なったため。

・ また、領主が偽物に騙されたという事実は、交易都市の統治者としての資質に疑問符がつくものと見なされ、領主交代は避けられない見通し。


二、王家の権力構造への影響


・ 本件を最大に利用しているのが第二王子派である。第三王子派の失態を声高に喧伝し、王都における影響力を拡大中。

・ 特に、ラスタル交易港の支配権を巡り、第二王子派が優勢。ただし、軍事を重視する同派閥は経済政策に不得手であり、短期的な交易の停滞は避けられない見込み。


三、教会の動向


・ 一連の騒動の引き金となった二人の少年が大聖堂を訪問後、教会の監視対象となった模様。

・ 教会は直接接触を避け、遠隔から監視を継続。

・ 教会の動きから、彼らが「神託なく召喚された勇者」である可能性が極めて高いと判断される。

・ また、教会が王国の召喚を黙認せず、独自に勇者を追跡している点から、王国・教会間の関係悪化も予測される。


四、対象者の移動先について【最重要】

・ ラスタル港の船会社への聞き込みにより、対象者二名が「帝国学園都市ヴィセール行き」の豪華客船の一等船室を予約していたことが判明。

・ 出航は三日前。現在、すでに公海上にあると推定される。

・ すなわち、対象者らは現在、帝国領内に向かっている。

・ 到着予定日は本報告書提出日より四日後。


総合評価

・ 本件は、以下の点で過去の「王都ポーション市場崩壊」と共通性が認められる:

- 対象地域の主要産業に介入

- 短期間での市場構造の破壊

- 当事者が事態を把握する前に現場を離脱

・ これらの共通点から、偶発的事象ではなく、計画的な破壊工作である可能性が極めて高い。

・ さらに憂慮すべきは、対象者らが行く先々で「最も効果的な破壊点」を正確に把握している点である。


 *


「……勇者が、制御不能な状態で野に放たれている、か」


椅子に深く身を沈めた影が、指先で書類をトントンと叩きながら呟いた。


「王都では経済を、ラスタルでは政治を。奴らは行く先々で、まるで人体の急所を正確に狙うように、国の重要な神経だけを断ち切っていく……」


彼は報告書の最後の一文に目を落とす。


『対象者、帝国学園都市ヴィセールに向けて航行中』


「……帝国に来るか」


彼は冷静に状況を分析する。


「学園都市には、世界中から研究者や学生が集まる。ただの観光客という可能性もある」


だが――


「過去の事例から見れば、その可能性は低い」


熟考の末、彼は静かに命じた。


「第一、学園都市に緊急通達。正体不明の危険人物二名が入国予定。接触は避け、監視を最優先とせよ」


「第二、この異邦人の行動を逐一報告せよ。何を調べ、誰と会い、何を破壊するのか――すべてを記録しろ」


そして、最後の命令。


「第三、全帝国の商会に通達しろ。ラスタル領の運営状況は極めて不透明と判断し、当面は取引を縮小、リスク回避を徹底するよう勧告せよ」


部屋は再び沈黙に包まれた。


――四日後、あの二人が帝国領内に入る。


帝国は、今、最大の危機を迎えようとしていた。



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