白銀のトツカ

秋乃月詠

第1話 トツカの日記

プロローグ

魔法とは様々な自然の中に潜む精霊の力を借りる代償として己の精神を精霊に返す事で使える力である。

火の精霊、水の精霊、風の精霊、雷の精霊、土の精霊、木の精霊、鉄の精霊。

精霊との特殊な契約を結んだ者だけが使える、それが魔法でその力は強大、しかし強大な魔法には強大精神の交換が必要になる。

なので長く魔法は限られた強い精神の持ち主だけが使うことを許された力だった。

しかしこの世界ではまれに一人の天才が世界の法則を覆す事がある、天才鍛冶師トツカがそれにあたる。


1 トツカの日記

魔物とは何なのだろう、異様な外見、言葉も通じないしひたすらに人間に襲いかかる。

武器を使う知能はあるにも関わらずコミュニケーションは取れない。

種類も多様で二本足で行動するもの、四本足のもの、足がないもの、実態すらないものまでいる。

今もこうして魔物と対峙しているのだが。


西のダンジョン地下三階

「おい、魔法援護どうした?」

ファイターのトトが孤軍奮闘で戦っている。

「精神力切れちゃった」

「はあ?」

「今言う?」

「今切れちゃったんだから」

精神力切れで魔法が使えないウィザード程役にたたない者はないという事は知っているそれが今自分である事も知っている。

「ごめん」

「撤退するなら右の通路ヘ、左の通路から足音が聞こえるから魔物が更に増える可能性が大きい。」

シーフのヨダカの判断は早く正確だ。

「テレポートのクリスタルがあったよな」

ファイターのトトが確認するとヨダカは明らかに嫌そうな顔をする。

「1個だけ有るけどあれ高いんだよ。いくらすると思ってるの?」

「じゃあおまえも戦えよ」

「無理だよシーフだよ俺死ぬよ、殺す気?」

「ヨダカ、テレポート使おうよトトメチャクチャ怒ってるよ」

「しょうがないな、トトこっちに来い」

3人が1ヶ所に集まるとクリスタルを足元に投げ割る。

3人を青い光が包み込む。


西のダンジョン入り口

青い光の柱が現れて消えると3人の冒険者が立っている。

「よし、成功だねのこの前は急に飛びかかってきたゴブリンも一緒にテレポートしてビックリした。」

ウァザードのウィシャーが嬉しそうに言う。

「あのゴブリンも相当驚いてたな、だからすぐに片付ける事が出来た。」

戦士のトトはさっきまで怒ってたことを忘れて機嫌は良さそうだ。

トトのこの性格には救われる、パーティーの関係の良さはコーラでもあるトトの人柄に依るところが多い。

コーラとはリーダーの事だ。

しかし当の私は高価なテレポートクリスタルを使ってしまったことが悔やまれてしょうがない、最悪一人ならどうにでも脱出出来たのにと思う。特に今回はウィシャーのせいで使わざるをえなかったと考えてしまう。

