セブンスター
季節は春だが、夜十時というと、街灯がある舗道でも、けっこう暗い。ひとりで夜道を歩く機会の少ない
「この番号に電話をかけたら、あのひとの
桃瀬の見た目は、二十代の
ドアの
「いらっしゃいませ、こんばんは!」
ホワイトシャツに黒の腰エプロンを身につけた店員は、クリップ付きのネームプレートを胸ポケットに留めている。[給仕係/圷]と書いてある。読めなかったので視線が泳ぐと、「
「もしかして、きみ、
半信半疑といった表情で、桃瀬の名前を云い当てる。「えっ!」と驚いて顔をあげた先に、カマーベストにクロスタイというユニフォーム姿の石和が、二階からおりてきた。
「理乃ちゃん、来てくれたんだね」
石和のほうでも桃瀬の存在に気がつき、さっそく近づいてくる。紳士のような
「こんばんは。ようこそ、セブンスターへ」
店名がちがう。石和に
「昼間はレッドサンズ、夜の二階はセブンスターといって、飲酒コーナーが解禁される。んで、曜日ごとにマスターが変わる。水曜の担当は石和さんってわけ。このひと、バーテンダーの資格をもってて、カクテルを作らせたら最高なんだぜ」
石和は「副業だけどね」と、付けつわえた。本職のほかに、毎週水曜日だけカクテルマイスターとして働く。
「理乃ちゃんのために、オリジナルブレンドを作ってあげるよ。さあ、おいで」
吸いこまれるようにエスコートされてカウンター席につく桃瀬は、夢心地な気分に
十周年企画としては曜日ごとにサービス内容が異なり、今夜は食事メニューのクーポン券が
「理乃ちゃんは、アイスとホット、どちらがいいかな」
カウンター越しに
「えっと……、おまかせします」
なんとか小声でこたえると、石和は、クラシックなデザインのホットグラスを手にとり、ハイビスカスシロップと白ワインを使ったビタミンティーを作った。ハイビスカスは酸味が強いため、ハチミツをくわえる。すると、グラスのなかであざやかな
✦つづく
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