第43話 レイジアゲインストバッドスシ⑥
前回のあらすじ:
鳥路さんと松風先輩の二回目のスシバトルは松風先輩の勝ち。
◆◆◆
「鳥路さん! あなたスシバトル部に負けたのよ! 何をしているの!?」
なんか良い感じの雰囲気に浸っていた俺達を司先生が現実に引き戻す。
確かに松風先輩はスシバトル部の副部長、そのスシバトル部は鳥路さんを狙ってスシバトルを挑んできている状況。つまり、松風先輩に負けた鳥路さんは……いやいやいや、ここまで先を読んで行動してきた鳥路さんだ。きっとこの敗北も想定内のはず。
「……あっ!?」
状況を理解し慌てふためく鳥路さん。言葉を詰まらせ恐らく意味を持たないハンドジャスチャーを連発して俺と賀集さんに何かを伝えようとしている。
な、何も考えていなかった!? どうするのこれ!?
「スシバトルの敗者は勝者の言う事を何でも聞くのがルールでしたね……」
松風先輩がゆっくりと鳥路さんに歩み寄る。
鳥路さんはパニックになり意味不明なハンドジェスチャーを繰り返す。
と、鳥路さんがスシバトル部に強制入部させられてしまう!
「……スッシーコラボカフェに一緒に行くわよ、鳥路さん」
……
微笑む松風先輩。
……?
「え!?」
「え!?」
「え!?」
「え!?」
寿司同好会メンバーの声が完全にシンクロした。
「スッシーコラボカフェ!?」
コラボカフェに食いつく鳥路さん。
「確かに来月から始まるけど……そ、そうじゃなくて! スシバトル部の話は!?」
賀集さんが俺の言いたい事を言ってくれた。
「部長の
司先生がより具体的に聞いてくれた。
「最初はそうでしたが……それは昨日で決着した話。今日のスシバトルは自分のためにやったものです。部長の指示に従う必要はありません」
松風先輩がまともな人で本当に良かった。心からそう思った。
「それに……私はスシバトル部を辞めるつもりです」
「え、副部長なのに!? 良いんですか!?」
松風先輩の意外な言葉に考えるより先に声が出てしまった。
「受験もありますし、父の腕が治るまではお店の手伝いも必要になりました……それに……」
松風先輩は振り向いて親方の顔を少し見た後、鳥路さんの方に向き直した。
「私にスシバトルはもう必要無いですからね」
◇◇◇
電車での帰り道。色々なことがありすぎで何を話せば良いかわからず見慣れた車窓の景色をぼけっと眺めながら過ごしていた。司先生と賀集さんは寿司を食べに行っただけとは思えない程お疲れのご様子。主に心労だろう。
隣に座っている鳥路さんは……スッシーコラボカフェの情報をスマホで調べまくっている。本当に元気だなこの人……
「なんだかんだ全部丸く収まって良かったね、鳥路さん」
「うん」
……
会話が終わった。もう少し頑張れ俺。
「松風鮨というか松風先輩の問題、初めから全部わかってたの?」
「……偶然」
少し間があった。でも、ある程度は把握していないとあんな大立ち回りできないと思う。仮に全部わかっていたとしても、俺は他人のためにあそこまでできる自信はない。
「俺さ、今日、鳥路さんのスシバトルを疑っちゃったんだ」
「疑う?」
「不味い寿司で怒るのはまぁ仕方ないとして……勝負の結果、寿司屋を潰しかねない事になるのはちょっと違うかなぁってそう思った」
「……」
鳥路さんは否定も肯定もしない。今日のスシバトルは場合によっては大変なことになっていた事を鳥路さんも理解しているのだろう。
「でも、本気でぶつかり合わないと出ない答えもあるんだってこともわかった……だからごめん。疑ったりして」
座ったままだけど鳥路さんに頭を下げる。
「疑ってくれて構わない。むしろ、私が間違っていたら止めてほしい。私は……寿司に対して感情的になりやすいから」
あの勢いを止められるかどうか正直自信はないけど……
「その時は止めるよ、約束する」
「……ありがと」
鳥路さんとちゃんと会話できた気がする。
「本当にそう! とりっじ突っ走りすぎ! 一人で徹夜してフラフラしてた時もそう! こっちはずっとヒヤヒヤしてたんだから! 今度から何かする前に私達にも相談してよね!」
賀集さんが少し頬を膨らませて鳥路さんにクレームを入れる。
「わ、わかった」
鳥路さんも少しタジタジだ。やはり悪いことをしたという意識はあるんだな。
「折角の同好会なんだし、もう少し仲間……友達を頼っても良いんじゃない? 一人じゃいつか限界が来るわよ、鳥路さん。もちろん私にも頼りなさい」
司先生が先生らしい事を言ってくれた。
「そう……そうですね」
鳥路さんは少し照れくさそうな……でも嬉しそうな表情をしていた。
スシバトル中のかっこいい鳥路さんとは違う、年相応の女の子の表情だと俺は思った。
俺は思春期の男子らしくその表情を可愛いと思ってしまった。
◇◇◇
レイジアゲインストバッドスシ おわり
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