「さっきのでもうテレポートクリスタル無いぞ、次は慎重に頼む」

あーダメだ嫌みったらしい言い方をしてしまった。

「そうだな気を付けよう、まずは宿に戻って疲れを取ろう」

「二人とも怪我はしてないかな?」ウィシャーが聞く

「ああ、大丈夫だ」

「一杯やろうぜ」

トトもウィシャーも人が良すぎて冒険者向きではないのだろう、しかのこのパーティーは居心地がいい。

「ヨダカ行くぞ」

「今日はゆっくり休んで精神力回復しなくちゃ」

「それだけど精神力って増えるの?」

「えー知らない」

「今回討伐に入って幾らぐらい稼げた?」

トトに聞いてみた。

「うーん帰って計算するけど200Gくらいかな」

次の冒険の準備に110G

1人30Gてところかまあ悪くない、あと10回討伐に入ればまたテレポートクリスタル買えるかな。


町の宿 踊るカエル亭

ここは踊るカエル亭、店主いわく町一番の宿屋だ。

一階は受付と酒場兼食堂

奥に小上がりが有ってそこも席になっているが夜は歌や踊り、劇等が上演されるステージになる。

二階が宿になっていて部屋数は多い、

四人部屋が10部屋、二人部屋が5部屋、大部屋が1部屋

風呂とトイレは男女別で離れに共用がある。

男女別はこの町では珍しく女の居るパーティーには特に人気がある宿屋である。

我々下級パーティーは大部屋に寝泊まりしている。


踊るカエル亭のテーブルに腰を下ろすとウェイトレスがナイフとフォークの入ったカゴをテーブルに乱暴に置く。

「エール三人分」

エールとは穀物のお酒で先ずはエールが冒険者のたしなみみたいなものだ。

ウェイトレスが下がるとウィシャーが食事のメニュー看板を物色している、ヨダカは隣のテーブルにギルドの仲間がいたらしくシーフ同士で談笑している。

「ねえ、トトはなに食べるか決めた?」

「いつもと一緒、鳥のシチューと丸パンだよ。」

「飽きないの?」

正直飽きてる、でも金がないから一番安いこれを毎日食べてる。

ファイターは装備のメンテナンスや武器の研ぎ直し等で金がかかるのに対しウァザードは精神力とスタッフが有れば良いからあまり金がかからない、シーフはギルドに会費を払えば装備品は格安で買える。

討伐依頼や護衛などの仕事はギルド経由が多いからギルドの会費はパーティーの経費で払っている。

三人でパーティーを組む時に契約で分け前は経費を引いて三等分にした。

これは後々ひどく後悔したものだ。


ウェイトレスがエールを運んでくる。

「ヨダカエールが来たよ」

ウィシャーがヨダカを呼ぶ

「またな」

ヨダカがこちらに向き直ると三人でジョッキをぶつけて乾杯をする。

各々食事を済ますと分け前の分配に移る。

「ようお前ら稼げるようになったのかよ」

店主のランダが俺たちのテーブルに座る丸々と太った身体が椅子に悲鳴をあげさせる。

「まだまだだよ、今日も途中で撤退、もっと深層に行きたかったけど、まあ実力不足は否めないね。」

「生きて帰りゃあ立派な冒険者さ、死んでしまったら何も残らねえからな」

「そうですね、こうして三人揃ってエールが飲めてる」

「そうだそうだ、うちのエールは特別旨いだろう」

「ええとっても」

ウィシャーの満面の愛想笑い

ヨダカはこういう会話には絶対に入ってこない。

ランダが真面目な顔になる

「ところでおまえ達、トツカの剣を知ってるだろ?」

「当然ですよ、冒険者なら誰でも憧れるお宝じゃあないですか。」

「トツカは生涯7本の剣を作ったんですよね?」

ウィシャーがランダに聞く。

「いいや10本だ最初の3本は装飾品としての剣で後の7本は精霊を宿らせたマジックソードだな。」

「でトツカの情報でもあるんですか?」

「ああ、トツカは7本のマジックソードを旅の先々で打っていたから剣の所在は全く不明、唯一わかっているのはナの国の将軍が持っている1本、後の6本は未だ不明ときてる」

「もったいぶらないて教えてくださいよ、美味しいエールのツマミ話に、ね」

ウィシャーがランダに聞き出そうとする。

「まあおまえ達だけに教えてるわけでもないしな、トツカの日記が見つかったらしいんだ、東のカラカン地方の祠に有るらしい。」

「本当だったら大きなネタですけど信憑性はあるんですか?」

「それはわからねえ、俺もお客から聞いた話だから」

十中八九ガセネタだな、トツカの情報はほとんどガセだ、

それだけの伝説的な刀鍛冶だったのだろう。

ランダは言いたいことを言えて満足した様子でカウンターの中にさがった。

「ねえどうする?トツカの日記だって、本物かな?」

ウィシャーはこの話を信じてるのか?

「ヨダカはどう思う?」

「ガセだろうな、でもまあ次の予定も決めてないから行ってみるのも良いかもな」

確かに次の予定まだ考えてなかったが…

「行こう」

ウィシャーは行く気満々だ

「行くとしたら少し長旅になるからクレリックを助っ人に入れたいな、ヨダカ明日ギルドに頼めるか?」

「わかった明日ギルドに行って紹介して貰おう」

「出来れば武闘派クレリックが良いのだけど」

「そんなもん居ねえよ」


こうして東のカラカン地方を目指すことになった。


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