第2話 街歩き


 ラウルの申し出から数日後、私たちは街へ繰り出していた。

 昨今は男でも日傘が許される世になって嬉しい。これがなければ、溶けるような温度だ。サングラスも必需品だな。



「フェル、なんでお外はこんなに暑いの~?」

「夏だからだ」



 人化したアルテがそう文句を言いながらも、私と手を繋いでいる。だが……うむ。暑くはあるが、アルテが迷子になるよりはいいだろう。

 ラウルは私たちの前でコーラを手にしている。普段、炭酸飲料を家に置いておらんからな。欲しいなら買えばいいと言ってあるのだが、妙に遠慮をする。自分がたくさん食べるからだ、と言うが、子どもが気にすることではないと思う。



「アルテ、しゅわしゅわ苦手ぇ……フェル、アルテは冷たいミルクがいい!」

「ふむ……このあたりで美味いミルクのある店は……」



 スマートフォンで探そうとすると、ラウルが「ウチで仕入れてるやつのが美味しいんじゃないスか?」と言う。それはそうだろう。毎日食べる物にはある程度金をかけるべきだ。少なくとも私はそう思う。しかし、それを言うと「これだから金持ちは」と悪態をつかれるのだ。私は魔に類する者としては堅実に金銭を手に入れてきた故、それなりの余裕があるだけなのだがな。今でも友人であるこの国の魔王の斡旋でたまに仕事をしている。株などの投資もしているが、あれはあくまでも副業だ。



「今日はお前との街歩きが目的だ。この辺りで手に入るもので良いものを探すべきだろう。もしかすると、意外な発見というものがあるかもしれぬ」

「あ、アルテ、あのアイス食べたい!」

「ふむ。よかろう」



 ラウルが何とも言えぬ顔をしているが、何故だ? まぁ、よい。



「ラウルも好きな物を選ぶと良い」

「……じゃ、お言葉に甘えて」



 たくさんのアイスの中から、何を食べようかと悩む彼等。小さき者は愛らしいものよ。だが、直接それを言うと、アルテはむくれるし、ラウルも「俺だって、今年で十六なんスけど?」と拗ねる。見た目はどうあれ、私のような年齢を忘れるほどに生きている数百歳の者からすれば、赤子のようなものだ。



「フェル、アルテは向こうのお店のソフトクリームにする!」

「俺、これとこれのダブル」

「ふむ。注文をよいか」



 声をかけた店員がやたらと怯えている気がする。何故だ?



「フェリクスは食べないんですか?」

「ああ……氷菓は腹が冷えるからな」

「アンタはまた、爺さんみたいなこと言って……」

「お前たちにとっては、私は爺さんみたいなものだろう」



 確かに年を取った見た目でいる意味もないため、人間でいう二十代半ばほどの姿を取ってはいるが、私は彼等の十倍以上の年月を生きているのだ。爺さんどころか人ならば『ご先祖様』と言われる年齢だぞ。

 呆れたようにそう言う私に、ラウルは「そう見える見た目にすりゃあ避けられる面倒もあるでしょうに」と言いながらアイスを受け取っていた。



「そんじゃあ、次はアルテさんの方っスね」

「早く早く!」



 アルテに大人しく手を引かれていると、ラウルもすぐ後ろについてきていた。ラウルは方向音痴だからな。はぐれると割と大変だ。それ故に外出は我々と一緒にしている。

 だが、このままでは一人で生きていけないのではないか、と少しばかり不安になる。まぁ、そうなればずっと家に居ればいいが。子を一人養うくらいの甲斐性は持ち合わせているしな。



「そういえば、なぜ外出したかったんだ?」

「この間、アルテさんが薙ぎ倒して割れた皿の代わりが欲しくて。フェリクスは物が壊れることに頓着しない割に、やれ『あの料理にはどの色の皿が』とか言うじゃないスか。壊れても俺の心理的ダメージが少ない価格で、アンタがそこそこ満足するモンを選んでもらおうかと」



 私はそんなに文句が多いだろうか。

 少し自制せねばならぬな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る