4話 頼られても大丈夫!
「あれ、マスター殿。早かったでござるな」
「ああ、確認は回収すればすぐだからな」
「そうじゃないでござるが……まぁ、いいですぞ」
本当に皆、変に勘繰りが上手くて嫌になる。
引き際が分かっているのも……アイツと似ているのかと思うと少しは見習って欲しいな。別に齢十歳の俺が好きな女性相手に何かするだなんて不可能な話だろう。せめて、十二歳は越えないと出来る事も出来ないだろうに。
ってか、どっちも気軽に寛いでいるなぁ。
ユッコに関しては書類業務で受付に戻したけれどさ。普通はマスターと慕う相手が来たらソファで足を伸ばすくらいは止めないかな。確かに応接間と呼ぶには広いし、ギルドマスターとフィアナしかいない状況だとは思うよ。置かれた家具も全般良い物だから気持ちは分かる。でも……まぁ、言っても仕方の無い事か。一先ず、フィアナの隣のソファに座っておく。
「それで……そちらも早いですね」
「はぁ……まぁ、今に始まった事ではねぇが少しだけ手を出すのを待てやしないのか。兄妹揃って手が早いだなんて外に出せやしねぇぞ」
「いえいえ、ハンズさんが相手だからですよ」
ふーん、希釈剤の量は少なかったんだけどな。
これは二週間と言わず、五日もあれば容易に夜を求められても困りはしないか。もう一回ぶっかけてやりたい気持ちもあるけど流石に可哀想だからする事は無い。ってか、俺とアイツを一緒にされるのは不愉快だな。
「濃いヤツでも浴びますか?」
「はぁ……それをされたら今回の件はアラン側にも問題があるとするぞ。まぁ、したところで街の不利益にしか繋がらねぇからする気も無いが」
「分かっているのなら煽りは厳禁ですよ。今回に関しては踏み抜いてはいけない地雷で遊んでいた人達の問題ですから」
そこに転がっている感じ、生きているんだろ。
それなら、まだ幸せな方だ。俺が相手するとなれば行いを後悔させた後に五感の全てを奪って仕事を熟すだけの人形にしていた。少し前に良い毒薬を手に入れたからね。そこら辺を組み合わせれば感情を持たせたままでも……と、変に感情を昂らせてしまった。
「……今回は依頼品の没収、それと共にランクを一段階落とす事でフィアナとは話が着いている。アラン視点では特に問題は無いか」
「え、不必要ですよ。出る杭は打たれる、触れてはいけないものへ触れる存在が消えるのは当然の事だと存じていますので」
「だから……お前の言葉でSSSランク冒険者のイヴリンが出てくる事を防いで欲しいんだよ。分かっているよな、あの子は暴走こそすれども勇者としての資格を得ている存在なんだぞ」
知っていた。いつも、アイツに悩まされる。
でも、本音を言えば暴れたところで俺への被害なんてありはしないんだよな。それに勇者という資格だって別に求めている訳じゃない。むしろ、普通の女の子として生きたいとすらも言っていたからな。それすら叶わない世界というのも残酷な話だろう。
「俺が言って止まるなら苦労はしませんよ。だからこそ、フィアナが動いてくれたんだろ」
「無論、教育は施したでござるよ〜」
「なら、イヴリンも黙っているよ。黙らないのなら一緒に寝ないとか理由を付ければ忘れてくれるからな。そこら辺は気負わずに友達に任せてくれ」
ただ、馬鹿は馬鹿でも大切な妹に変わりない。
血の繋がりは薄れたとしても、心で繋がっている以上は容易に切る事なんて出来る訳ないだろう。そこら辺も理解しているから何もしないという選択だって取れやしない。だから、俺が選ぶのは本当に中間択に近いものだ。
「……悪いとは思っている。精神年齢が高いとはいえ、幼いアランを操っているようで」
「逆ですよ。操っているのは俺だ。俺がどうしたいか決めているから話が出来る人達を囲っているだけです。だから、気負わなくていいんです。問題があればイヴリン達、『勇者』が全てを解決しますからね」
それに……今回の件も良い予感がしないからね。
どちらにせよ、動く事は決まっていた訳だから面倒事を背負う事は決まっていた。アイツを動かせるのなら簡単に済む案件だろうに……なんというか、面倒な話だよ。得られるものなんて大して無いというのに。
「アランの言いたい事は分かっている。最近、何故だか街に来る冒険者が多いからな。それに呼応して盗賊の数だって増えてきている現状、ギルド内での問題は増加している。実際……どう考えている」
「情報は高いですよ。現に俺が商人ギルドと仲良く出来ているから得たものです。聞きたいと言うからには利が無ければ意味がありません。特に、この街にはダンジョンが発現したばかりですから」
「確かに……ディストの街に……いいや、なるほどな。そういう事を言いたいんだな……となると、やはり関わって来そうなのは……」
そう、どこに耳があるか分からない。
その前提があるのならば遠回しに伝えるのは当然の事だ。確定的な情報を得ているのは俺、ハンズが持っているのは不確定な情報となれば狙う対象は俺に変化する。ただ、ここまで言えば察してくれると分かっているから俺としても安心だ。
「俺が求めるのはダンジョン潜入の優先権です。調査のために入る先行隊を俺達、勇者だけにしてくれるのならどうとでもしておきますよ」
「……確かに、調査という名目ならウチらに権利はある。とはいえ……まさかとは思うが三刻の間に完全攻略でもする気か!?」
「それはアイツ次第なので分からないです。ただ俺としてはするつもりは無いので……そうですね、六階層までは地図を作っておきますよ」
「はぁ……本当にお前らは……最高の冒険者だな」
立場上、冒険者が死ぬのはギルドの責任だ。
勝手な行動で潰れていくのは自由だが、数を減らさないで済むに越した事は無い。その役回りを俺達の方で行えれば多くの人間が幸福に生きられるだろう。そして、俺達は俺達で真っ当な人達との友好関係を築ける利がある。
「悪いが俺に利がありすぎる話だ。今度、薬草採取を主でやっているパーティーに俺個人で依頼を出しておいてやる。調査料と薬草、鉱物を依頼報酬だと思っていてくれ」
「分かりました。それで行きましょう」
「何から何まですまない。本来ならば冒険者ギルドで対処するべき事案だった。いいや、早めに情報を得て上に伝えるべき事でもあるか。ただ、今から動いたところで間に合わせられる者もいない」
「ダンジョン周囲の調査で出払っていますからね。分かっているから任せて欲しいんですよ。フィアナが居れば確実に済む案件ですし」
チラとフィアナを見ると半分、寝ていた。
二人で十秒程度眺めていたが表情は変わらずに半目で天井を見つめるばかり。やはり、この子に侍や忍という存在を教えたのは間違いだった。憧れを持つのは自由だけど根がアホの子では忠義の存在になんてなれやしないだろう。
軽く咳払いをしてやると鼻ちょうちんが割れた。
美しいと思える程に大きく丸いものだったな。漫画やアニメみたいなものが現実に存在するとは思えなくて少し感嘆しそうになったが、そうすると勘違いしそうだからやめておいた。ひたすらにジーと眺めて反応を待っておく。
「ええと……お任せあれい!」
「はぁ……俺としてはアランに任せるから安心出来るんだがな。確かに無能ではあるが……」
「それ以上は不必要ですよ。所詮は借り物の力ですから。それに俺自身が弱いから他で補っただけの事です。俺個人に才能が無い時点で頭打ち、無能という言葉もあながち間違ってはいませんよ」
「マスター殿が無能なら大概の人間はウジ未満になってしまうでござるよ。拙者達でようやく隣に立てるかどうかだというのに酷い言い草ですぞ」
コイツ……目が覚めたら覚めたで主上げかよ。
いやいや、下げられるよりはマシか。現にハンズからの評価が異様に高い事も理解しているしね。全ステータスが最低評価のGランクである俺を、最初の段階からな。あの時は冗談だと思っていたが世界を知った今となっては何も出来ない訳では無い事くらいは理解している。
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